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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第161回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
微子十八の七~八
 
微子十八の七
 
『子路従而後。遇丈人以杖荷篠、子路問曰、子見夫子乎。丈人曰、四体不勤、五穀不分、執為夫子。植其丈而芸。子路拱而立。止子路宿、殺難為黍而食之、見其二子焉。明日子路行以告。子曰、隠者也。使子路反見之。至則行矣。子路曰、不仕無義。長幼之節、不可廃也。君臣之義、如之何其廃之、欲潔其身、而乱大倫。君子之仕也、行其義也。道之不行、已知之矣。』
 
子路が供をして遅れてしまった。杖をつき竹籠を担いだ老人に出会い、子路は尋ねた。「あなたは先生を見ましたか。」老人曰く、「手足を動かさず、五穀の判別もせず、誰を先生というのだ。」といい、その杖を立て、草を刈った。子路は腕組みして立った。老人は子路を引き止め宿泊させた。鶏を殺し、黍を炊いて食べさせ、2人の子に会わせた。翌日、子路は去り、その件を孔子に報告した。孔子曰く、「隠者だ。」子路に引き帰させ、彼らに会おうとした。到着したが彼らは立ち去っていた。子路曰く。「仕えなければ大義はない。長幼の礼節は捨てられない。君臣の大義をどうしてなくせよう。身ぎれいにしようと望み、大切な倫理を乱している。君子が仕えるとは、その大義を実行しようというのだ。正しい道が行われていない。そんなことはわかっている。
 
(現代中国的解釈)
 
ファーウェイは、孟晩舟副会長の逮捕拘束事件以来、米国の制裁に対抗する救国のヒーローとなった。今やその一挙手一投足が詳しく報じられる。特に昨年8月末、5GスマホMate60の発売は、米国の理不尽な攻囲網を突破した、と大興奮を巻き起こした。中国の大義を実現した、と見做された。
 
(サブストーリー)
 
ファーウェイは、子会社ハイシリコンの設計した7nmの製造を、台湾TSMCに依頼していた。米国制裁により、この途は絶たれ、高性能の5G用ロジック半導体が調達できなくなった。それを国内トップの中芯国際(SIMC)に委託、どうやらものにしたようだ。それがKirin9000Sである。しかしSMICは。最新のASML社製の極端紫外線露光装置を、制裁により手配できない。そのため、従来型装置を使い、露光を繰り返したと見られている。ただし、この方法は、2度手間のコストがかかり、大量生産はむずかしいとみられている。これについては、ファーウェイ、SMICとも口をつぐんでいるため、確認はとれない。こうした中途半端で落ち着かない雰囲気の中、新しい半導体、Kirin 9000wが登場した。つい最近、マレーシア、イタリア、サウジアラビアなど、海外で先行発売された新型タブレット、Mate Pad Pro13,2に搭載されたのである。
 
このタブレットは、世界初のフレキシブル有機ELで、画面占有比94%を達成、さらに最新の接続テクノロジーが搭載されている。実はMate 60スマホのKirin 9000Sとは、ユーザーがスコアを計測、テストソフトウェアを使い、性能を特定した上での通称にすぎない。それが、今回のタブレットには、Kirin 9000Wとはっきり表示されている。中国ネット民は、Kirin 9000Sの海外バージョンらしい、と推測しているが、これが新しいチップであることを期待している。Kirin チップファミリーの成長を実感したいのだ。しかし、今回もまた、こっそりとハイエンド機に搭載したことから、依然として、高コストで大量生産できないという疑念は残ったままだ。正しい道で運営されているかどうか、わからない。
 
微子十八の八
 
『逸民、伯夷、叔斉、虞仲、夷逸、朱張、柳下恵、少連。子曰、不降其志、不辱其身、伯夷、叙斉与。謂柳下恵、少連、降志辱身矣、言中倫、行仲慮、其斯而已矣。謂慮仲夷逸、隠居放言、身中清、廃中権、我則異於是。無可、無不可。』
 
(現代中国的解釈)
 
隠者は、逸民、伯夷、叔斉、虞仲、夷逸、朱張、柳下恵、少連。孔子曰く、「志を曲げず、身を汚さなかったのは、伯夷、叔斉か。柳下恵、少連は、志を曲げ、身を汚したが、言葉は道理にかない、行動は思慮深いといわれたが、その通りである。虞仲、夷逸は、隠棲して言いたい放題、しかし身は清廉で、正しい世捨て人というが、私の見解は違う。良くも悪くもない。
 
(現代中国的解釈)
 
自動運転への熱量は、しぼみつつある。20XX年までに実現する(させる)という予言はすべてはずれた。みな言いたい放題だったわけだが、それは正しい行為だったのだろうか。テスラのイーロン・マスク、百度の李彦宏など、著名なリーダーたちを含む、全員がオオカミ少年になってしまった。
 
(サブストーリー)
 
図森未来という会社もその1つである。2021年、自動運転界最初の株式上場(ナスダック)企業として、大いに注目を集めた。しかし、そのころが絶頂期で、ビジネスモデルを確立できないまま、上場廃止となりそうだ。近々上場中止を米国証券取引委員会へ申請する。
 
図森未来は2015年、3人の中心メンバーにより創業。自動運転トラックの開発を目指した。当初は北京とカリフォルニア州・サンディエゴに拠点を開設、その後、上海、河北省・唐山市、アリゾナ州ツーソンへと拡大した、米中両国での事業展開を志向していた。シリーズABCDラウンドで毎年のように、多額の出資金を獲得。2019年には、米国物流大手UPSも出資している。
 
2021年4月、ナスダック市場へ上場。2カ月後には時価総額160億ドルを記録した。しかし、その後、方向性をめぐり、3人の創業者間での内紛が発生。幹部の辞任、人員削減など、ゴタゴタが続いた。その結果、社内に複数の派閥が生まれた。
 
 売上高は極めて少なく1000万ドルを超えたことがない。そのため2021年、7億3300万ドル、2022年、4億7200万ドル、2023年(3Qまで)2億2100万ドルの巨額欠損を出している。出資金に頼るしかない。
 
中国メディアは、上場廃止は、企業の終焉や完全な破綻を意味するものではなく、独自の企業戦略や市場環境に基付く構造調整の可能性もある、としている。自動運転の研究開発には、多額の設備投資が必要で、それを継続しなければならない。しかし、上場による調達資金さえ、商業化へ結びつけられなかった。これはアウトだろう。3人の創業者によるバトルが、マイナスに働いた。創業者といえども序列は必要だ。CEOは1人でなければ必ず混乱する。道理にかなわず、思慮深くもないやりかただった。中国では、自動運転企業の予備軍が控えているが、図森未来のつまずきは、彼らの出鼻をくじくことになりそうだ。

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