見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第115回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
憲問十四の二十~二十二
 
憲問十四の二十 
 
『子言衛霊公之無道也。康子曰、夫如是、奚而不喪。孔子曰、仲叔圉治賓客。祝鮀治宗廟、王孫買治軍旅。夫如是、奚其喪。』
 
孔子は、衛の霊公の無道について、話をした。康子曰く、「それなら、なぜ滅びないのでしょう。」孔子曰く、「仲叔圉が外交に当たり、祝鮀治が内政を担当し、王孫買が軍隊を統率している。これでどうして滅びるだろうか。」
 
(現代中国的解釈)
 
日本では、定期的に中国崩壊論を謳う図書が出版される。一定の需要があった。しかし、それらの論は、何の対策も取らなければ、という前提付きだ。実際には対策を取るため、崩壊論者の主張のように、一直線に破綻へ向かうことはない。中国人はしぶとく、簡単に滅びたりしない。
 
(サブストーリー)
 
不動産バブル抑制のため、当局は2020年9月、不動産業界に3つのレッドライン(基準)を設定した。最大手の恒大は、その直撃をくらった。すぐに資産の値引き売却、創業者・朱家印の個人資産売却、赤字部門の切捨てなど、キャッシュフローの回復を図った。しかし、翌2021年5月に出た「焦点研究院」のレポートによると
 
基準1 総資産に対する負債比率70%以下 … 恒大、81.0%  
基準2 自己資本に対する負債比率100%以下 … 恒大、118.0%  
基準3 現金に対する短期負債の比率1以上 … 恒大、0.36  
 
と、いずれももクリアーしていない。そして現在も2兆元の負債を抱えている。ただし銀行借入より、金を払ったのに物件を受け取れないユーザーや、売掛金を抱えている業者の負担分が大きく、金融システム不安より、社会不安リスクが大きそうだ。今は恒大がつぶれては元も子もない、という抑制が効いている。中国メディアは最近の状況を、深刻ではあるが、倒産にはまだ遠い、と表現している。資金チェーンの断裂が企業運営を困難にしているだけ、という判断だ。中国の創業経営者はしぶとく、多少血管が断裂したところで死ぬことはない。。
 
 
憲問十四の二十一
 
『子曰、其言之怍、則其為之也難。』
 
孔子曰く、「言いたいことを言って恥じないのなら、これを実行することは難しい。」
 
(現代中国的解釈)
 
華々しくぶち上げ、自分を追い込みながら、チームの力を引き出す。結果にはきちんと責任を追う。IT巨頭の第一世代、BATJ(バイドゥ、アリババ、テンセント、ジンドン)の創業者は、カリスマ性と力技を用い、業績を拡大していった。第二世代創業者、抖音、滴滴、美団、拼多多、などの時代になると、頭が良くスマートな印象が強い。目立たず静かに実行し、確かな実績を作る。
 
(サブストーリー)
 
共同購入型ネット通販・拼多多は、短視頻(ショートビデオ)に本格参入する。ショートビデオの抖音(海外版TikTok)や快手が、ライブコマースを武器に、ネット通販界で大暴れしている。特に決断を必要とする対抗策ではないが、独自の方法を取り、ユーザーを大きく伸ばしている。
 
最近、拼多多アプリの下部に表示されていた、ビデオの表示がライブコマースに変わった。それをタップし、ビデオコンテンツを視聴すれば、Webクーポンをもらえる。連日視聴すれば、1週間で34元となる。
 
その一方、クリエーターの創作意欲を刺激するインセンティブも用意されている。ファン数や取上げられた記事数により、報奨金を支給する。もちろんこれらは通販での商品購入に転用できる。
 
ショートビデオプラットフォームとしては精度が低く、ブラッシュアップは必要だが、すでにDAUは1、5億人を数えるという。拼多多は、プロジェクトを着実に実行している。
 
憲問十四の二十二
 
『陳成子弑簡公。孔子沐浴而朝、告於哀公曰、陳恒弑其君。謂討之。公曰、告夫三子。孔子曰、以吾従大夫之後、不敢不告也。君曰、告夫三子者。之三子告。不可。孔子曰、以吾従大夫之後、不敢不告也。』
 
陳成子が簡公を弑逆した。孔子は身を清めて朝廷に参内し、哀公に告げて曰く、「陳恒が主君を弑逆しました。陳恒の討伐をお願いします。」公曰く、「それはあの3人(季孫、叔孫、孟孫)に言え。」孔子曰く、「私も家臣のはしくれであり、言わずにはいられない。しかし公は、三家老に言え、と言われる。三家老を訪ねたが、聞いてくれない。家臣につらなるがゆえに、言わずにはいられなかったのだが。」
 
(現代中国的解釈)
 
創業経営者は、人のいうことを聞かない。小売大手、蘇寧易購の張近東もその印象が強い。当初の蘇寧は、家電量販店のトップ、つまり日本のヤマダ電機のような存在だった。ところが2012年ごろから、業績は急激に悪化、ネット通販「蘇寧易購」力を入れ始める。しかし業績は改善せず、2015年にはアリババから283億元の出資を仰いだ。さらにアリババのB2Cサイト天猫にも出店。蘇寧のネット通販は、蘇寧易購と天猫旗艦店の2本立てとなる。この効果は大きく、2017年末には、家電量販店1位、総合ネット通販でも、アリババ、京東に次ぎ3位を占めた。そして再び、拡大路線に戻る。2019年には、1万3000のオフライン店を束ね、6月には、大手スーパー、カルフール株の80%を買収した。
 
(サブストーリー)
 
ところが、拡大路線は、またもつまずいた。もう一つの象徴、カルフールもひん死の状態に陥った。カルフールは1995年中国に進出、2018年には239店舗、133億2800万元の利益を上げていた。それが2019年は、98億4300万元、ところがコロナ禍の2020年、42億7500万元の赤字に転落、2021年には、432億6500万元と赤字が10倍に拡大した。2021年7月、張近東は、その責任をとって董事長の座を退く。2022年9月末には151店舗に縮小。さらに2023年には、一部サプライヤーが支払い滞納を理由に、商品供給を止めるなど、バッドニュースが続く。家電量販店と総合スーパーで市場を支配し、最強の小売業を目指した蘇寧だが、ビジネスモデルの陳腐化により、はっきり共倒れが見えてきた。張近東に有力な参謀役は存在しなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?