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筋には骨のリード機能がある

今回も、先日解説した肩関節骨折後の理学療法介入例を題材に、私の知見を共有していきます。

肘周囲の手術後に肘の伸展が困難になることは、誰もが経験することだと思います。しかし、意外と知られていないのは、肩の手術後でも同様に肘の伸展が出にくいことがあるという事実です。

今回共有する事例では、上腕骨近位端骨折後に開放還元内固定術(ORIF)を実施し、私が理学療法士として介入する際に、肘の伸展が非常に困難であることを経験しました。これまで10数年にわたり理学療法士として働いてきましたが、その困難さは5本の指に入るほどでした。

このような厳しい肘の伸展制限に直面したとき、「屈筋の伸張性低下に対応しているけれど、何となくこれだけが問題ではないような気がする」と感じることはありませんか?

今回は、「それ以外」の要素の中から、私なりの一つの解答を共有したいと思います。この視点から介入を行うことで一定の効果が得られたので、参考になると思います。

それでは、解説に進みましょう。


🔶筋が持つロープ的な性質

今回お伝えしたいのは、筋は"伸びる縮む"以外の性質があることを念頭におくことの重要性です。これは、筋収縮の話、特に等尺性収縮的な話ではありません。目次にもあるように、ロープ的な作用があると考えてくことが大事だと思っています。

ロープなので、筋の収縮といった能動的な機能ではなく受動的な機能です。イメージとしては関節をコントロールする手綱的なポジションでしょうか。

これをいうと、「それって靭帯が担っているんじゃなの?」と思うかもしれませんね。ぼくの中では明確に分けています。

例えるなら、靭帯は"ガードレール"で筋のロープ機能は"車線"です。ガードレールの役割(機能)というのは、道路の外に飛び出していかないようにする最低限のセーフティネットです。ガードレールを飛び越えてしまうと崖に落ちてしまいますよね。関節でいうとそれは脱臼です。

一方、車線は車の通行がスムーズにワークするためのものです。車線がなくてもすごくゆっくり動けば事故にはならないし、いつかは多分目的地につけます(いつになるかはわかりませんww)。これを車線を設けることによってスムーズに安全に早く動くことができます。ロープ機能もこのように関節が行きたい方向にスムーズに安全に動くためのものです。

とはいえ、御託を並べてもピンとこないと思うので、もう少し人体にマッチするように解説します。

🔶骨の回転と移動を理解する【前提知識】

まず、前提知識としての知っておくべきことがあります。それは、関節運動は骨と骨の動きの組み合わせて起こっていること。そしては、骨の動きというのは、回転と移動で説明できるということです。

回転と移動を考える時に、重要なのが質量中心点というワードです。これは、物体の重さの中心点です。よく人体で考える時に、S2が人の重さの中心であるとか胸郭ならT7あたりにあるとか言われる、あれです。

野球のバットを手のひらにせてバランスを取れるところ、その場所が質量中心点です。回転はこれを支点に回転すること、移動はこの点が移動することです。

つまり、関節が動くとき、ドアの蝶番的に動くのではなく骨と骨の組み合わせて動くという理解をすることが今後より重要になります。この前提を踏まえて次の項目に移ります。

🔶骨の動きをロープを使ってリードする

筋肉の役割は、単純に伸び縮みするだけではありません。それは、骨の動きをコントロールし、体の動きをスムーズに導くための重要な機能を果たしています。

例えば、前腕の骨の動きを考えてみましょう。一般的には蝶番のような動きを想像するかもしれませんが、実際のところはそれよりも複雑です。

特に、尺骨の伸展においては、屈筋腱が重要な役割を果たしています。伸展時には、この屈筋腱が骨の動きをコントロールし、適切な位置に導くことで、手や指の動きを可能にしています。

しかし、このコントロール機能が破綻すると、例えば手術後に肘が正常に伸展しないといった問題が生じます。

🔶骨のリード能力を確認する方法

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