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250分で語られる愛の物語 『DEVILMAN crybaby』

 NETFLIXはじめました。冷やし中華はじめました的なやつですが、あまりにも使い古された前口上なんであまり気にしないでください。

 そんなこんなで、とうとう黒船NETFLIXが我が家に上陸し、あっさりと開国。NETFLIXといえば令和の時代に存じ上げていない人がいないくらい有名な米国発の巨大動画配信サービスで、単なる映画配信に留まらず潤沢な予算を使ってオリジナル作品をバカバカ作ったりしています。
 そして、なぜ僕がネトフリに加入したかというと、評価が高かったこいつを見たかったからなんですよね。


『DEVILMAN crybaby』

 というわけで、『DEVILMAN crybaby』を一気に見終わったので、レビューしたいと思います。(※ネタバレ全開なので、その旨をご了承いただける方のみ読み頂ければと思います。)

概略とあらすじ

『DEVILMAN crybaby』(デビルマン クライベイビー)は日本の漫画家永井豪の漫画「デビルマン」を原作に制作されたアニメーション作品。永井の画業50周年を記念して制作され、2018年1月5日(JST)よりNetflixリミテッドシリーズとして全世界でストリーミング配信されている。本作は作中の舞台を2010年代に置き換えキャラクターもアレンジされているが、基本は漫画版の展開に寄せて描かれており、一部設定は旧OVA版に準じている。漫画版「デビルマン」の筋書きを明確に踏襲し最後まで描いたアニメーションは本作が初である。リリースに際したキャッチコピーは「本当の悪魔を、まだ誰も知らない」「殺せ、本能のままに」。

泣き虫の高校生・不動明は、幼なじみの飛鳥了と再会し、危険なパーティに誘われた。そこで明は見る。悪魔に変わっていく人々を。そしてまた明自身も……。

 ちなみに、『DEVILMAN crybaby』を観る前の僕のデビルマン知識は原作はちょっとだけ読んだことがあって、ざっくりとあらすじと展開は知ってたというくらいのレベル感でした。

湯浅政明という男

 結論から言うと、この作品すげえ面白かった! 永井豪が産んだ鬼作デビルマンと湯浅政明監督という独特の個性が、悪魔合体して上手く現代的に再構築したという感じです。
 もちろん約半世紀前の作品である関わらず全くもって古さを感じさせないという点は、ストーリーの奥深さと扱っているテーマの壮大さが外せないと思います。

 『DEVILMAN crybaby』の湯浅監督についてはご存知の方も多いと思うので僕が大仰に語ることもないですが「四畳半神話大系」、「夜は短し歩けよ乙女」、「クレヨンしんちゃん」などで有名なアニメ監督・アニメーターです。
 やや癖のある画風(塗りはのっぺりしているが、大胆な構図と動きで躍動感をして立体感を表現している)と舞台芸術みたいな演出が有名で、その独特な癖にハマる方はすごくハマるという存在です。

 最初は「え、四畳半神話大系とかの人でしょ? 今までの作品ってエログロとかとはかなり違う感じだし、ファンシーでファンタジックなデビルマンになりそうじゃない?」とか思っていましたが、幻想的でありつつも、結構サイケデリックでドラッギーな世界観を作り出してくれていて、新鮮な“気持ち悪さ”表現がすごく良かったです。サバトのシーンとか悪魔が出てくるシーンも単なるリアル描写で表現するグロさではなく、不快さが表現されているのはこの作品ならでは。
 エログロもちゃんとやりきってくれるので、さすがNETFLIX !! 地上波や映画でできない事を平然とやってのける! って感じで安心して観ることができるのは良かったですね。

 あと音楽が結構いい仕事していて、おどろおどろしいシーンは怪奇で荘厳な感じが出ているし、泣かせるシーンもちゃんと泣かせてくれるのでエモエモでした。メインテーマがサタンVSデビルマン軍団の最終決戦で流れるのとか熱くなりましたねえ。BGMとして徹してくれる感じが、まさに職人芸って感じでした。

全てを受け止める存在としての聖女

 序盤の”変身ヒーローバディもの”って感じもすごく好きなんですが、中盤から終盤にかけての日常世界が崩壊していく衝撃展開の連続もやっぱり面白いですね。両親がジンメンと一体化したり、太郎君が悪魔化が進行していく感じは寄生獣の怖さに通じるものがあるし、美樹ちゃんの展開は元々原作で展開を知ってたから良かった(?)ですが知らなかったらマジで↓こんな感じでビビッていたと思います。


 この物語を端的にいうと「今まで対極にあった存在」からの影響を受けて、「対極の存在」に転化してしまった人々や悪魔が戸惑う姿を描くものなんですよね。

「力なきものが力を与えられその力に飲まれ」
「悪魔に追われていた人間は悪魔に変わり」
「愛を知らなかったものが愛を知る」

 そして、すれ違いが招く悲劇の話でもあり、自分が属しているコミュニティ(人間・デビルマン・悪魔)の存在同士がコミュニケーションすることはほぼ不可能で、基本的にはただ互いに憎しみ合う存在となっています。(途中でわかりあえたシーンみたいなのはありますが、、、)
 一方、それら全ての終着点として美樹という存在があり、彼女はほとんど聖女として描かれます。彼女だけは一貫して、この物語のなかで少し不気味なくらいに変化しないまま、全てを受け入れ、全てを赦し、そして殺されていく。変容していく人々や悪魔の最終着地点として機能するのが美樹という存在です。
 彼女はただ唯一の聖母として機能していたのですが彼女が人類によって殺され、失われたことによって世界はハルマゲドンを迎えて人類は滅びてしまうのです。この辺りのアイロニカルな感じはたまらないですね。

本当の主人公は誰か

 『DEVILMAN crybaby』は一体誰の物語なのか。それはデビルマンとして苦悩する不動明でもある一方、飛鳥了が本当が愛(と悲しみ)を知る話でもあります。実際のところ湯浅監督も、この作品の主人公は了であると明言されています。もちろん観る方によっても捉え方は違う部分もあると思いますが、僕はバトンの最終受取者である了がどう成長するかを観る作品として楽しみました。

 何も知らなかった人間(悪魔)が、今まで拒絶していたものを手に入れた時には既にもう還るところはなく……という展開は、これはある意味”泣いた赤鬼”なんですけど、最終話のラスト5分の語りのシーンは今までの全てを包括して、胸を打つ屈指の素晴らしいシーンですね。いやー、このシーンを成立させるために250分を費やしたといっても過言ではないです。これぞカタルシス。

 最後のシーンでは、神が再度地球を作り直すという身も蓋もないところに着地します。特に神に救済はなく、ただただ乱暴に世界構造を変えて終結させて新しい地球を作り出してしまう。そして、それに対する説明は作品のなかではほとんど何もないままなので、一方であと味は最後まで悪いまま、気持ち悪く着地してくれます。まるで、人生と同じでいつどう終わるかよくわからないままに唐突に終わってしまうということのように。


 ということで、仕事の冬休みでもあったので初めて長い文章でレビュー書いてみました。もっと他の作品も色々語れたらいいかなと思うので、今後も定期的にやっていきたいと思います。

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