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読書記録#4 「社長の条件」

冨山和彦さんの本は難しめで読むのに時間がかかるという印象があるが、今回手に取ったこちらは、日立の改革を牽引し経団連会長も務める中西宏明さんとの対談式で口語のまま書かれており、とても読みやすい。社長人事や後継者育成、コーポレートガバナンスに興味がある人は読んでみて、特に興味を持った部分をさらに別の書籍で深掘りするのがよいかもしれない。またトピックは新卒採用や出戻りの歓迎などタレントマネジメント全般へも波及する。総じて専門性を深めたい人よりも人事部門以外の人や人事組織の入門者向け。


本書のポイント

・以前の社長選びは工場のオペレーションがちゃんとできた人からであり、サラリーマンのゴールとして社長のポジションが位置付けられていた

・以前の社長決定は、現任者の専権事項

・経営環境の変化の今よりスピードが遅く、現状オペレーションの改善改良が経営向上に求められていた時代では、そのような人選でも問題なかった

・現在はデジタルトランスフォーメーションとグローバル化により計算できないことが起きる。それに対処するには改善思考のリーダーよりも自分で決断できるリーダーでないといけない

・経営者というのはひとつの専門職。計画的に育成をしていくしかない

・そのための一つにタフアサインメントをすることが有効。苦戦している事業、経営難の子会社など「有事」が起きている会社の責任者・社長などがその例となる

・負け続けている日本企業にもまだポテンシャルはある。破壊的なイノベーションの力と改良的なイノベーションの力のうち、昨今は前者が圧倒的に有利なゲームだったが、これからの世界でMaaSや医療ロボットなどに見られるようにシリアスな領域が増えてきており、日本の社会がもともと持っている改良的なイノベーションの力が注目を浴びている

・また、執行のレポーティングを審査する守りではなく、企業の成長を実現する攻めのガバナンスの構築も必要

・社長の選任も現任者の専権事項ではなく、社外取締役から構成される指名委員会がきっちり絡んで決めていく時代になった

・最適任なCEOをどう選び、激しく厳しい経営環境のなかでの舵取りを応援するか。逆にパフォ ーマンスをモニタリングしてダメだったらどう軌道修正し、場合によってはクビにするか。強くて有能なCEOを作りだす一方で、暴走したらすぱっと辞めさせる。これこそがボ ードの最重要な機能

・そのためには社外取締役の人選も経営の命運を決める

10年ほど前から社長要件は転換期を迎えている

社会の動きを見ていても、社長の要件は大きく変わったように思う。以前は社長ポストはサラリーマンの上がりとして位置付けられていたのは確かだろう。変化のスピードが遅く、的確にオペレーションを回していれば業績が上がった時代では、課長・部長時代から調整力が高く、目の前の業務改善も適切で着実に成果を上げてきた人を選べば確かに良かったのである。ここ10年くらいで日本企業はアメリカやそしてアジアの企業にも市場で劣後し始め、これではまずいと気がついてから、先進的な企業で外部から「プロ経営者」が着任したり、社内での社長育成に本腰を入れ始めたように実感する。今では調整力よりも、軋轢が生じる可能性が高くても動じず決断できるか、そしてそれをやり切れるか。そういった力が社長に求められている。

もっと早くから転換していれば、とも思う。そして一方でまだまだオペレーション育ちの人材が社長につくケースがゼロではないのも事実である。

タフアサインメントの対象となる人材を若手から計画的に育成する必要あり

本文中に出てくるタフアサインメントは経営者育成では中心となる議題ではあるが、果たしてこの機会を十分に創出できる企業は多いだろうか。アサインメントの場もだが、アサイン対象者は潤沢だろうか。
タフアサインメントでは、順調ではない事業や会社を任されることも多く、もちろん結果が出ればよいが、市場環境や経営判断によっては撤退や清算の対象となることも多いだろう。そのような環境にエース級をアサインするのは実は簡単ではない。出来る限り好調な事業にエースを投入してさらにアクセルを踏ませたいと思うことも多いはずだ。そういう意味では、経営者育成をしようと企画し、タフアサインメントを企図しても、そもそもエース級が潤沢にいないとこの企画もうまく回らない。やはり社長直前の役員やその下の階層だけではなく、若手から中堅まで長いパイプラインを作って計画的に育成をしていかないといけないだろう。(実際に入社数年目社員を対象に選抜を始めている企業もある)

指名委員会の設置は増えて欲しいと思う

日本企業の中では未だに経営判断を社外の人に口出されたくないという価値観もある。確かに中にいない人に何がわかるのか?と言いたい気持ちはわかる。しかし、今後の経営を左右し従業員の命運を担うような社長人事を果たして現任者が絶対に的確に判断できると、どこまで自信を持てるだろうか。また、その人を見る目が確かだとしても、プロセスとしてクローズドな決定がされることは昨今の風潮としては倦厭されるのではないだろうか。少しでも外部のオープンな評価が入るだけで周囲からは信頼感が増す時代でもある。経営者としては感情とのせめぎ合いもあるかもしれないが、ここはぜひ指名委員会の検討を前向きに検討してほしいと思う。
本中に事例で出てくるが、みずほグループは全員が社外取締役の指名委員会を設置している。あの保守本流のようなみずほがこの決断をしているのだから、うちの会社もできそうだと思う経営者が増えてくれたらいいなと思う。

GEの例から学ぶサクセッションプランの対象

計画的な経営者育成で有名な企業のひとつにGEがあるが、今年驚きの展開があった。長年社内で育ててきて登用した社長が退任し、外部から社長を起用したのである。ここに経営者育成の難しさを見た。あのGEですら、社内で社長を育成しきれず、外部調達をしたのである。GEのことだから社内の経営者育成に注力しつつ、うまく機能しなかった場合に備えて外部のプール作成も怠ってはいなかったのだろう。サクセッションプランニングではつい社内に目が行きがちだが、社内だけでなく社外も広く見ておく必要性を思い出させる。GEの「事件」は改めてひとつの勉強材料になったのであった。

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