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四月の道化師

カーテンの隙間から差し込む光が朝日なのか夕日なのか迷った。
枕元を見上げ、デジタル時計で日時を確認する。
数時間前から四月が始まったらしい。
口の中で「卯月」と呟いてみる。

左手に視線を向けると、彼は当たり前のように椅子に座ってこちらを見ていた。
目元がほんの少し赤く見えるのは、白い壁に反射した朝日のせいだろうか。

あたしは一つ咳払いをして声を出す準備をする。
それだけで彼は椅子から腰を浮かせ、身を寄せた。

「これから言うことは、ぜんぶ嘘よ」

あたしの唐突な言葉を彼はすぐに受け止める。

「全部?」
「そう、ぜんぶ」

繰り返すと、彼は小さく頷いた。
あたしは一つ一つを確かめるようにゆっくり言葉を並べる。

「あたしはあなたが好きよ。あなたといると楽しいし、もっと話したい、ずっと一緒にいたいと思う。ここに居たいって、ずっと居たいって本当に思う。だから……だから、あたしは幸せよ」

瞬きほどの沈黙のあと、躊躇いがちに彼は言う。

「それも、嘘?」

彼が指さした一雫は、白い枕カバーへ吸い込まれていった。
その軌跡を拭いもせず、私は笑ってみせた。
できるだけ本物みたいな笑顔を作る。

「もちろん、うそよ」

この言葉も全部、ぜんぶ、嘘。
もうすぐ全部、嘘になる。



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