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エアーズロックトレイル 8mile -4-

なかなか終わらない人生に迷った人のウルルバックパック旅。

日が暮れるとウルルの乾いた大地に冷たい風が吹いて「あぁそうだ、ここは冬だった」と改めて気付かされる。
エアーズロックのサンセットを見届けた後、キャンプ場に到着。ひとり一つずつ大きな布の塊を渡され、割り当てられた小屋に入る。

今日のお宿。通常は2名部屋。

布の塊からシーツと枕カバーを取り出し早速ベッドメイク。
この小屋、まわりが丈夫なテントシートで囲われているだけで、風が吹くとゴワゴワ揺れるし、おまけに風がすごく入ってくる。やばい、これは耐えられないかもしれないと、隣のベッドのブランケットも奪って今夜の寝床を作った。

右側が食事スペース、点々と建つのがロッジ

荷物を置いて一息したら、みんながゾロゾロと調理場に集まり出し、肉を焼く鉄板の前にギューギューに陣取った。6人仲良し!みたいな雰囲気で身を寄せ合っていたのは、鉄板の前が一番温かかったから。
ドイツの高校生男子は、手のひらが鉄板につくほどギリギリまで手を近づけて暖をとって、ガイドのオーストラリア人男性から「お肉と間違えちゃったよ」と言いながら鉄板用のヘラで上から押さえつけられそうになっていた。

全員があまりに鉄板に近づくものだから、窮屈になったガイドは「ここ任せるからお肉見といて!」と言って、ヘラを私たちに預けて飲み物の準備に移動した。

お肉が焼けるいい匂いが漂いだして、ビーフステーキと骨付きチキン、サラダ、バジル味のグリルポテトとともに夕食が始まった。食べて話して笑ってお互いのバックグラウンドを知った。

アイルランドの男性は、勤めていた高校を休職して旅に出ているそう。これからの行き先はまだ決めておらず、旅の道中で出会った人と話して気になった場所に行くらしい。素敵な旅だなぁ。

私の写真をたくさん撮ってくれるスイス女性もそうだけど、みんなが自分の人生を有意義に生きているように見える。
隣の芝生は青いというけれど、私には周りの全てがキラキラして見えて、人生楽しそうだなぁと思うしかなかった。ここに来るに至るまで、いろんな思いを抱えたり辛いことも楽しいこともあったはずなのに、そんな影の部分は誰からも見えることはなく、ただ羨ましくて仕方がなかった。

ガイドは26歳の男性で、人生でまだ一度もオーストラリアを出たことがないそう。「僕は世界中から来る人を迎える立場だから。でもいつか僕が海外に行くとしたら、まず最初に日本に行ってみたい。」と。アニメが大好きで、秋葉原に行くことが彼の夢なんだそう。

食後は夜空の星を見ながら静かに過ごそうと思っていたけれど、急遽始まったカードゲームに夢中になって、結局何時間も遊ぶことになった。ババ抜きの最中に、テーブルに置いた人数より1つ少ないスプーンを気づかれないように奪い合うゲーム(名前は知らない)が特に盛り上がった。正直ババ抜きの結果は全く関係ない。

私はなぜか周りに気づかれないようにそっとスプーンを取るのが上手くて「顔に感情を出さずに、いつの間にか彼女の前にあったスプーンがなくなるんだ!すごい!あなたはミステリアスガールだ!」とドイツの男の子が興奮していた。

顔に感情が出ないのは褒め言葉ではないよ、と思いながらも誰よりもポイントを稼いだから、まぁよしとしよう。

一人で星を見て感傷に浸ろうという思惑はもろくも崩れ去り、数時間前に初めて会った人たちとカードゲームで大盛り上がりして、眠くなったら一人ずつドロップアウトしていき、私も途中で「おやすみ!」と言って寝床に戻った。きっと一人で過ごすよりもこの夜の方がずっと良かったはず。

夜空は雲で覆われていたから、どっちにしても星は見えなかった

さぁ、寒い寒いウルルの夜がやってきた!気温は1℃、吹きさらしの小屋と薄っぺらいブランケット2枚。外には簡易シャワーもあったけど、体が凍るのは必至だったので諦めた。

ヒートテックとダウンベスト、極厚タイツとパンツと、靴下は2枚重ねてあいだにメルボルンで調達したホッカイロを入れた。
それでも寒すぎて眠れない。底冷えがすごいし、すきま風とは呼べないあらゆる隙間から入ってくる風の冷たいこと!

ボイルしたエビのように、人間の身体の限界まで丸めて眠る体勢に入った。

外にはまだカードゲームで盛り上がる笑い声が聞こえる。
他には何も聞こえない。動物の鳴き声もしない。人工的な音楽さえ聴こえない。寒いことを除けば、この上なく平和な夜だった。

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