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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第155回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
陽貨十七の二十一~二十二
 
陽貨十七の二十一
 
『宰我間。三年之喪期已久矣。君子三年不為礼、礼必壊。三年不為楽、楽必崩。旧穀既没、新穀既升。鑚燧改火。期可已矣。子曰、食夫稲、衣夫錦、於女安乎。曰、安、女安則為之。夫君子之居喪、食旨夫甘、聞楽不楽、居処不安。故不為也。今女安、則為之。宰我出。子曰、予之不仁也、子生三年、然後免於父母之懐。夫三年之喪、天下之通喪也。予也有三年之愛於其父母乎』
 
宰我が孔子に問うた。「三年の喪は十分長いです。君子が三年も礼を欠けば、礼は廃れるでしょう。三年も音楽を行なわなければ、音楽はきっと崩れるでしょう。古い穀物は食べ尽くし、新しい穀物が実るでしょう。木をこすり火を取り替えることもできる。一年でやめるべきでしょう。」孔子曰く、「その米を食べ、その衣服を着ることは平気か?」「平気です。」「平気ならそうしなさい。君子が喪に服しているときは美味いものを食べても美味くなく、いい音楽を聞いても楽しくなく、家にいても快適ではない。だから、そういうことをしない。君がそうしたいなら、そうせよ。」宰我は退出した。「孔子曰く、宰我は仁ではない。こどもは生後三年、その後、父母の元から離れていく。三年の喪は天下共通だ。宰我も父母から三年の愛を受けただろうに。」
 
(現代中国的解釈)
 
現代では3年も経てば、状況はすっかり変わってしまう。IT業界はそれを地で行っている。3年でナスダック上場を果たした企業もあった。しかし、中国が力を入れる自動運転分野では、このところあまり変化は見られない。自動運転タクシーがようやく実装段階に入ったところだが、運用地域も限定されている。一般車には、運転アシストの段階から抜け出せない。
 
サブストーリー)
 
自動運転の要、センサーの代表、Lidar(光による検知と測距)技術が再び注目されている。今年4月の上海モーターショーでは、Lidar関連の出展が大幅に減少、その将来性、実用性に疑問符が付いていた。最近、ファーウェイやBYDの採用報道により、再び議論が盛んとなった。
 
自動運転技術は、スタンダードが確立されていない。カメラとLidar、その他の光線センサーを融合させるのか、テスラのように高精度カメラとマップだけで対応できるのか。
 
カメラは、特定の色や形状を低コストで認識できる。ただし悪天候や夜間には弱いなど、長所、短所ははっきりしている上に、大量のデータと計算能力を必要とする。テスラはテスラ車ユーザーをモニターにデータの収集に努めている。アルゴリズムを改善し、誤判断による事故を一掃するためだ。
 
センサー融合型は、Lidarとミリ波レーダーが有望とされている。ミリ波レーダーは透過力が強く、悪天候に強く、探査能力はLidar同等の150メートルを超える。また応答時間も早く、コストの削減に繋がる。ただし、物体の形状を検出するのは苦手という。しかし高級スマートカー向けミリ波レーダーのコストは1423元、Lidarは5756元に比べ、4分の1というのは大きなアドバンテージだ。
 
Lidarには、性能上のネックはあまりない。検出範囲と精度、解像度、応答速度、物体形状認識、夜間検出など得意とし、都市部の運転サポートに最も適している。最大の欠点はコストである。したがって現在、搭載できるのは、30万元を超える高級車に限定されている。そのため代替案がとして、ミリ波レーダーの進化版、4Dイメージングレーダーの研究が進んでいる。
 
Lidar業界は、国内のユニコーン3社がメインだ。そのトップ禾赛科技の、2021年の世界シェアは3%だった。それが2022年には50%になったという。独自の製品ラインナップが評価されたようだが、いかにも乱高下が激しい。ただしこの業界には、米国制裁やデカップリングの影響は少なそうである。シェアは次の3年も大きく動くことになりそうだ。
 
陽貨十七の二十二
 
『子曰、飽食終日、無所用心、難矣哉。不有博奕者乎。為之猶賢乎已。』
 
孔子曰く、「腹いっぱい食べて、一日過ごし、心を働かせることがないならば、困ったことだ。すごろくや囲碁があるだろう。それでも何もしないよりはましだ。」
 
(現代中国的解釈)
 
現代中国では、無くてもいい、どうでもいいような企業が、乱立してしまう。その発生原因は補助金の大盤振る舞いにある。日本でも、新型肺炎関連の補助金不正受給は、少なくなかったのは記憶に新しい。しかし中国のそれはケタが違う。中国メディアは、その傍証となりそうなデータを報じた。
 
(サブストーリー)
 
その見出しは、「2023年、中国半導体企業1万900社消失。」である。それによれば、今年12月11日までの段階で、会社登記を取り消した(された)半導体関連企業は1万900社、前年比5746社、69、8%増加した。一方、新規に登記された半導体関連企業は、6万5700社、前年比9、5%だった、
 
年間1万900社の消失とは、1日あたり31社が消えてなくなっているということだ。また過去5年間では2万2000社が消えている。その半分が、今年に集中している。半導体市場は、前例のない変化が止まず、国内業界だけで、サプライチェーンを維持するのは難しい。
 
2023年の世界半導体市場規模は5200億ドル、前年比9、4%減と予想されている。不況、在庫調整、米国制裁など大揺れの1年だった。
 
中国の半導体業界には、多数の中小企業が散在している。今年国内にある3243社の半導体設計会社のうち、1910社は、売上1000万元に満たない。利益を計上しているのは70%、赤字は30%だという。しかし、損失はじわじわ拡がり、在庫増と減損のリスクが迫っている。
 
こうして消えてなくなっていく中小企業の多くは、補助金でたっぷり太り、囲碁やすごろくばかりしていたのだろう。それでも何もしないよりはましだったのだろうか。

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