見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第129回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
衛霊公十五の十二~十四
 
衛霊公十五の十二
 
『子曰、已矣乎、吾未見好徳如好色者也。』
 
孔子曰く、「もうおしまいだ。私は未だ、女色を好むように、道徳を好む者を見たことがない。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国の小売業は、女性経営者を好む。消費の主体、女性消費者によりそって行けば、自然とそうなるだろう。それに女性の学習意欲は高い。高等教育機関の女子学生比率(2021年)は、4年制の本科が50,2%、3年制の専科で57,7%と、いずれも男子比率をリードしている。かつてアリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)は、アリババ成功の秘訣を問われて、従業員の49%、役員の30%が女性だからだ、と答えた。そして現在、アリババの利益の7割をかせぐネット通販部門、淘宝天猫商業のCEOは、女性の載珊氏である。
 
(サブストーリー)
 
彼女は、杭州電子科技大学で工程学を専攻、1999年、アリババに創業グループ、十八羅漢のメンバーである。とはいえ月給500元からのスタートだった。顧客サービスや広東省の責任者など、営業の第一線を経験後、2013年には、人事責任者となる。2017年には、B2B事業群とAli Express(国際版淘宝)の責任者。2022年、新設のデジタル商業部門の責任者となる。そして今年、淘宝天猫ビジネスグループのCEOに就任した。ネット通販のあらゆる経験を重ね、王道を歩んできた。
 
一方、ライバルの京東もCEOに女性を据えた。その許冉氏は、載珊氏のように、名をを知られた存在ではなかった。少ない公開資料からは、北京大学卒業後、プライスウォーターハウスクーパースに就職、TMT(Telecommunications,Media,Technology)業界や、米国資本市場を担当、20年のキャリアを積んだ。そして2018年、財務担当副社長として京東に入社した。彼女は、まるで参謀長のように振舞い、辛抱強く、合理的、そして冷静に、問題の核心を創業者・劉強東に伝えたという。そして入社5年後CEOに就く。その他、共同購入型ネット通販「拼多多」のNO,2、願娉娉氏も女性である。許冉氏の登場により、中国ネット通販巨頭の実質トップは、女性ばかりとなった。
 
衛霊公十五の十三
 
『子曰、臧文仲其竊位者与。知柳下恵之賢、而不与立也。』
 
孔子曰く、「臧文仲は位を盗んだ者だろうか。柳下恵の賢才を知りながら、一緒に立たなかった。」
 
(現代中国的解釈)
 
拼多多は、創業以来、快進撃を続けている。最近、そのステージは米国に移っている。創業者の黄崢は退いたが、共同創業者で同級生の陳磊が、後を継いだ。しかし、実質を取り仕切っているのは、先に紹介した“社内CEO”“女版黄崢”と呼ばれる賢才、願娉娉氏といわれている。
 
(サブストーリー)
 
拼多多の2022年決算は、売上1305億5750万元、前年比39%増、利益は315億3810万元、前年比306%増だった。2013年第一四半期も、売上376億3710億元、前年比58%増、利益は81億元、前年比212%増だった。
 
2022年9月、拼多多は、米国で海外版アプリ「Temu」を正式スタートさせた。2023年1月、Meta、Instgram、などに5ドルのネックレス、4ドルのシャツ、13ドルの靴など、8900件の超特価広告を投入した。アピールに成功し、ダウンロード数は増加、2023年3月には5000万を突破した。5月のGMV(成約総額)は6億3500万ドル、1月の3,5倍になった。そして同月、米国人がTemuに支出した金額は、先行するファッションサイト「Shein」を20%上回った。さらに米国市場を飛び出し、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、英国にも進出した。将来的に、欧州、アフリカ、南米への展開を考えている。つまり全世界へ展開し、アリババではなく、Amazonと戦うつもりなのだ。賢才とともに、世界へ飛び立とうとしている。
 
衛霊公十五の十四
 
『子曰、躬自厚、而薄責於人、則遠怨矣。』
 
孔子曰く、「自分に厳しく、人をあまり責めないようにすれば、他人の怨みから遠ざかる。」
 
(現代中国的解釈)
 
ネット通販大手の京東は、自分に厳しく当たることにした。創業者・劉強東は、米国での婦女暴行事件以来、経営の第一線から、少し退いていた。それが昨年11月、本格復帰し、低価格戦略を強調した。サプライヤーいじめではなく、調達、運営、販売の3チームがそれぞれ、消費者と生産者の間を駆け回り、さまざまなカテゴリーに深く入り込み、真のニーズを引き出す。WinWinの結果としての低価格実現を目指す。そこに他人の嫉みはない。
 
(サブストーリー)
 
例えば、ラップトップパソコンである。サプライヤー調査では、広東省・東莞には、アップル製品等を生産する、フォックスコンのようなOEM工場がいくつもある。この種の工場では、創業経営者が、営業、商品開発、運営管理まですべて行なっている。一見、効率はよさそうだが、実は工場の運営経費は全コストの20%にも及ぶという。
 
ユーザー調査では、高機能は不要で、低価格を望む消費者層が広くに存在する。これらを京東がマッチングすることで、ブランディングと運営のコスト下げ、低価格を実現することができた。このラップトップパソコン(14インチ)は、今年の618セールに合わせ、1226元で発売した。京東の標準サービスをや、クーポンの利用も可能だ。市場の隙間を埋めたと評され販売は好調らしい。
 
しかし、株価はその限りではなく、昨年11月以来の株価上昇分は、618セールの前に、すべて吐き出してしまった。早くも低価格戦略の真価が問われている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?