都電沿い3

妄想癖② × 下町商店街

『おい、それが欲しいヤツか?』
 
という声が真後ろから聞えて、つい、そろりと首をねじった。
いや、あんまり声がよかったもんだから、ドキッとして、つい。

あぁ、これは、
近所の商店街の小さな本屋での、ちょっとした出来事 ――――――

 
―――― チラリと見ると、やたらと大柄の金髪青年が立っていた。
恐らくハタチそこらだろう。
その横に、キノコ頭の男の子がちょこんといた。
食べてしまいたいくらい可愛い くりくりの目ん玉で金髪を見上げていた。
4才くらいだろうか。
 
は。・・父親か?
と一瞬思ったが、どうやら甥らしい。
キノコ坊やが、分厚い付録の挟まった雑誌を一冊手に持っていた。
 
 
金パ 「おい、それが欲しいヤツか?」
キノコ 「・・うん。これがいいからって。」
金パ 「いいからってなんだよ。ネーチャンが言うのか?」
キノコ 「うん。」 
金パ 「おっまぇバカヤロー・・あのなぁ、そうじゃねぇんだよ、お前が欲しいもんはどれなんだよ。言ってみろ!」

キノコ 「・・これ、やじゃないよ。」
金パ 「だからそうじゃねぇの。いいか・・」
キノコの隣にしゃがんだが、それにしてもデカい。
「こん中でお前が本当に欲しいもんはどれだって聞いてんだよ。お前、自分が本当に欲しいもん自分で分ってっか?あんだろ、言ってみろよ。」

キノコ「・・・。」
数十秒考えていたが、黙って遠慮がちに別の雑誌を指さした。

金パ 「これが一番欲しいんだな?」
キノコ 「ぅん。一番ほしい。」
なんだそれは。頷き方が尋常じゃなく可愛い。
 
金パ 「よし、利口だ。」
キノコ頭をぐしゃぐしゃして立ちあがる。
「お前いいか、何か買ってもらう時は自分が一番欲しいものを必ず言え。分かったな?」

キノコ 「ダメって言われたら?」
金パ 「それでも粘れ!粘ってもどうしてもダメならその時はキッパリ諦めろ。・・お前のママは怖ぇから、もし怒らせたら逃げて先にサッパリ忘れんだ!で、次もまた1から粘れ!!そしたらお前も俺みたいな大人になれるぜ!はっはっは!!」 
キノコ 「でもね!ママね!〇〇くん(金パの名前)の言葉はぜったいマネしちゃダメっていつも言ってる!!」

面白い。
金パが豪快に笑った途端、キノコがやたらと嬉しそうに喋り出した。
 
金パ 「お前なぁ・・。あぁ、いいから!もうそれ買って早く帰んぞ!」

キノコ頭を乱暴に引っ叩いて金パがレジに向かった。
金パも満足そうな顔をしている。

なんなのだろうか、この羨ましくもズルい感じの男たちは・・・ ―――――


結局また、過去の妄想のワンシーンを載せてしまった。
妄想話であり、つまりは何かどこか、わたしの理想話である。

非常に後ろめたいことに、
わたしはこうした妄想話を「今日のできごと」といった風にFBなどに投稿してしまったことが何度となくあった。
そしてこの妄想話もその類である。

”本当にあった話”として読んでコメントをくれる人たちが多くいた。
罪悪感に耐えきれず、投稿後にわざわざ夫と2,3人の友人に告白した。
こんなどうでもいい嘘をつくなんて、なんて阿呆なのだろうね。

わたしは昔から、この辺りのことがトコトン上手く機能しない。
つまり現実と空想の狭間で、
どちらがどちらかよく分らなくなってしまうのだ。
いや、
分っている部分と、空想に居続けようとする部分とが鬩ぎ合うのだ。
常に鬩ぎあっている。
半分弱 確信犯であり、半分強 抗えずイッてしまっている自分がいるとき、
こんなしょうもない行動を起こすのだ。

”あぁ、たまらない。たまらないものを見た。”
”書きたい。伝えたい。”

そうして一呼吸置かずに書いてしまうと、もうアウトだ。
家の外へ一歩も出てないのに、わたしはゼロから嘘をつく。

でももう、そうした嘘の投稿は自分の心を消耗させるものでしかない。
それを痛いほど感じてきた。
すると段々と、頭に物語が流れてこなくなっていった。
穏やかだ。
穏やかだけれど、それも段々と苦しくなってゆく。
なんて面倒な人間なのだろうか。やはり何かを”見たい”。

だから、
「”妄想です” として書いていい場」を、自分に刻み付けようと思った。
どこか、自分の創作を押し留めようとするブロックがあるのだ。
創作物を”イケナイ”と感じてしまうのだろう。なんとなく気づいてたんだ。
なんてヤヤコシイことをしているのだろうね。

noteという場は、わたしの様な人間にもどこか優しい。
未だかつてなく、書きやすい心地がしている。気がする。
ここも一種の居場所だな。

書くことはわたしをずっと支えてきた。
そして同時に、書くことはわたしを不自由にしてきた。

だから少しばかり、”後付けの逃げ道” を自分に与えようと思うのだ。
気休めだって、時には充分なほど、あたたかい。

最後に妄想話の内容に戻ると、
繰り返しになるけれど、これは理想物語。
わたしは、金パの大きな青年にどこか憧れていて、少し悔しい。
そんなオジを持つキノコ坊やがどこか羨ましくて、
やはり少し、悔しいのだ。

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