見出し画像

学校図書館を専門にサポート――北海道学校図書館づくりサポートセンター

 一般社団法人北海道ブックシェアリングが2020年4月15日に設立した「北海道学校図書館づくりサポートセンター」(所在地:北海道江別市)を見学してきました。利用料は無料ですが、完全予約制です。学校図書館をサポートすることを目的とする施設で、全国的にもかなり珍しいそうです。しかも、サポートセンターがあるのは小さな商店街。「だれもが豊かな読書機会を享受できる北海道にしよう」という理念を掲げ2008年から活動する北海道ブックシェアリングが始めた新しい取り組みをご紹介したいと思います。

「自ら答を出す力」を育む学校図書館を整備

 JR北海道の大麻駅を降り、徒歩15分ほどにある「大麻銀座商店街」にサポートセンターはあります。以前、古本屋だった「ブックバード」を改装し、オープンしました。

画像2

 実は改装段階からちょこちょこ見学させてもらっていましたが、完成後に見学した時の印象は「学校の図書館」でした。冊数こそ学校図書館に比べれば少ないですが、それは学校図書館におおすすめの本を揃えているため。小中学校の学校図書館向けの見本図書およそ2,500冊が、0類~9類の日本十進分類法に沿って本棚に並べられています。一度に学校図書館向けの本を見比べることができるのは、学校司書の方や一般の先生方にも有難いと思います。実際、私自身が夢中で読み比べていたところ、気付けばすごい時間が経っていました。
 サポートセンターを担当する竹次さんによると、「学校図書館は近年、児童や生徒の『自ら答を出す力』を養い、育む場としての活用が求められています。このため、調べ学習や自主学習、さらにはディスカッションなどによる対話的で深い学びや情報発信能力の涵養などに対応した学校図書館づくりや蔵書のラインナップが進められています」。時代のニーズに合わせて学校も図書館もより良い方向へと変化していくことが求められているのですね。

画像3

図書を使った学習指導案も提供

 最新刊の図書だけではなく、学校の図書館づくりに有益な情報やサービスも提供してくれます。例えば、最新刊のチラシや選書リストなどはもちろん、北海道学校図書館協会や道立図書館の情報も入手できます。
 驚いたのは、司書教諭の方が図書を使った学習の学習指導案があったことでした。センターの運営にあたっては、「以前から関わりのある司書さんや先生方にも協力してもらっているんですよ」と竹次さん。実物があって、さらにその活用方法まで紹介してくれるなんて、先生方には大助かりなのでは。気に入ったものがあれば、その場で注文も可能です。
 私が訪れた時には、たまたま、とある学校司書の方も来られていて、「この看板の数字のフォントが親しみやすくて、すごくいいですね」「それは○○という無料イラストサイトでダウンロードしたものです」「使ってみます!」という会話がなされていました。子どもたちにとって、いかに図書館を使いやすく、親しみやすい場所にするのかを日々考えられているのだなと、当然なのですが感心しました。
 またセンターは、「学校図書館づくり工房」として学校図書館で必要な備品や装飾品、本の修復などのお手伝いもしてくれます。

画像4

最新のSDGs関連図書も充実

 私もセンターのサポートをさせてもらいました。どんなお手伝いかと言えば、SDGs関連本の紹介と目標ごとの選書です。SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは、Sustainable Developmnet Goalsの略で、2015年に国連で策定された世界共通の17つの目標のこと。日本語では「持続可能な開発目標」と訳され、その内容は「環境」「社会」「経済」といった持続可能性に関わる世界共通の問題を網羅しているといわれています。
 文科省は、2020年度から本格的実施を迎えた新学習指導要領に沿って、SDGs達成の担い手に必要な資質・能力の向上を図る優れた取組に対する戦略的な支援するとしています。つまり、学校でもSDGsに関する学習が求められているのです。そのため、子供向けのSDGs関連図書が多く出版されているのです。ただしその内容はそれぞれで、SDGsを網羅的に紹介するものから、各目標を紹介するものなどがあり、難易度もかなり違います。学校司書や先生が選ぶのはなかなか大変な作業だと思われます。
 そこで、これらの図書がどんな場面で重宝しそうかコメントさせてもらいました。また、17の目標ごとに理解を助ける図書を選ぶお手伝いをしました。サポートセンターの竹次さんと、意見を出し合いながら選書したので、ぜひぜひ見学してくださいね。

画像5

地域や学校間にある図書環境の格差改善を

 文部科学省が2016年に発表した「平成28年度 学校図書館の現状に関する調査」によると、公立小中学校の学校図書館図書標準の達成率(各学校における学校図書館図書標準に基づく蔵書冊数の達成割合)において北海道の小学校がワースト1位の35.2%でした。トップの岐阜県は98.1%。全国の公立小学校の66.4%、公立中学校の55.3%が達成している(図:全国の公立小・中学校における学校図書館図書標準の達成率ごとの学校の割合、文科省)ことを考えても、いかに北海道の子どもたちの図書環境がよろしくないかが分かります。

booksharing_文科省データ

 図書環境に関わる課題は学校図書館だけではなく、実は書店のない自治体が多いのも北海道の課題だそうです。とにかく、道内の子供から大人まで、図書に触れる機会が他の都府県に比べて非常に少ないという現状があるようです。「学校図書館の調査で地域や学校の間の格差を感じてきた」と竹次さん。実際に道内各地に足を運び、現状を見てきたからこそ始まったのが今回の事業なのです。

 北海道ブックシェアリングは、道内の図書環境改善だけでなく、大麻銀座商店街をはじめたとした「まちづくり」、東日本大震災や胆振東部地震での支援活動など、多岐にわたる活動をされています。活動が多様だからこそ、学校図書館づくりへの適切なサポートができるのだと思います。是非一度、足を運んでみませんか。ご利用の際は事前予約が必要ですので、「北海道学校図書館づくりサポートセンター」へ、忘れずにご連絡をお願いします。

■利用可能な時間
 平日:午前10時~午後9時
 土祝:午前10時~午後7時
 定休日:日曜(イベント開催期間もお休みになります)
 ※イベント開催日や予約状況についてはカレンダーでご確認ください
 ※来館のキャンセルについては3日前までにご連絡ください

<参考>
一般社団法人北海道ブックシェアリング
・2020, 竹次奈映「『北海道学校図書館づくりサポートセンター』のオープン」カレントアウェアネス-E. 2020, (392), E2265.
北海道学校図書館づくりサポートセンター
2016, 文部科学省「平成28年度『学校図書館の現状に関する調査』の結果について(概要)」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?