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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第162回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
微子十八の九~十
 
微子十八の九
 
『大師摯適斉。亜飯干適楚。三飯繚適蔡。四飯缺適秦。鼓方叔入於河。播鼗武入於漢。小師陽撃磬襄入於海。』
 
楽団長の摯が斉へ行った。第二奏者の干は楚へ行った。第三奏者の繚は蔡へ行った。第四奏者の缺は秦へ行った。太鼓の叔は河内に行った。別太鼓の武は漢へ行った。副団長の陽と、打楽器の襄は、海(島)へ行った。
 
(現代中国的解釈)
 
チームは、いつかバラバラになっていくものである。アリババ・馬雲とソフトバンク・孫正義のタッグチームも2020年6月、離別のときを迎えた。互いの社で務めていた取締役を辞任した。ただし、アリババの最大株主はソフトバンク、という資本関係は継続し、中国ネット民の間では、アリババはどこの国の会社?という議論も続いていた。
 
しかし、それも終焉を迎えた。中国メディアは、「ソフトバンクとアリババに新しい物語はもう存在しない。」という記事を掲載した。
 
(サブストーリー)
 
ソフトバンク子会社のスカイブリッジが、2021年~2024年1月までに、金融機関に差し出していたアリババ株の資金化に伴う現物決済を終えた。その結果、ソフトバンクグループは2024年3月期に、1兆2592億円の有価証券売却益を計上する。ただし、現在のアリババ株保有比率は公表しなかった。
 
ソフトバンクは、2000年、当時、新興ベンチャーだったアリババへ2000万ドルを投資した。それ以来、累計74億円を投資したが、それらは過去23年で、9兆7000億円の利益を生んだ。投資家、孫正義、最大の成功事例である。
 
2014年、アリババがニューヨーク市場へ上場したとき、ソフトバンクの保有比率は34%だった。それが2019年には、25,8%、2022年には、23、9%となっていた。そして金融機関への先渡し契約の実行により、2023年には、たった2%に減ったと見られる。かわりに筆頭株主となったのは、創業者の馬雲氏であった。馬雲氏は、孫正義氏のARM買収資金など旺盛な資金需要と、流動性保持の要請に応え続けた。しかし、こうした物語も、一応の終焉を迎えつつある。
 
微子十八の十
 
『周公謂魯公曰、君子不施其親。不使大臣怨乎不以。故旧無大故、則不棄也。無求備於一人。』
 
周公が息子の魯公に向かって曰く、「君子は親族を忘れない。大臣に登用されないことを恨ませない。窮地の者は、大過がなければ見捨てない。完璧を人に求めてはいけない。」
 
(現代中国的解釈)
 
アリババの存在感が薄れつつある。弱みの見当たらない、完璧な企業のように見えていたが、このところ齟齬が目立ってきた。投資戦略もその1つで、うまくいっているようには見えない。アリババはこれまで、本業を補完する関連業界の企業に投資してきた。例えば、フードデリバリーの「餓了磨」である。「美団」とならぶ2強を形成したものの、最近は、はっきりと差を付けられている。そこへ今度は「銀泰」の話題が浮上した。
 
(サブストーリー)
 
銀泰とは1998年、杭州市に1号店をオープンした。大型百貨店もあれば、総合スーパーのような店もあり、見た目の統一感を欠いたチェーンを形成していった。アリババの馬雲と銀泰の沈国軍は、同じころ杭州市で創業した者同士で、交流があった。2013年ころには、銀泰がアリババの通販サイトのセールに参加するようになった。
 
2014年、アリババは銀泰に53億7000万香港ドルを投資、2015年には筆頭株主となる。
2016年、アリババは"新零售"と称して、新型スーパー「盒馬鮮生」を自ら運営し始めた。オンライン、オフラインの垣根を超えるOMO(Online Merges Offline)を目標に掲げている。オフラインの商品在庫をオンラインで注文、30分以内に配達する。
 
このプラットフォームを銀泰にも当てはめた。2017年には、完全子会社とした。オンライン、オフラインの雄同士の協力は、小売業の未来を開くと期待された。実際に、システムの統合、データの共有、ブランド管理などを進めた。アリババはその他、三江購物、聯華超市、百聯、大潤発などのオフライン小売業へも出資、グループ作りに励んだ。
 
しかし、消費者の興味は、ライブコマースへ移っていく。その先鞭をつけたのも、アリババだ。「淘宝直播」というプラットフォームだった。さらに共同購入方式の新しいネット通販、「拼多多」が2015年の設立以来、急成長を続ける。知らぬ間に、新零售は、隅に追いやられた恰好だ。グループを見捨てることもありそうだ。
 

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