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場所への愛着が、暮らしをつなぐ力に

このシリーズは、暮らしをつなぎ続けるためのヒントについて、「ネイティブ」を知る様々なゲストをお呼びしてお話を伺っています。横浜の街の中にアートに出会える場所を作るというアイデアについて、象の鼻テラスの大越晴子さんにお話を聞いています。

どういう風景を見せたいか

今井 今回は大越さんご自身について伺いたいと思います。大越さんはどんなきっかけでアートに出会われたんですか?

大越 実は私、美術館に行くようになったのは大学生の頃からなんです。大学の建築学科に進んだんですが、それはもともと新聞の広告の中にある物件の間取り図がすごく好きで、見ながら自分の部屋を想像することが好きだったんです。そこからどんどん建築系へ進むことに繋がっていきました。入ったのが美大だったんですが、美大に入るためのデッサンの学校でいろんなカルチャーショックを受けたと言うか、空間をつくるというゴールに向かって組み立てていく順番の話とか、そこで得たものが大きくて。それでどんどん建築空間っていうものに対する意識を学んでいったのが大学に入ってからになります。

村上 面白いですね、建築空間って、端的に言えば箱だと思うんですけど、でも今やられてることってその箱の中身の話であって、箱っていうものが少し薄れてきたってことですか。

大越 そうなんです。デッサンの学校に通っていた時に見せてくれた、ある建築の先生の空間の作り方の考え方の順番っていうスタディ模型の本があるんですけど、まずその人にどういう風景を見せたいかっていうところから壁を立て始めるんですね。最初に箱を作っちゃうんじゃなくて、その人にどういうシークエンスを歩かせて、そこに向かうまでのアプローチがこうで、みたいなイメージからどんどん膨らませていって建築空間が成り立ってるという、思考の順番みたいなのが印象にずっと残っているんです。
今私が関わっているのはソフトを作る、場づくりだったり、出来事を作るんですけども、やっぱり最初の視点は、そこを体験する誰かの視点から、空間とか出来事の全体像を導くのが大事だなというふうに思っていて。そうすると軸がぶれないのかなっていうのがずっと大事にしている考え方です。

村上 設計事務所にもしばらくいらっしゃったという風にうかがっているんですけど、その時は今おっしゃったようなカテゴリーの設計をされてたんでしょうか。

大越 近いんですけど、家を買うような方がどういう暮らしをするかというムーブメントを先に提示して、それを設計するような営業手法を持った事務所だったんです。例えば、二拠点生活というライフスタイルを提示して、自分が身を以て実験してみて、その体験談を本にして情報発信をして、二拠点生活の価値観をつくって、やってみたいって思わせて、それが設計の仕事に繋がっていくみたいな。
最後には、体験する人に対してどういうアプローチをするかっていうのがすごく大切にされてるなーっていうのが、そこでも通じる考えだったりしてます。

村上 お話を伺ってると、障害物競走みたいなのがあって、障害といっても楽しい障害なんですけど、腹ばいになってみたりジャンプしてみたりっていう、なんかその障害の一つひとつに、例えば二拠点ではこの家、で次の家、みたいなのがあって、それがだんだんその障害物っていうのがアートになってたのかな、とお話を伺いながら思いました。人の動きを、すごく大事にされてきたってことですかね。

大越 そうですね。坂の多い町に住んでいたんですけど、3 D 的な都市体験とか、今でもアートイベントを巡りに行く時とかあるんですけど、そのアート作品をたどることが都市を体験するということにつながっています。それって最終的に人の目線に落ちていくんですけど、楽しいっていう感覚が。そういうのが好きなのかなと思ったりします。

今井 大越さんはこの象の鼻を通して、横浜での暮らしがどんなふうに楽しくなったらいいと思いますか?

大越 今までに体験したことのない出来事とかを作り出せたらいいなって常々思っています。そのことで知らない街の魅力とかが作り出せたらいいなって思ってます。

今井 我々はラジオネイティブっていう名前でこの Podcast をやってるんですけれども、暮らしを繋ぎ続ける人のことをネイティブと呼んでいるんですけれども、これまでの象の鼻でのクリエイティブな活動を何度も繰り返されてこられたなかで、それを通してネイティブってどういうことだと思いますか。

大越 場所に愛着を持つことかな、って思います。場所に愛着を持つことって、すごくいいことだと思っています。私の住んでいる最寄りの駅で、夏場になるとカブトムシを飼う水槽が出てきて、行き交う人が覗き込んでる様子が、みんなで育てているっていう感じにみえて、すごく印象に残っています。実は象の鼻テラスでも動物をみんなで飼うみたいなことができたら面白いんじゃないかってちょっと思ったことがあって。動物っていう愛らしいものをみんなで育てる事が、その場所への愛着に繋がるんじゃないかっていう短絡的なことで思ったんですけど、その場所への愛着の持たせ方に、アート的な出来事っていうのはすごく作用するっていうのが根っこにあるのかなって思います。

出来事を作り、記憶につなげる

村上 一番初めの回で、「象の鼻は休憩所なんです」とおっしゃってたと思うんですよね。ということは、立ち寄ってまたすぐ次の目的地へ行く場所だと思うんです。そこに休憩所にものすごく愛着を持ってしまうと、次に行くのいいやと、ここで終着点にしちゃおうって、ともするとなるのかなって思うんですけど。
象の鼻のいろんな活動を見ていると、定期的に色々変えたりとか、長くやって変化があるものもあるし、もっと長く展示してもいいんじゃないかって思うも1日2日でさっと引いたりとか、何かいろんな「始める」「定着させる」「閉まっちゃう」とか、なんかそういうのがすごく目まぐるしくもあるなと思うんですけど、それはすごく意識されていることなんですか。

大越  そうですね、場所の制約がすごく多くて、倉庫が全然ないので物を抱えられないっていう悲しい現状があるからそういうサイクルになったりもするんですけど。人の思い出って、誰と行ったこの時間が楽しかったっていうので、その場所の記憶って、いいものだったり嫌なものになったりすると思うんですけど 、なんかその記憶が積み重なることを作り続けるとか、出来事を提供し続けることが愛着に繋がっていくのかなと思うので、残念ながらサイクルは短いかもしれないけど、その時の記憶がどんどん積み重なって長く場所を訪れることに繋がっていったらいいなと思います。

村上 横浜に住んでる僕ですら、毎日象の鼻に通うなんてことはできないと思うんですが、年に1回訪れればみたいなとこだけど、その度に毎回くるくる変わっていると言うのは、残念なことというよりも、次またもう1回来てみようかと思う、そんないい面もあるような気がするんですけどその辺はいかがでしょうか。

大越 今おっしゃっていただいて、すごくそういえばそうだ、と思いました。なんかちょっと日々いろいろなことに追われていると、そういう大事なこと、ちょっと忘れがちになっちゃいますね(笑)。

村上 年に1回という定期イベントもされてるじゃないですか。フューチャースケーププロジェクトは今年3年目ですかね。そういう定期イベントと、不定期にやるイベントと、愛着を持ってもらうためにその辺は何か意識して企画されているんですか。

大越 そうですね、どんなかたちでも続けることが大事だと思います。今回のFUTURESCAPE PROJECTは確かに3年目なんですけど、別のプロジェクトで9年続けたものもありました。秋口にスマートイルミネーションという、アーティストが省エネ技術と創造性で新しい夜景をつくるプロジェクトでしたが、終わった後でも「またやりますか」という問い合わせを結構まだ未だに頂くことがあります。その人の中で恒例行事になっているっていうことがやっぱり嬉しいですね。

村上 定着っていうと、大きな石みたいのがドーンっていうのも定着だと思いますが、風物詩っていうものも軽やかではあるけれども定着、愛着されているものなのかなっていう気がしましたね。

今井 常に変化をし続けることは、町に暮らす本当にローカルでその近くに住んでいる人いも毎日飽きさせず、巻き込んでいく力もあるのかもしれませんね。

(文・ネイティブ編集長今井尚、写真・Nobuyuki Mekata)

次回のおしらせ

北海道美深町で、アウトドアガイドをされている辻亮太さんに、北海道の人と自然のかかわりや、天塩川を中心とした自然の中での暮らしについて聞きます。お楽しみに!

The best is yet to be!

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