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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第89回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
 
顔淵十二の二~四
 
顔淵十二の二
 
『仲弓問仁。子曰、出門如見大賓、使民如承大祭。已所不欲、勿施於人。在邦無怨、在家無怨、仲弓曰、雍雖不敏、請事斯語矣。』
 
仲弓が仁について問うた。孔子曰く、家を出たら大切なお客に会うかのように振舞い、民を使うときは、大事な祭祀を主催するかのように行なう。自分の望まないことは他人にしない。そうしておけば、国に仕えても怨まれることなく、貴族に仕えても怨まれることはない。」仲弓曰く、「私は不器用ですが、このお言葉の通り実行したいと思います。」
 
(現代中国的解釈)
 
ビジネスの心得そのものだが、現代中国人はこれを実行できていない。例えば、基本的に秘密を守れない。言わずもがなのことまで、勢いよく喋ってしまう。宴会などで、聞き耳を立ていれば、情報はいくらでも取れるだろう。中国の強力な組織とは、情報管理が行き届いているそれである。スマホ大手、小米(Xiaomi)は、今後の情報管理を強化するらしい。
 
(サブストーリー)
 
小米の創業者・雷軍は、企業家人生最後のチャレンジとして“造車”(自動車生産)に乗り出した。その雷軍は9月上旬、SNSへ「小米の自動車進出は遅すぎた。私はこの説に同意しない。レースはまだ始まったばかりで、小米には、まだ多くのチャンスがある。」と投稿した。1ヵ月前の記者会見では今後2年間、小米の自動車製造に関する進展は紹介しない、適切なタイミングで一般向けに報告する。」と述べ、自動運転チームの成果ビデオを公開してた。
 
これらの評価は難しい。イラついているように見える。雷軍は、中国人には珍しい“いい子”イメージを放つ、人気の高いスター経営者だ。彼の最終チャレンジ、造車への挑戦は、ちょっとした噂でも、株価乱高下要因となる。それを避けたい、というのは分かるが、実際、うまく行ってていないのでは、との疑心暗鬼も巻き起こす。一方、中国メディアは、スマホやスマート家電で培った、ファン層の厚さに注目している。一気ににひろがるポテンシャルがある。いずれにせよ、高い注目度のゆえである。
 
顔淵十二の三
 
『司馬牛問仁。子曰、仁者其言也訒。曰、其言也訒。斯可謂之仁已乎。子曰、為之難。言之得無訒乎。』
 
司馬牛が仁について問うた。孔子曰、「仁者の用いる言葉は控え目だ。」司馬牛曰く、「控え目な言葉、これをすなわち仁といってよろしいでしょうか。」孔子曰く、「仁の実行は難しいから、おのずと言葉は控え目になる。」
 
(現代中国的解釈)
 
現代中国において、言葉は控え目ではいられない。交渉によって物事が決まる、交渉万能主義の現代中国では、主張はわかるように伝えなければならない。ファーウェイから分離したHonor(栄耀)は、アップルに挑む、と表明した。これはわかりやすいが、可能なのだろうか、
 
(サブストーリー)
 
中国の2022年上半期スマホ市場は、売上1億3400万台、前年同期比16.9%減だった。上位5社は
 
OPPO 2240万台 39.1%減
Honor 2230万台 118.3%増
Apple 2190万台  2.9%減
VIVO 2130万台  33.2%減
Xiaomi 2020万台 23.9%減
 
Honorはファーウェイのサブブランだったが分離独立したため、ファーウェイ制裁の対象からはずれ、最新鋭の半導体を手配できている。そしてかつてのファーウェイシェアを取り戻す勢いである。
 
しかし価格600ドル以上のハイエンド市場では、そのアップルが70.5%を占めている。iPhone13はバカ売れ状態だ。しかも巷ではiPhone14の話題で盛り上がっている。それでもHonorは、アップルに挑む、と発表した。すでに2022年2月、スペインでハイエンドモデルHonor Magic4 を発表した。さらにiPhone14に対抗すべく、年内にMagic7を投入するというのである。しかもMagic OSというiOS対抗のオペレーティングシステムも公表した。
 
しかし、アップルへの対抗は難しい、と中国メディアも認めている。Magic4はファーウェイMate40 のコピーにしか見えないし、Magic OSは、Androidに依存じたもので独立したOSではない。それどころか不当表示の怖れさえあるという。現段階では、ファーウェイの身代わりしか見えない。まだアップルの技術力には対抗できない。Honorはそのことをよく理解している。実行は難しくとも、大きなビジョンをぶち上げ、奮い立たせた。すべてはこれからだ。
 
顔淵十二の四
 
『司馬牛問君子。子曰、君子不憂不懼。曰、不憂不懼。斯可謂之君子已乎。子曰、内省不疚、夫何優何懼。』
司馬牛が君子について問うた。孔子曰く、「君子は、憂えず、懼れない。」司馬牛曰く、「憂えず、懼れない、とりもなおさず、これを君子というのでしょうか。」孔子曰く、「心にやましさがなければ、何を心配し、恐れる必要があろうか。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国のIT企業は、これまで勢いよく拡大してきたが、ここへきて踊り場に差し掛かった。中央政府は、国有企業中心の共同富裕路線の志向を強め、民営企業、とくにその象徴であるIT巨頭には、締め付けを強めてきた。心配し、恐れることばかりだ。
 
(サブストーリー)
 
中国ネット通販界も踊り場にさしかかった。王者アリババも、上場以来初の売上高減少、59%もの大幅減益(4~6月期決算)に見舞われてる。ただし拼多多だけは絶好調だ。恐れるものは何もなさそうである。
 
4~6月期の売上は、314億4000万元、前年同期比36%増、利益は88億9630万元、前年比268%増だった。上半期のピークである「618」セールでは、初参加ブランドが500を超え、スマホ、家電、化粧品などの売上が2倍を超えた。またコロナ禍で影響を一方収入に占める経費の割合は、前年の57%から47%に低下した。いずれも市場予想を大きく上回り、発表後、株価は発表後14%上昇した。
 
好調要因の1つは、海外で“特有の価値”を創出しつつあることだ。9月中旬、米国に越境Eコマースサイトを開設、中国市場を目指す、サプライヤーを募っている。
 
もう1つは農村である。各地方の農産品、農業産業ベルトの工芸品発掘など、中小商店の拼多多プラットフォームへの出店をサポートする。累計15億元を投入し、全国2000の農村から20万の商品を発掘した。8月下旬には「超級農貨節」を開催し“南果北粮”(南方の果実と北方の穀物を直接流通させる)を謳いあげた。
 
しかし、これらは、アリババが先行してきたことばかりである。しかし、地方都市や農村では。拼多多により初めてネット通販に触れた、という消費者が多い。そういう商圏をがっちりつかんでいるのように見える。アリババはうかうかしていられない。
 
 

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