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連作短歌:きくらげラヴァーとユニバース、5首2連

ある日なんの魔が差したものか、初めて買って帰ったきくらげが好きになってしまいました。詳しい経緯はこちらです。そうしてきくらげについての5首作、「ラブ」と「ユニバース」のふたつのテーマで短歌を詠みました。
こいつは何を言っているんだ、という感想はもっともです。自分でも何を言っているのかわかっていません。でも愛であり宇宙なんです、きくらげは。
 

Side.A きくらげラヴァー


きくらげにきみの気配を探してはひとつずつまた洗う真夜中

戻らない夏が乾燥しきったら戻るかなぬるま湯で10分

耳たぶをぺこりとやって木耳の固さと思うくらいの関係

キクラゲをちぎる背中ごし君も、LINEの先を知っていながら

きくらげの水気を搾る指先に君の孕ませたる何かあり


食べ物を好きになる、あたらしい好物ができる。ぶっちゃけ心の動きとしてはそれは恋と近似であると思っています。

好きになり方もいろいろで、最初「うわっ」と思ったのが何故か馴染んでしまったりとか、ふつうに一目(というか一口)惚れもあるし、嫌いだったのにある時なぜか魅力に気付いたり、とか。そう言えば最近食べてないなーとか、なんだか気づけば同じものばっかりだなー、とか。ほら、なんか恋愛みたいじゃないですか?

それでなくとも「たべる」と言う行為自体に性のイメージがあるわけだし、食べ物と私、の関係はどこかで「私と誰か」の関係に投影されているようにも思う。きくらげの濡れた手触りとかね、なんて!みたいなうたですね。特段えろくする意図はないんですけど、少しだけ引っ張られる部分はあるかもしれない。きくらげ…ひと袋70円ちょい(業務スーパー価格)のくせに、こいつ。


Side.B きくらげユニバース


きくらげを戻すボウルに見え隠れする目の色はまだUnknown

人類の先をあゆみてキクラゲはドライスリープより目覚めたり

キクラゲと水と私と相まみえレシピのように三体問題

バイバイン、きくらげの×10倍に地球を諦めたるドラえもん

十倍に溢るる木耳の汁を土井善晴は赦し給うた


どこか宇宙生物めいているな、と言うのが私の、きくらげとの出会いの印象でした。いや宇宙生物見たことないですけど。でもあの、予想を超えた戻り方、完全変態したあとのエイリアンめいた質感など、異界みが強いテクスチャに少し怯んだのを覚えています。

そもそも菌界に属する生物なので、動物界にいる私から見たらタコとかバッタとかクマムシとかの方が同じ界の住人であるぶん近いわけで、そういう意味でも「宇宙生物では?」の第一印象は当たらずとも遠くない、かもしれません。無理矢理ですが。

でもおかしな第一印象からすっかり打ち解けるなんて友達でも恋人でもよくあることなので気にしません。気にしませんが何しろインパクトが大きかったので、きくらげの得体のしれなさを詠んでみたのが「きくらげユニバース」。宇宙規模の風呂敷を最後は何故か土井善晴先生が全て持っていくのでした。なんでだ?


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