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読書記録♯3「他者と働くー『わかりあえなさ』から始める組織論」

職場には、自然と周りを味方にできる人、部門横断プロジェクトの推進が上手い人というのが存在する。そのセンスを先天的に持つ人もいれば、苦労を重ねて努力の結果身につけた人もいる。今回読んだ「他者と働く」は、そういった巻き込みが上手な人の思考と行動をわかりやすく説明かつ読みやすい本だった。組織マネージャーやプロジェクトマネージャーなど複数の人を巻き込み、動かすことをミッションとしている人は一読の価値があるかもしれない。総じて現場視点の強い本ではあるが、自己の成長だけでなくどのように組織的に対話を生み出すかを考えていくきっかけとするのも良いかもしれない。


本書のポイント

・私たちの眼前にはたくさんの「武器 」があり、戦術や戦略がある。それらの武器でなぎ倒されたあとに残るのは、一筋縄で解決できない組織の壁や政治、文化、慣習などでがんじがらめになった「都合の悪い問題」ばかり。既存の方法で解決できる問題のことを「技術的問題」(technical problem)、既存の方法で一方的に解決ができない複雑で困難な問題のことを「適応課題」( adaptive challenge)と定義

・この適応課題をいかに解くか、それが本書で伝える「対話」である。対話とは、「新しい関係性を構築すること」である

・対話について重要な概念を提示した哲学者は、人間同士の関係性を大きく2つに分類。ひとつは「私とそれ」の関係性であり、もうひとつは「私とあなた 」の関係性。「私とそれ」は人間でありながら、向き合う相手を自分の 「道具 」のようにとらえる関係性のことであり、「私とあなた」の関係とは、相手の存在が代わりが利かないものであり、相手が私であったかもしれない、と思えるような関係のこと

・対話とは「私とあなた」の関係なること、つまり自分の中に相手を見出し相手の中に自分を見出すことで、双方向にお互いを受け入れあっていくことを意味している

・「私とそれ」の関係を構築してそこから適応課題が見出されるとき、関係性を改めなければならない。その時に変えるべきものは自分の「ナラティブ」である

・ナラティブとは物語、その語りを生み出す「解釈の枠組み」のこと。専門性、職業倫理、組織文化に基づいた解釈が典型的

・こちらのナラティブとあちらのナラティブに溝があることを見つけて、橋をかけていくことが対話である

・溝に橋をかけるプロセスは、準備「溝に気づく」→観察「溝の向こう側を眺める」→解釈「溝を渡り橋を設計する」→介入「溝に橋をかける」

・想定外のことは色々と組織の内でも外でも起きるが、そうした想定外のことが起きたときに、対話の 4つのプロセスを意識して回していくことで、想定外のことが起きれば起きるほど強くなる人と組織へと変化していくことが実現可能

・上司と部下の関係、経営と現場の関係、新規事業部と既存事業部の関係など、あらゆる関係の改善にこの対話は有効

個人としての成長に役立つ

企業の中で仕事をしていれば、誰しもが心当たりのある内容であると思う。そのため、本書の内容も、他のビジネス書で見たことがあるようなものはある。「一歩引いて見ている」「本質的な課題を見極める」「正論で攻めるのではなく相手の気持ちに立って考える」などは語り尽くされてきたことである。そんな中、本書のいいところは「ナラティブ」という今まであまり使われてこなかったであろうワードを使って、対話とは「相互のナラティブに橋をかけることだ」という新鮮な説明をした点だ。このように抽象度高いセンテンスを最初に言及しそして定義することで、その後のどんな関係性のねじれもその方法で解決する、という一本筋で説明することが可能になるし、読み手も具体的な事象は違っても抽象化すると「ナラティブ同士に橋をかけることだ」と認識できるので、「対話」の価値をより理解できる。

組織マネージャーとして指導や育成をしている人、プロジェクトマネージャーとして複数の部門や機能をまとめて事業や製品を作り上げている人にとっては、明日から使えるtipsが多いと思う。ただ一方で、有能なマネージャーの方々にとっては「そんなことは当たり前だろう」と言うかもしれない。それくらい、基本的なことを教えてくれている本だと思う。個人として成長し、企業内で頭角を現したい、このプロジェクトを成功させたい、成果を出したい、という意欲には応えられる本だと思う。

さらに踏み込んで:組織として対話を生み出す仕組みを考えたい

もう少し俯瞰的に、経営目線で考えてみたい。筆者は、こういう本を読むたびに思う。そりゃ、この対話力を全社員が持っていれば、経営も苦労しないよ、と。自己成長への意欲や事業貢献への能力アップとして自ら学び自分で成長できる人は、企業にとってはありがたい存在であるが、そんな人ばかりではないから企業経営は大変なのである。

やはり、この対話を生み出すための仕掛け・仕組みが必要であり、その構築努力をし続けないといけない。対話力をマネージャー登用要件とする、対話に重きを置く組織文化を構築する、対話を促すための評価軸・プロセスを設計するという直接対話にアプローチする方法もあるし、どのような対話を生み出したいかの視点でアプローチする方法もある。例えば全社業績への意識づけ・その対話を生み出したいのであれば、賞与を会社業績との連動を強める(極論個人業績の評価をやめる)ことをきっかけとするということもありえる。これらは大括りかつ一例でしかないが、その企業の置かれている経営環境・現在の組織文化・企業ステージによって様々なので何が一番効くのか仮説を立て、実践し改善する、ということまで考えていきたいものである。

この本を読んだ結果として自分の成長だけでなく、それを組織的に行うにはどうしたらよいかまで広く深く考える人が増えるとよいと思うし、それのディスカッション素材としては良い本かもしれない。この本にはその施策案は書いてないからこそ自由な発想が出てくるかもしれないなと思ったのがそう考えた所以である。

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