誰にも選ばれない恐怖

人は透明人間になれる。

誰にも選ばれない恐怖を味わったときに、透明になるのだ。

それは「花いちもんめ」で誰も指名してくれないとき。

「好きな人と組んでいい」と言われ、最後まで残ったとき。

恐怖のふりした孤独は、人を透明人間にさせる。

ねえ、誰か気づいてよ。「いっしょに遊ぼう」と言ってよ、と心の中で叫んでも、みんな一人になるのは嫌だからとっとと近くの人と組んで、哀れみのような安堵の表情を浮かべるのだ。
 それは大人になってからも続く。どこかに所属をしてもアテにしちゃいけない。所属するのが当たり前だった人生しか送ってこなかった人間は、所属していない人間の気もちはわからない。


 ある音を聴いた私は、そんな記憶が蘇った。
そして、恐怖に種類があることを知った。
 未知のものが迫ってくる恐怖と「誰もいなくなる」恐怖。そういうものが、この世には存在していて、時々、人を苦しめる。
 今、この瞬間にも「誰もいなくなる」恐怖の被膜が、誰かを襲っているかもしれない。そうしたら手をさしのべられるだろうか。
 私はさしのべたい。
 でも自信はない。だって「誰もいなくなる」のだから、私がそこに居られるのか残念ながらわからないのだから。でも、目の前でそんなことが起きたら、透明人間は絶対に作らない。いつまでも私の心に生き続ける透明人間だった「私」だけで、もう充分だから。
 手を差しだせる人間でありたい。

                    

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