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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第98回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子路十三の二~四
 
子路十三の二
 
『仲弓為季氏宰、問政。子曰、先有司、赦小過、挙賢才。曰、焉知賢才而挙是所知。爾所不知、人其舎諸。』
 
仲弓は季氏(魯の貴族)の家老となった。そこで孔子に政治を問うた。孔子曰く、「先に役人選びをせよ。小さなミスは問うな。賢者を登用せよ。」「どのように賢者を見つけ、登用すればよいのでしょう。」「まず、知っているものを使え。知らない賢者は、だれもがすてておかず、推薦してくる。」
 
(現代中国的解釈)
 
2022年の就職戦線は厳しい。大卒者数は1076万人、前年比167万人増となり。規模、伸び率とも過去最高だった。そのため大学院入試には110万の定員に対し、457万人が殺到した。某就職メディアは、次のように提言を行なっている。
 
1 公務員の定員を拡大。
2 大学院の定員を拡大。
3 2つ目の学位所得へ大学の環境整備。
4 高専生の学問継続への環境整備。
5 軍隊体験、入隊を後押し。
6 自媒体産業、ライブコマース等への参入を後押し。
7 デジタル産業の発展により、新しい就業機会を創造。
8 奨励策を取り、中小企業への就職を支援。
9 平等意識職業を確立し、大卒者のキャリア期待値を下げる。
10 大学生のイノベーション、創業への支援。
 
最も重要なのは、9の平等意識職業を確立し、大卒者のキャリア期待値を下げることだろう。
 
(サブストーリー)
 
一方で天才を発掘し、採用していかねばならない。有名になったファーウェイの天才プロジェクトは継続し、4年間で20人を採用した。年棒は90万~200万元、非公開の人もいる。
 
 
2019年 男10人、全員博士課程
2020年 男5人、女1人、博士3人、修士1人、学部生2人
2021年 男1人、女1人、博士1人、学部生1人、
2022年 男2人、女1人、博士1人、ロシア人2人
 
北京大学2人、清華大学1人、といわゆる難関大学に偏らず、学部生もいる。先入観にとらわれず、ひたすら試験と面接を繰返した上で採用している。ただし特別にすぐれた学術成果を持っていること、その分野でリーダーになる野心を持っていることが前提だ。今年初めて採ったロシア人の2人はティーンエイジャーという。ウクライナ戦争は、中国のチャンスになっていそうだ。彼ら天才たちによる目に見える成果は、まだ明らかになっていない。
 
子路十三の三
 
『子路曰、衛君待子而為政、子将奚先。子曰、必也正名乎。子路曰、有是哉、子之迂也。奚其正。子曰、野哉、由也。君子於其所不知、蓋闕如也。名不正則言不順。言不順則事不成。事不成則礼楽不興。礼楽不興則刑罰不中。刑罰不中則民無所措手足。故君子名之必可言也。言之必可行也。君子於其言、無所筍而已矣。』
 
子路曰く、「衛の君主が先生を招聘し、政治を任されたなら、まず何をなさいますか。」孔子曰く、「まず名分を正す。」子路曰く、「先生はこれですからな。だから迂遠と言われます。なぜ名分なのですか。」孔子曰く、「君は大雑把だな。君子はそもそも自分の知らないことは話さない。名分が正しくなければ、言葉は順当にならない。言葉が順当でなければ政治もうまくいかない。政治がうまくいかないと、礼楽も興らない。礼楽が興らなければ、刑罰も妥当となならない。刑罰が妥当でなければ、手足さえ置くところがない。故に君子は、名分を必ず説明しなければならない。そして説明すれば、必ず実行しなければならない。そして君子は、軽々しく発言しない。」
 
(現代中国的解釈)
 
言うは易し、行ないは難し。しかし、現代中国の創業経営者たちは、これを易々と体現してきた。社会のソリューションに働きかければそれでよかったため、苦労してネタを探す必要はなかった。うまくオンライン上でフィットすれば、瞬く間にビッグビジネスとなった。ネット通販やシェアエコノミー、投稿ショートビデオはその典型である。
 
(サブストーリー)
 
ネット通販の象徴は、いうまでもなくアリババである。その対抗は、京東(JD)だ。昨年の双11(11月11日独身の日セール)の全通販サイトの成約総額は9651億元、そのうちアリババ5403億元、京東3491億元と両者で大部分を占めている。最近、その創業者、董事長兼CEO・劉強東が、グループの株を売却し始めたことが、さまざまな憶測を呼んでいる。
 
京東は1998年、北京・中関村で設立された。劉強東は総経理(社長)に就任、主力業務は、光ディスク製品の販売代理店だった。これはすぐに成功し、全国に12店舗を持つまでになる。当時は、「国美」「蘇寧」のような実体店のチェーンストアを目指した。状況が変わったのは2003年のSARS騒動だった。感染を避けるため全店舗を閉鎖、ネット通販に乗り出す。SARSが発展のきっかけとなったのは、アリババと同様である。終息後の2004年、劉強東は通販サイト「京東多媒体網」をスタート、同年末にはオフライン店舗を完全閉鎖。2007年、スタートアップ融資を獲得。同年2つの大きな決定をした。1つめは、電化製品中心から総合通販への拡大。2つめは、自社物流システムを構築すること。
 
アリババとの違いは、自ら仕入れ販売する、直営型ネット通販であること、自社物流を構築したことである。アリババはプラットフォームを提供し、手数料、利用料を売上とするが、京東は、直取引のため、売上高はアリババよろ大きい。アリババは物流子会社、菜採網絡を持っているが、これも各社の物流資産をプラットフォーム型である。京東は、自主物流システムを整えた。アリババに比べ在庫、物流施設など重資産を抱えているため、黒字化は大幅に遅れた。しかし、アリババとは異なるアプローチを採ったおかげで、現在のポジションがあるのは間違いない。
 
劉強東は物流が好きなようで、今でも毎年1日時間を割き、自ら出荷作業を行なうという。その甲斐あって、現在では全国130を超える地区で、当日配送を実現した。また、物流会社として、京東グループ以外の仕事が50%を超えたという。理念を掲げ、説明し、着実に実行してきた経営者といえそうだ。
 

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