見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第105回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子路十三の二十一~二十三
 
子路十三の二十一
 
『子曰、不得中行而与之、必也狂狷乎。狂者進取、狷者有所不為也。』
 
孔子曰く、「中庸の人を得て、その人と仲良くならないとすれば、誇大妄想か頑固な者と仲良くなるべきだ。誇大妄想な者には進取の気性があり、頑固者は悪をなさない。」
 
(現代中国的解釈)
 
ストイックに自己実現を追求する人は、問題というかスキャンダルは起こさない。しかし偉人といわれる人は、たいてい問題児である。現代中国では、秀才と問題児が混在しているが、いわゆる”いい子”は少ない。そんな中、小米(シャオミ)創業者・雷軍は、“いい子”イメージと強いリーダーシップを両立させている珍しい存在だ。
 
(サブストーリー)
 
雷軍は1969年、湖北省・仙桃生まれ。大学時代の学習能力は“出色”だったという。卒業後、次のような段階を踏んでいく。
 
第一段階…同級生と起業するもほとんど失敗。唯一の成果は、湖北省科学技術功績賞受賞。
第二段階…金山(Kingsoft)に入社、16年間在籍し、社長へ上り詰め、上場を果たす。
第三段階…I Phoneの出現に衝撃をうけ、スマホ製造メーカー、シャオミを設立。
第四段階…MIMUオペレーティングシステムの開発。Androidをカスタマイズ、中国ユーザー向けに最適化。現在のバージョンは13番目。
第五段階…リーダーシップ。2011年8月の1号機発売イベントは、感動的なものだった。常にシャオミの堅持すべき方向、身に付けるべき能力を説き、それらを行動で示した。
 
これらの段階を踏み、雷軍は8年で、世界トップ500に入る富豪となった、2021年決算は、売上3283億元、前年比33.5%増、利益は220億元、69.5%増だった。しかし2022年は、スマホ市場の世界的冷え込みや、18億6500万元(第三四半期まで)に及ぶ、EV車への投資などで、業績は悪化した。問題は山積している。雷軍は、持前えの明るいリーダーシップで乗り切れるだろうか。
 
 
子路十三の二十二
 
『子曰、南人有言。曰、人而無恆、不可以作巫医。善夫。不恆其徳、或承之羞。子曰、不占而已矣。』
 
孔子曰く、「南方人の言葉がある。『人として信念がなければ、易者や医者も、どうしようもない。』これは良い言葉だ。「その徳の標準がぐらつけば、辱めを受けるかも知れない。」孔子曰く、「これは占うまでもない。」
 
(現代中国的解釈)
 
徳の標準、つまり信念とその強さは、経営者に不可欠の条件だ。2022年末にかけ、米国株式市場の下落に伴い、中国IT株も暴落した。とくに目立ったのは「好未来」18%、「B站」8%、「新東方」の8%下落である。このうち、好未来と新東方は、“双減政策”により大打撃を被った教育企業だ。
 
(サブストーリー)
 
好未来は2003年設立の「学而思」からスタート、最も早くオンライン教育の可能性に取り組んだ。先発のアドバンテージを生かして順調に発展、2010年には、教育関連企業として初のナスダック上場を果たす。2013年、好未来に改名、多角化へ向かう。テンセントと合弁で教育創業者養成の「未来之星」を、教育ファンドの「好未来公益基金会」を設立。業務範囲を1歳~24歳へ拡大。“個性を伸ばす教育“分野の研究とイノベーションを加速。2020年、国連とも合弁。しかしこの年、売上水増し問題が発覚し、株価暴落。しかしその後、コロナ禍のオンライン教育需要を取り込み、急回復した。とろが2121年7月の双減政策が直撃する。2021年末には、義務教育関連と、校外補習サービスを停止せざるを得なかった。2022年の上期(2022年3月~8月)決算では、売上5億1800万ドル、前年比81.7%減と5分の1以下に激減してしまう。
 
2022年3月、二次創業の段階に入ったとして、事業の全面モデルチェンジを開始。科学技術サービス、スマートデバイス、及び生命科学等、非教育分野を未来の重点業務とし、“愛とテクノロジーにより生涯の成長を支援”、を企業使命に掲げた。売上が5分の1となってもめげない不屈の闘志は、評価できる。ただし、プランやソリューションについて、具体的になっていない。
 
一方ライバルの「新東方」は昨年、ネット通販プラットフォーム「東方甄選」を立ち上げた。そして2022年6月には、ライブコマースに本格進出した。反応は上々で、ショートビデオアプリ抖音では、閲覧数トップにランクだ。具体策が身を結び始めた。その差が株価に表れているようだ。
 
子路十三の二十三
 
『子曰、君子和而不同。小人同而不和。』
 
孔子曰く、「は君子はよく人と協力するが、雷同はしない。小人は雷同するが、人と協力できない。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国企業では、同僚同士が協力しない。中国人はチームスポーツには向いていない。サッカー中国代表の弱さは、その具現化である。成功秘話も、プロジェクトXのようなチーム力の物語より、強力なリーダーによる、リーダーシップの物語が多い。しかし実際には、共同経営者がいるケースは多い。ショートビデオ「快手」はその1つだ。
 
(サブストーリー)
 
中国にはUtubeはないが、国産の投稿シェア型プラットフォームはたくさんある。抖音(TikTok国内)快手、小紅書、B站などが代表的だ。その分、競争は激しい。
 
創業者・程一笑は1985年生まれ。東北大学ソフトウェア学院を卒業後、ヒューレットパッカード、SNS「人人網」を経て、2011年、快手の前身、GIF快手を創業した。
 
もう1人の創業者、宿華は1982年生まれ、清華大学ソフトウェア学部から大学院へ進学。博士課程を中退、Googleの15万ドルオファーを獲得した。Googleで2年間、過ごした後、起業に挑む。同級生らと33のプロジェクトを立ち上げ、すべて失敗におわったころ、
程一笑と出会い、2013年、快手に入社する。
 
程一笑は、彼を製品の責任者に着けた。そして宿華は、快手をGIF画像から、ショートビデオ(当初は7秒)投稿シェアプラットフォームに変えていく。これは大成功を収め、今ではMAU8億、DAUは3億を大きく超えている。世間では、この成功を導いた宿華こそ快手の創業者と考えている人が多い。実際に持ち株比率も、程一笑を上回った。2021年10月、宿華は董事長、程一笑はCEOとなった。宿華がCEOを譲った形である。
 
2021年の売上は810億元、前年比37.9%増、2022年も2桁の伸びが続いている。越境Eコマース、不動産販売、フードデリバリー最大手「美団」との提携など、新機軸も次々に打ち出した。CEOの交代は、影響なさそうだ。しかし抖音との差は詰まっていない。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?