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私は女性であり、母であり、戦場で働く外科医である。ユディット・ファニステンダール『ペネロペ』

今回は、フランドルを代表するグラフィックノベル作家にユディット・ファニステンダールの作品を紹介します。

彼女はたくさんの素晴らしい作品を発表していますが、その中でも、「この作品を出すまでは諦めらめるわけにはいかない」と思っているのが『ペネロペ』です。

Penelope (2019、Oogachtend/Scratch、164 ページ)

ペネロペはかれこれ10年間、ベルギーと戦争地域を行き来しながら外科医として活動してきました。

物語冒頭、ペネロペがシリアの戦禍で女の子を救おうと奮闘している最中、彼女の13歳の娘はひとり、部屋で初潮を迎えます。不在の母親の代わりに祖母に電話をしてタンポンの使い方を教わります。家族にとっては、母そして妻であるペネロペがいないことは当たり前のこととして生活が回っています。

今回、シリアでの任務を終えてベルギーに戻ったペネロペ。母親とは10年間、同じ会話が繰り返されます。

「今度はどのぐらいいられるの?」
「3ヶ月。いつもそうでしょう」
「ここにいて。あなたが血の海の中で死ぬ夢を見て眠れないわ」

ペネロペは、戦場での過酷な医療活動と、家族との平穏な日常生活との乖離に次第に葛藤を強めていくことになります。

そして、同僚の男性医師から言われた一言が胸に突き刺さります。
「子供がいなかったら、僕もシリアに行っていたと思う」

私は、女性であり、母であり、妻であり、娘であり、妹であり、外科医である。

彼女は再び、戦場に戻ることを選ぶのか…。

繊細なタッチの水彩画と文章で綴られる美しい物語です。

参考:



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