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ワールドカップの伝説

 ワールドカップに伝説の男がいる。ヤツが現れると相手チームはみんなビビる。コイツが出たら全力で警戒しろと言われている男だ。コイツが出ると必ずチームは必ず勢いに乗る。コイツはありとあらゆるチャンスまで持っていってしまう。ただ90分まるまる出れないのがせめてもの救いだ。

 今日もヤツが出てきた。しかし何というかいつもながらまるで覇気のないルックスだ。とても世界で恐れられている選手とは思えない。青白くて今にも心臓が止まってしまいそうな顔。痩せ切った体。細すぎる足。とてもサッカー選手とは思えない。しかしこの体こそがチームにとんでもない幸運をもたらすのだ。今ヤツはボールを持った相手チームのエースに向かっていた。彼はエースに近づいた途端つんのめって倒れてしまった。

「ピピーィ!」と審判は笛を鳴らしてすぐさま相手チームのエースにレッドカードを出した。ヤツはエースの前で苦痛に顔を歪ませて足を押さえて転がりまわっている。いたいよ……死にそうだよ…パトラッシュ。

 エースは抗議したが、その彼に会場から猛烈なブーイングが飛んだ。ああ!哀れなエースよ!まんまとファウルを取られてしまうとは。ヤツにファウルを取られたら確実にレッドカードものなのに。

 試合は結局奴のチームが108vs0で圧勝した。レッドカード続きでもはやキーパーしかいなくなったグラウンドで奴のチームはキーパーまで出てきて点の大量生産をしていた。

 試合後ヤツはインタビューを受けたが、そこではにかんだ顔でこう言った。

「ちょっと連続で転んでみました。少し転びすぎかなって思ったけどチームが勝つためにはしょうがないです」

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