読書感想文『ブラックサマーの殺人』

M・W クレイヴン『ブラックサマーの殺人』

『ストーンサークルの殺人』に続いて2作目のワシントン・ポーが活躍するミステリー。

ストーンサークルの殺人に比べると、真相が分かったときの衝撃とか、事件の動機に対しての心揺さぶられる感覚は少なかった。
今回はサイコパスが相手だから当然と言えば当然かもしれない。
それと、私がストーンサークルの時はじっくり推理し考えながら読み進めたのに対し、今回は推理を疎かにしてドンドン読んでしまったのもある。先が気になりすぎて。
ちゃんと考えるからこそ(考えてもだいたい謎は解けないが)、種明かしの段階で興奮できるのだと改めて感じた。
結末が気になるからって、思考を止めてはいけないのだ。
これは自分の反省として肝に銘じようと思う。
ミステリーを限界まで楽しむには、急がないこと。

今回もポーとティリー、フリン警部の掛け合いは非常に良かった。想像して笑顔になれる。皮肉とかおちょくりが軽快。
フリン警部の汚い言葉遣いを、ティリーが柔らかい表現に直すシーンも楽しかった。
ファッキング→フリッピング など。
育ちとか性格は言葉に出るよなあ、と思った。

あとはやっぱりリグが良い。自分の正義をしっかり持っていて、権力に屈しない。その時自分が正しいと信じる方につく。主人公になってもおかしくない人物だと思う。次も出るといいなぁ。

それから、ベジタリアンとか同性愛者が普通に出てきて、登場人物間に偏見なく(もちろん描かれていないだけで、いろいろあっただろうと想像できるが、少なくともポーや他の主要人物は別に普通のこととして接しているように見える)存在しているのが素敵だと思った。
現実世界でもみんなこうなら良いのに。

本作はすぐに消化しきれなかった部分がいくつかあったので、メモがてら考察してみる。

①ジェガド・シェフ(エレーネ・ジェガド)の解説はないのか?
ジャレド・キートンシェフの親友、恩師という設定のジェガドについての解説が最後まで出てこなかった。前述の通り私がバンバン読み進めてしまったことによって、読み飛ばしているのかもしれないが…
ジェガド・シェフの名前がはじめて登場したタイミング(最初のスーツの男とジーンズの男が会食する場面で、スーツの男の発言に出てくる)で、私はググった。人の名前ではなく、ジェガドシェフというシェフの種類(役割)があるのかと思ったからだ。
「ジェガド・シェフみずからパリから持ってきたもので、彼女がその鳥を生きたままブランデーで溺れさせてから〜…」というセリフだが、『彼女』も引っかかった。ここまでで女だとわかる登場人物は出ていなかった。
知らない単語があったらすぐにググる癖がある。
そうしたら、シリアルキラー エレーヌ・ジェガドが出てきた。こちら
フランスの家事使用人で、雇われては殺人を繰り返し、18年で36人も殺したらしい。

これをみて、なるほど、この殺人鬼に絡めた犯罪なのかな?と思ったのだが、最後まで彼女は直接的な登場はしなかった。会話にしか出てこない。
冒頭近くの、トリを捕まえてレストランに持ってくる場面はおそらくジェガド目線の描写だろうが、ただのシェフとしての行動だし、それ以外出てこない。

私の解釈はこうだ。
まず、「イギリス人はエレーヌジェガドをよく知っている」。
つまり、彼女はイギリス人にとっては有名な悪党、日本で言うところの…と書こうとしたが恐ろしいからやめる。有名な悪党で、彼女の名前を出すことで、サイコパスとか、恐ろしいことが起こりそうだと連想させる効果を狙った。
もしくは、知らなくても私のように検索すれば同じことだ。
解説がなかったのは、イギリス人(というか、彼女はフランス人だからひょっとしたらヨーロッパの広範囲で有名なのか?)からしたら当然知ってる人物だったのかも。
もしくは、次作以降に出てくるのかもしれない。キートンを超える悪党として。

②ポーが母から捨てられたことによる影響の大きさ
ポーは、生まれてすぐ母親がいなくなっている。真実を知るまえのポーは、母親に裏切られたと思っている。
母に捨てられたから、怒りを抱えた子供になり、常に悪いオオカミに餌を与えてきた。
私はこれを読んで、母に捨てられた影響大きすぎない?女性への不信感から女性とまともに付き合えなかったのはわかるが、自己破滅的な行動をするのまで母に捨てられたことが影響するのか?と疑問に思った。最低だけど。
が、すぐにきっとそうなんだろうと思い直した。私が親に捨てられたことがないから分からないだけだ。育つ環境は重要だし、たぶん両親がどちらもいる家庭で育った人には想像できない苦しみがあるだろう。しかも捨てられたなら尚更だし、自分は生まれるべきだったか?と自己肯定感に影を落とすのも分かる。
考えれば分かる。想像力が足りなかった。

③「ややかみでがある」?
どうしても意味が分からなかった表現がある。

三つ星レストランで出すわりにはややかみでがあるが、味わいがそれを補ってあまりある。

この文章がよく分からない。小説中盤、ポーがバラス&スローで子羊を食べるシーン。
ややかみでがある。。?
噛みごたえのことだろうか?
やや、「かみで」がある…?
調べたところ、噛みごたえの類語として「噛みで」が出てきた。本当にこの言葉は知らなかった。
つまり「三つ星レストランで出すには噛みでがある(硬い)が、そんなの気にならないくらいおいしい」ということ?
多分これであっていると思うが、誰か正解を教えていただきたい…。

『ブラックサマーの殺人』の感想は以上です。次はそのまま『キュレーターの殺人』を読もうかな。

今年は、読んだすべての本に対して感想文を書きたいと思っている。
去年末から(母性、ある男、占星術の殺人…あたりから)たぶん全部書けているので、続けたい。
アウトプットすることで自分の中でも整理できて良い。
ビジネス書(あまり読まないけど)とか漫画も書こうか…書けるかな…。。それを言ってしまうと、一昨日『ミステリと言う勿れ』の最新12巻を読んだのだが、まぁ完結してない作品は良いとするか。
ゴールデンカムイは書いておきたいな…。完結してるし。

『ブラックサマーの殺人』の文末に載っていた作者の謝辞より下記を抜粋して、未来の自分を激励しておく。

すべてのブロガー、書評家、そして読者のみなさんへ。本というのは、書かれた文字が人々の頭のなかで絵を描いてはじめて本になる。これからも読んで書くことをつづけてほしい。それに感謝しない作家など、この世にはひとりも存在しないと保証する。

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