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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第136回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
衛霊公十五の三十三~三十五
 
衛霊公十五の三十三
 
『子曰、君子不可不知。而可大受也。小人不可大受。而可小知也。』
 
孔子曰く、「君子は小さな仕事はしないが、大きな仕事は引き受ける。小人は大きな仕事を引き受けることはできないが、小さな仕事はできる。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国の新エネルギー車業界は、テスラ上海、BYDが2トップ、3位以下には、従来型国有自動車企業のEV車製造子会社や、新しく設立された“造車新勢力”と呼ばれるグループがある。その1社「小鵬汽車」の自動運転部門担当副社長が退社した。小さな仕事だったのだろうか。
 
(サブストーリー)
 
“造車新勢力”はEV車へのシフトの先にある自動運転を見据えている。その証拠に小鵬汽車は2014年の設立に当たり、広州汽車、フォード、BMV、デルフィなど自動車会社だけでなく、アリババ、テンセント、シャオミ、サムスン、ファーウェイなどIT企業からも人材を招集した。2020年にはニューヨーク市場へ上場。しかし、かつて並び称された、理想汽車、蔚来汽車、小鵬汽車の“蔚小理”の中では、最下位に低迷していた。それが2023年7月には、久しぶりに月販1万台を回復した。また同月には大きなニュースが相次いだ。フォルクスワーゲンと戦略提携を結んだのである。VWは7億ドルを出資し、小鵬株の4、99%を取得する。VWブランドEV車の生産が可能となる。
 
もう1つが副社長の退任である。しかも、噂される転職先がすごい。今をときめく半導体大手・エヌビディアの、それもグローバル副社長というのだ。小鵬での小さな仕事より、エヌビディアでの世界的な大きな仕事を選んだ、ということかもしれない。しかし小鵬にとってもエヌビディアとの人脈構築は、悪い話ではない。小鵬の運気は上昇中と見て間違いあるまい。
 
衛霊公十五の三十四
 
『子曰、民之於仁也、甚於水火。水火吾見蹈而死者矣。未見蹈仁而死者也。』
 
孔子曰く、「民の仁への重要性は、火や水より高い。火や水に踏み込んで死ぬものは見るが、まだ、民が仁に踏み込んで死ぬのを見たことはない。」
 
(現代中国的解釈)
 
日本の宅配大手、ヤマト運輸や佐川急便がネット通販を運営する姿は想像しにくい。中国では少し事情が違う。宅配トップの順豊(SF Express)が、ライブコマースに飛び込むようだ。火や水に飛び込んで死ぬことになりはしないか。
 
(サブストーリー)
 
順豊の2022年決算は、売上2675億元、前年比29、1%増、利益は62億、44、6%増と好調だった。宅配便業界は2、3%しか伸びておらず、上位集中が進んでいる。今後の方向性は、中高級品の扱い、ネット通販(ライブコマース)、海外展開である。
中でもネット通販進出は、いかにも現代中国らしい。中国では猫も杓子もライブコマースを行なっている。現代的なライブコマースは、アリババが2016年、淘宝直播の名でスタートした。その後、ショートビデオの抖音(TikTok)や快手が続いた。最近では、オンライン教育大手だった新東方が始めた「東方甄選」が予想を超える成功を収め、話題となった。
 
順豊は、ミニプログラム上に「好者直播間」をオープン、ライブをスタートさせた。主な商品は、各地方産の生鮮食品である。順豊は、第三者の力を借りず、自らのプラットフォーム内で、配送プロセスの問い合わせなど、全て完結できるようにした。さらに話題の「東方甄選」とも提携する。東方甄選にとっては、宅配という足腰を強化でき、歓迎だろうが、好者直播間にとってはどうか。自社コンテンツの魅力を高めなければ、協力の成功はおぼつかない。それは順豊もわかっているだろうし、何しろ有力企業同士のコラボだ。大化けしないとも限らない。
 
衛霊公十五の三十五
 
『小曰、当仁、不譲於師。』
 
仁を実行するのに、師匠にも譲ることはない。
 
(現代中国的解釈)
 
現代的ライブコマースの師匠格である淘宝直播は、川上に遡ることにした。師匠の座を譲るつもりはないようだ。
 
(サブストーリー)
 
淘宝直播は、「源頭百廠計画」を制定し、7月末より、工場におけるライブコマースを開始した。この計画は、全国から良質な商品の結集を目指している。淘宝直播のプラットフォームを利用し、工場立地の地理的制約を、撤廃するのだ。ライブ放送は、2つのシーンに分かれる。淘宝直播の放送室で商品を推奨した後、他のキャスターが工場へ入り、製造、加工の説明を行なう。
 
この種の“工場から生中継”は、新しい試みではない。乳業大手の蒙乳や、IT大手の捜狐、ネット通販の拼多多なども行なっている。ただし紹介されるのは大企業ばかりで、そのブランドプロモーション的側面が強かった。淘宝直播はこれらとは一線を画し、あまり知られていない草の根の工場を探し、そしてライブ放送により直接的効果をもたらそうというものだ。ネット通販、究極の川上深堀りといえるだろう。創業以来、中小企業へのソリューション提供を社是としてきた、アリババグループらしいといえばらしい。

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