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世界で最初の女性哲学者ヒッパルキアの物語。バーバラ・ストック『哲学者と犬と結婚と』

『ゴッホ最後の3年(花伝社・2018年)』の作者バーバラ・ストックの最新作『哲学者と犬と結婚と』も、「これが日本に紹介できるまで諦めるわけにはいかない!」と思っている作品の一つです。

紀元前4世紀のギリシャに生きた、最初の女性哲学者ヒッパルキアの物語で、すでにヨーロッパ・アジア7ヶ国語へ翻訳されています。


De filosoof, de hond en de bruiloft
(2021, Nijgh & Van Ditmar, 295pp.)

紀元前4世紀、アレクサンダー大王の時代。当時、女性は男性の従属物であり、動物は人間よりも価値の低い存在、また奴隷という身分が当たり前に存在していました。

ギリシャ北部のマロネイアにヒッパルキアという若い女性がいました。哲学書を読んだり、父や兄たちの哲学談義にこっそりと耳を傾けるなど、聡明で好奇心の強い性格です。立派な家に生まれ育ってきたヒッパルキアは、裕福な家の御曹司と結婚するために、花嫁候補としてアテネにやってきます。

しかし、そこで彼女が出会ったのは、キュコニス派の哲学者クラテスでした。クラテスは一切の財産を持たず、路上で生活しながらも、人々から尊敬され、日々、伝道を施していました。

ヒッパルキアは男装してクラテスの元を訪れ、男性たちに混じって哲学的語論に参加するようになります。そして、次第に女性や奴隷、動物の従属的な立場に疑問を抱くようになります。

「本当に自由になれないのなら、どうして贅沢な暮らしを選ぶ必要があるのだろう」

ついにヒッパルキアは縁談を断り、自らクラテスに結婚を申し込みます。こうしてヒッパルキアは生涯、夫と同じ条件で、2人の子供たちとともに貧しくも明るい生活を送りました。その生き方は、当時の立派な女性なら到底受け入れられないものでした。

作者のあとがきには、次のように述べられています。

本作品の執筆中だった2016年から2021年の5年間の間に、世界的な金融危機
や、トランプ大統領の誕生、イギリスのEU離脱、Metoo運動、Black Lives
Matter運動、コロナ危機、気候変動などの現象が顕在化した。キュコニス派の哲学が現代のあらゆる出来事に際しても、強固で本質をつくものだと感じた。ヒッパルキアとクラテスに改めて示唆を与えられた。

2300年前を生きたヒッパルキアが追い求めたものは、現代社会を生きる
私たちにも通じるものであることにハッとさせられます。子供から大人まで世界史やギリシャ哲学に気軽に触れることができる作品です。

参考:


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