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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第147回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
陽貨十七の五~六
 
陽貨十七の五
 
『公山不擾以費畔。召。子欲往。子路不説。曰、末之也已。何必公山氏之之也。子曰、夫召我者、而豈徒哉。如有用我者、吾其為東周乎。』
 
公山不擾が費の町で反乱を起こした。そして孔子を招聘した。孔子は行くことにした。子路はこれが不満だった。曰く、「行かれることはないでしょう。どうして公山氏のところへ行く必要がありましょう。」孔子曰く、「私を招こうという以上、無意味ということはあるまい。もし用いてくれる者があるなら、その国を東周のようにしてみせるのだが。」
 
(現代中国的解釈)
 
周とは、孔子のあこがれる理想の国である。アリババの新零售(New Retail)も、現代商業の理想を掲げている。どこにいても同じ商品が迅速に手に入る。オンラインとオフラインの垣根はもはやない。というものだ。そのために2016年、新型スーパー「盒馬鮮生」をオープンした。スマホで注文し、2キロメートル範囲は30分で配達する、を売りに急成長を遂げた。今では全国に350店舗を運営している。
 
(サブストーリー)
 
その盒馬鮮生が、開業以来最大の変革に乗り出すという。定番商品のほとんどを20%値下げする。また5000以上あったSKUも2000超えくらいまで削減する。半分の商品を廃止し、800の新商品を投入、2000~3000SKUの辺りで動的均衡を図る。盒馬鮮生の実施したテストによれば、パイロット商品の反応は上々で、来年の春節までに、均衡を実現できそうという。品揃えを、商品面、運営面とも刷新しようというのだ。
 
盒馬鮮生はこの2ヵ月前、大規模な組織変更を行ない、ブランドグループ、大規模輸入グループ、通常商品調達グループの3グループを統合した。これにより、大口顧客の影響力の強い従来型店舗運営モデルから徐々に脱却する。今後、自社プラットフォームによる仕入れに注力し、商品力をメインとした、仕入れ、運営システムを構築する。
 
サプライチェーンでは、国内に185カ所の“盒馬村”を建設、ここから350店舗に十分な商品供給を行なう。さらに2495のサプライヤーと、550の商品調達拠点があり、100以上の原産地倉庫を持つ。そしてこれらサプライチェーンは、パートナー企業に開放されている。
 
2022年のチェーンストア売上ランキングによれば、1位、ウォルマート…1093億元、2位、永輝超市…979億元、3位、大潤発…920億元、4位、華潤万家…892億元、5位、物美集団…615億元、6位、盒馬鮮生…610億元となっている。上位社の顔ぶれは、確かに古臭い。要は忖度無く、いい商品を開発、調達できるかにかかっている。こいした盒馬鮮生の目論みが成功すれば、さらなる上位進出は、間違いなさそうだ。理想の小売業態に手が届くかどうか。
 
陽貨十七の六
 
『子張問仁於孔子。孔子曰、能行五者於天下、為仁矣。諸問之。曰、恭寛信敏恵。恭則不侮。寛則得衆。信則人任焉。敏則有功。恵則足以使人。』
 
子張が仁について問うた。孔子曰く、「五つのことを実行できれば、仁といえる。」子張はさらに問うた。「恭、寛、信、敏、恵である。恭しければ侮られない。寛容ならば人望を得られる。信用があれば要職を任される。機敏なら功績を上げられる。恩恵を施せば、人ををうまく使うことができる。」
 
(現代中国的解釈)
 
ファーウェイが、スマホでカムバックを果たした。3年ぶりに5GスマホMate60を発売、爆売れしている。これを何らの販促活動も行なわず、こっそり発売した。恭しく恩恵を施し、信用を得るためだろうか。そうではなく、おそらくは5G半導体の安定供給が難しいからだろう。売れすぎると困るのだ。そのファーウェイがまた新事業を始める。
 
(サブストーリー)
それはちょっと意外だが、モバイル決済である。最近、中国人民銀行は、「非銀行支付機構重大事項変更許可情報」を発表したのだが、それによれば深圳市訊聯智付網絡有限公司が、商号を、花辯支付(深圳)有限公司に変更した。2013年設立の訊聯智付を、2021年、ファーウェイが買収。これによりファーウェイは、モバイル決済のライセンスを手に入れた。スマホメーカーとしては、シャオミに次ぎ2社めである。
 
ファーウェイがこの花辯支付(Huawei Pay)を展開する目的は、独自OS「鴻蒙(Harmony)」のエコシステム構築と普及を加速すること。そして華為支付のアップグレードをサポートすることだ。支付シェアの90%以上を支配している支付宝と微信支付と争うつもりはない。鴻蒙Harmony OSのユーザーを拡大することだ。
 
ファーウェイは米国の制裁により、グーグル・モバイル・サービス(GMS)が利用できなくなった。そのため独自OSの開発を急いだ。2019年8月にリリース、毎年改良を重ね、2023年8月にはバージョン4.0にアップグレードされた。9月末、ユーザーは6000万を超え、Harmony OS全体では7億となった。しかし、中国市場全体でのシェアは、Android78%
IOS 20% Harmony 8%、世界シェアは、Android 78% IOS 20% Harmonyはわずか2%である。それでも世界3位のOSとなった。
 
ただしこれらデータは第一四半期の新製品ベースである。しかし、これまでのスマホ出荷台数からの 試算では国内シェア17、8%~18、9%、既存の国内ユーザー数は3億を超えると見られる。ファーウェイはかつて、OSの存続には、シェア16%が必要と言っていた。国内市場では、机上の計算だが、それをクリアした。Harmony Payは、その地位固めに向けた、新しい修飾の1つだろうか。話題となることだけで良いのかも知れない。ファンをうまく動かしているのは間違いなさそうだ。

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