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2人の「エヴァンス」と「マイルス」

2月4日(日)に、日本橋三越新館「カルチャーサロン」で開催された「大人のJazz講座ミニライブ付」は、Jazzのイノベーター=改革者、マイルス・デイヴィスを取り上げ、特に「モード時代」にフォーカスしつつ、「モード」というものがどういったものであるのかを教えていただきました。

2/4の1DAY大人のジャズ講座の内容が固まった。 * ジャズ先駆者 MILES DAVISとジャズ叙情詩人BILL EVANSの初期活動と出会い * 画期的なアルバム「カインド・オブ・ブルー」の由来 * モードとムード(クイズ付き) *...

Posted by カッツ ジョナサン on Wednesday, January 31, 2024

7つのモードがあるそうで、
Ionian(Major) イオニアン、
Dorian ドリアン、
Phrygian フリジアン、
Lydian リディアン、
Mixolydian ミクソリディアン、
Aeolian アエオリアン、
Locrian ロックリアン
という専門用語の登場でかなり難しかったですが、各モードには、関連付けられたムード(感じ。印象)があるそうで、たとえば、Ionianは明るい印象というように、クイズ形式で、彼が演奏した「FLAMENCO SKETCHES」を題材にした「モード当てクイズ」は、非常に分析的でしたが興味深かったですね。

そして、マイルスは、2人の「エヴァンス」と出会っています。

1人は、よく知られている、ビル・エヴァンスですが、その前に、もう1人のエヴァンス、ギル・エヴァンスに出会い、大きな影響を受けたのでした。

私は、以前に、
マイルスの伝記的な映画『クールの誕生 Birth of the Cool』と、
ビル・エバンスの伝記的な映画『Around Midnight』

を観たことがありましたが、なかなか興味深い内容でしたね。

https://www.facebook.com/story.php?story_fbid=3875439029152450&id=100000591726100

早速、アップリンク吉祥寺で観ることができました。 さすが、クールというタイトルが付いているとおり、非常に“クール(マイルス△=マイルスさんカッケー♪)”でしたね。 まず、ナレーションが驚き(生前に録りためていたのか?)でしたが、さて、本...

Posted by 池淵竜太郎 Ryutaro Ikebuchi on Monday, September 7, 2020

2020年9月8日 · 東京都 武蔵野市 ·
『マイルス・デイヴィス クールの誕生』を、アップリンク吉祥寺で観ることができました。

さすが、クールというタイトルが付いているとおり、非常に“クール(マイルス△=マイルスさんカッケー♪)”でしたね。

まず、ナレーションが驚き(生前に録りためていたのか?)で、マイルス・デイヴィスその人が語っているのかと思いましたが、さて、本編終了後にエンドロールを凝視していたら驚愕の事実が!

映画を観た後は、是非ともパンフレットで“補完”するのもオススメです。

個人的には、伝説の『死刑台のエレベーター』での“即興”演奏風景をドキュメンタリー映像で観ることができたのが収穫でしたね。

それと、さらに個人的には、ビルよりもギル・エヴァンス(彼らに血縁関係はない)が好きなひねくれものなので、彼を全面的にフィーチャーしてもらったのも大変嬉しかったですね。

晩年のビル・エヴァンスは、先日の伝記映画『ビル・エヴァンス タイム・リメンバード』によると、ロングヘアーにジーンズファッションに身を固め、まるで、ヒッピースタイルのロックミュージシャンのような風体でテレビ番組に登場して、あの、黒縁メガネを掛けて、ピアノにストイックに向かっていた、まるで哲学者のような表情をしたビルは何処に行っちゃったの?(ジャズのショウビジネスという表舞台からの終焉の象徴?)という感じでした(程なくして急逝)。

が、それに対するギルとマイルスはお互いにフィーリングがバッチリ合うらしく、当時の音楽界を席巻していたロック&ファンクスピリッツも持ち合わせ、まるで歳の離れた兄弟のような雰囲気を漂わせている。

少年時代から、裕福な家庭に育つも、深刻な黒人差別に常に晒されながら、それでも、自らの成功体験を拠り所に、果敢にそれにチャレンジするも、それでもなお、時には露骨に、また時には陰険に差別を受け、人間不信というか、白人不信に陥っていたマイルス…。

いわゆる、インディアン&黒人嘘付かない。白人嘘付く。

ただ、唯一の例外がギル・エヴァンスで、彼はカナダ生まれのユダヤ系の血を引いていたことが、ひょっとしたら彼らが固い絆で結ばれた理由の1つだったのかもしれないなと密かに思っています。

1980年に公開された英国映画『炎のランナー』で、ユダヤ人の矜持を保ったまま英国陸上陣の栄誉ある代表“the Englishmen”の一員(ただし、この物語のもう1人の主人公、エリック・リデルもスコットランド出身という複雑な構成で信仰上の理由が、後々五輪の競技の出場拒否にまで大問題を引き起こすことになる)に選ばれたハロルド・エイブラハムは、アラブ系の血を引く有能なプロコーチ(当時のアマチュアリズムを是とするオリムピック界からは大顰蹙を浴びる)、トム・ムサビーニ氏の指導を仰ぎながら、彼に向かって告白します。

オレたちユダヤ人は、英国では、川縁には連れて行ってもらえる。だが、そこで水を飲むことは許されないんだ。

英国“the united kingdom”(王国連合といっても、実質的な支配国イングランドと、スコットランド、ウェールズ、さらにはアイルランドの一部が併合された国家なので、一枚岩にはなれない宿業を帯びている)で、マイノリティのユダヤ人とアラブ人が手を組んで、世界大戦終了後の1920年に開催される「パリ・オリムピック」の花形競技、男子百メートル走で、二人三脚で金メダル獲得を目指す。

まさに、マイルス・デイヴィスとギル・エヴァンスが手を携え、音楽業界の“金メダル”獲得を目指したように。

※※※

■映画情報
『マイルス・デイヴィス クールの誕生』
9月4日(金)、角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他、全国順次ロードショー
監督:
スタンリー・ネルソン
出演:
マイルス・デイヴィス、クインシー・ジョーンズ、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ロン・カーター、ジミー・コブ、マーカス・ミラー、マイク・スターン、カルロス・サンタナ、ジョシュア・レッドマン、ジュリエット・グレコ etc.
配給:
EASTWORLD ENTERTAINMENT 
協力:
トリプルアップ 
日本語字幕:
落合寿和 
2019年/米/115分
(c)courtesy of Eagle Rock Entertainment

※※※

さて、マイルスの履歴(ジョナサン・カッツさん作成の資料に、私なりに補足しました)を辿ると、

・1944-1948 ビバップ期:チャーリー・パーカーとの活動で、当時流行していた伝統的な「ビバップ」を演奏していた“修業時代”

・1949-1950 『Birth of the Cool』の録音。ギル・エヴァンスやジョージ・ラッセルと出会う。アルバムは1957年リリース

・1954-1957 ハードバップ期:ハーマンミュートを使用
『死刑台のエレベーター』(仏: Ascenseur pour l'échafaud、英: Elevator to the Gallows)が1958年制作のフランス映画なので、マイルスは、前年の1957年にハーマンミュートを駆使して、劇中歌としてこの曲を録音したと思われる

・1957-1958 ギル・エヴァンスと共作で、『Miles Ahead』(1957)、『Porgy and Bess』(1958)をリリース

・1958 『MILESTONES』をリリース。最初のモーダルな曲

・1958 5月 ビル・エヴァンスがMILESのバンドメンバーになるが、11月に鬱になり、実家で療養するため、MILESのバンドを退団

・1959 再び、MILESの呼びかけに応じて、『Kind of Blue』に参加、3月と4月に録音、8月にリリース。歴史的なアルバムとなる

という座学を受けた後に、ミニライブとして、カッツさんがバンドリーダーを務めている「TOKYO BIG BAND」

https://note.com/nazonou4/n/n55c65a48a1d5

のトランぺッター、岡田好朗さんとカッツさんのピアノで、ステキなミニライブが催されました。

理論と実践を学習できる、まさに、大人のJazz講座といえましょう。

次回は、5/26(日)14:00~「ジョナサン・カッツ大人のジャズ講座~クラシック&ジャズ」@日本橋三越新館カルチャーサロンとのことです。

***

余談ですが、
マイルス・デイヴィスは絡んでいませんが、ギル・エヴァンスのロックスピリッツ満載のアルバムの一曲をご紹介しましょう。

Little Wing.mov
theoribeton
2010/01/11 に公開

Jimi Hendrix's Little Wing by Gil Evans and his orchestra
Little Wing (2001 Remastered)
アーティスト
Gil Evans

※※※

ジミ・ヘンのカバーアルバムで、隠れた名盤をご紹介すると、ギル・エヴァンス・オーケストラの『時の歩廊』と『プレイズ・ジミ・ヘンドリクス The Gil Evans Orchestra Plays the Music of Jimi Hendrix』ですね。

https://www.youtube.com/watch?v=P4Fk9fod7MY


まだ、腕利きのスタジオミュージシャンとして独立する(名前が広く知られる)前のデヴィッド・サンボーンが、ギル・エヴァンスオーケストラのエース・サクソフォニストとしてソロを取った「リトル・ウィング」のエモーショナルなアルト・サックス(この時のメンバーのラインナップによると、彼はソプラノサキソフォンを演奏していたようですが)のディストーション・ブローウィング(まさに、当時から鳴らしていたサンボーン節)が堪能できます♪

この「リトル・ウイング」ですが、
最初は、ジミ・ヘンのイントロダクションをオーケストレーションして、なるほど、いかにもよくあるジャズのビッグバンドのアレンジだよねと思わせておいて、

次に、トランペッターが、かなりブレイクダウンしたジャズのスタイルでメインのメロディーを吹き鳴らすのですが、

それを遮るかのように、突然、デイヴ・サンボーンが、超高音のソプラノ・サックスで、金切り声の叫びのようなディストーション・ブロウィングが闇を切り裂きます。

一説によると、この頃のサンボーンは、かなり荒れた生活をしていて、ドラッグにも手を染めていたらしく、ある意味、ジミ・ヘンのやるせない心の叫びに共感していたのかもしれません。

圧倒されるというのはこのことで、そのクライマックスが終息すると、たぶんブラック・シンガーによるヴォーカルが、それをトランキライズ=鎮静化するかのように、「リトル・ウイング」の歌詞を静かに歌います。

このオーケストレーション・アレンジを手掛けたのは、やはりギル・エヴァンスですが(アルバム全体で、実は、ギル・エヴァンスがアレンジしたのは3曲だけだそうで、それ以外の楽曲は、他のバンドメンバーが担当したそうですが、その力量の差がくっきりとわかってしまうそうですね)、まさに、ジミ・ヘンの心の叫びを忠実に、いやそれ以上にジャズを超えたロックスピリッツ満載で再現した手腕に感銘を受けました。

さすがは、時の歩廊の魔術師=アレンジャー、ギル・エヴァンスの面目躍如たる感がありましたね。


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