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君がいなくなることはわかっていた、だから。【1】

君がいなくなる前に君から離れようと思った。
そして僕は君に嫌われる準備を始めた。
毎日少しずつすれ違いを繰り返し、会話は噛み合わず、その都度口にしていた不満すら出なくなって、いつからか目を合わせなくなった。
そうして今日、終わりを迎える。
望み通りの結末だ。

同じホームで、発車時刻が一分違いの電車に乗る。
進行方向は真逆、それがどこか象徴的で気付かれないようにふっと笑った。
君はもうこちらなど見ていないけれど。

君の乗る電車が見えて、停車を待たずに背を向けた。
僕が乗る電車もまもなく到着するとアナウンスが告げている。
ぼんやり線路の先に電車を探す。

すると突然頭が後ろに揺れた。
肩越しに振り向けば、形容しがたい君の表情とシャツを掴む手が見えた。
驚いて声の出ない僕と、唇を動かすのに言葉の出てこない君の視線が重なった。アナウンスだけが饒舌に告げる、「発車ベルが鳴り終わり次第発車いたします」「電車が参ります」。
耳障りなベルに隠れるように、君は一息で言った。

「いつかいなくなることはわかってた、だからそばにいたかった」

僕がその意味を理解した頃、発車ベルは鳴り終わってドアの閉まる音がした。
滑り込む電車の風にシャツがはためき温度をなくす。
流れゆくドアの向こう側、君はもうこちらなど見ていなかった。


■ □ ■■ □ ■■ □ ■■ □ ■

どこまでも正反対な僕たちは。


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