見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第104回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子路十三の十八~二十
 
子路十三の十八
 
『葉公語孔子曰、吾党有直躬者。其父壤羊、而子証之。孔子曰、吾党之直者異於是。父為子隠、子為父隠。直在其中矣。』
 
葉公が孔子に向かい、「私の郷里に正直者の躬という者がいる。彼の父親が羊を盗むと、子がこれを証言した。」孔子曰く、「私の郷里の正直者は違います。父は子のために隠し、子は父のため隠し通す。正直さは、その中にあります。」
 
(現代中国的解釈)
 
社会正義の実現は後回し、何より一族の上昇を優先する。中国人の根本は、市場経済が定着した現代になっても変わらない。自分優先の儒教思想は、不滅のようである。
 
(サブストーリー)
 
自分優先は、就職においても変わらない。国有企業の安定した“鉄板碗”を望む人も、IT企業で転職を繰り返す人も、ただ有利不利を考えているだけにすぎず、同じ穴の住民である。IT企業従業員の勤続年数は短い。アリババ、テンセントにしても、創業22~23年にすぎず。当然、大卒定期採用で入社し、定年まで務めた人など1人もいない。昇進は実績第一、年功序列はない。社内では上司との関係が大部分を占め、同期、同僚との連帯は見かけだけ、まして先輩が後輩を育てる組織風土はない。アクションを起こす動機も原理も日本人サラリーマンとは、大きく異なる。そのため人員削減は、する方もされる方もドライに割り切っている。
 
アリババは、2021年12月末、25万9316人から、2022年9月末には、24万3903人へ、1万5413人の削減を行なった。
 
テンセントは。同じく11万2771人から、10万8876人へ5423人を削減。百度は、3万9600人から3万6500人へ3100人を削減した。BATを合わせると全体の約6%になる。2021年までのIT巨頭は増収増益増員が当たり前、中国経済成長の象徴だった。それが構造調整に入った。市場環境の変化が原因だが、それをもたらしたのは、政府の共同富裕政策に違いない。
 
子路十三の十九
 
『樊遅問仁。子曰、居処恭、執事敬、与人忠、雖之夷秋、不可棄也。』
 
樊遅が仁について問うた。孔子曰く、「家庭では敬い、仕事では敬い、人と接するときは誠実に、というのは、野蛮の地へ行っても、放棄してはいけない。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国ネットには一頃、“野蛮な成長”という言葉が頻出した。新しく生まれた業態は、野蛮な成長に任せたままにしておく。時が経ち、既存業態や、社会との摩擦が明瞭となってから規制をかける。配車アプリ、シェアサイクル、フードデリバリー、ショートビデオ、ライブコマースがその典型である。
 
(サブストーリー)
 

ライブコマースの先鞭を付けたのは2016年、アリババの「淘宝直播」だ。急成長するとともに、2人の大スターが誕生した。元バンドボーカリストの薇婭(女性)と、元ロレアル美容部員の李佳琦(男性)である。その薇婭は2021年12月、脱税を立件され、13億4100万元もの追徴+罰金を受けた。個空前絶後の金額だが、2020~21年の2年間で57億元を稼いだらしく、支払い能力は十分だ。しかしそれ以来、ライブは中止されたままである。淘宝直播は、ドル箱を失い、薇婭も収入の絶たれた。しかし、薇婭夫妻は、一筋縄では行かない強者だった。

 
夫が未上場の「巨子生物」という会社に投資していた。同社の柱は、遺伝子組み換えタンパク質である。最終製品はスキンケア、医療機械、機能性食品、特殊医学用食品などがある。薇婭とは、ライブコマースでセールスしてもらう関係だった。2021年の双11(11月11日独身の日セール)では、予約だけで5000万元を達成、薇婭のライブでトップ5に入った。
 
2022年10月、その巨子生物が、香港市場へ上場した。薇婭夫妻の持ち株は、爆上がりし、評価額は2億元となった。こうしてみると、むしろ休止はプラスだったのではないかと思える。このような濡れ手で粟は、今後もありそうだし、ライブ再開をにらみ、さまざまな働きかけがあるだろう。こうした利権は、とても放棄できるものではない。
 
子路十三の二十
 
『子貢問曰、何如斯可謂之士矣。子曰、行已有恥。使於四方不辱君命。可謂士矣。曰、敢問其次。曰、宗族称孝焉、郷党称弟焉。曰、敢問其次。曰、言必信、行必果。硜硜然小人哉。抑亦可以為次矣。曰、今之従政者何如。子曰、噫、斗膂之人、何足算也。』
子貢が孔子に問うた。「どのような人物を一人前の士といえるのでしょうか。」孔子曰く「自己の行動に恥を知る。使者に派遣され君主の命を辱めない。これなら士と呼べるだろう。」では次の段階はどうなりますか。孔子曰く、「一族から孝行とされ、郷里からは目上に従順とされている。」その次はどうなりますか。孔子曰く、「発言が信用され、果断に実行する。これでは融通がきかず小人のようだが、それでも次の段階といえるだろう。」昨今の政治家はどうでしょうか。孔子曰く、「ああ、器の小さな連中だ。何のプラスにもならない。」
 
(現代中国的解釈)
 
器の大小と年齢は関係ない。IT業界2010年代の創業組は、80后が多い。以下のメンバーである。
 
滴滴出行、  程 維 1983年生まれ 北京化工大学
バイトダンス 張一鳴 1983年生まれ 南開大学
快 手    宿 華 1983年生まれ 清華大学、
拼多多    黄 崢 1980年生まれ 浙江大学、ウィスコンシン州立大
SHEIN    許仰天 1984年生まれ 青島科技大学
 
(サブストーリー)
 
TikTok運営のバイトダンスは、若い経営陣に率いられ、瞬く間に大企業へ成長したが、このほどさらに若い90年代生まれの取締役が誕生した。抖音(TikTok国内版)の最高責任者についた韓尚佑氏である。1990年生まれ、2013年南京大学卒、2016年バイトダンス入社、もう1つのショートビデオ、火山小視頻を担当、2019年、抖音のライブ放送の責任者、2021年には、抖音生活サービスと抖音オープンプラットの責任者となっていた。抖音の新しいビジネス開発をリードしてきた。
 
今回の人事は、業務のさらなる発展のための構造調整という。30代前半のビッグボスである。他の幹部もおしなべて若いのに違いない。彼らは成功体験や、時代にすらとらわれない。中高年男性が牛耳る日本の大企業では、とても太刀打ちできなそうにない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?