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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第151回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
陽貨十七の十三~十四
 
陽貨十七の十三
 
『子曰、郷原徳之賊也。』
 
孔子曰く、「地元の人気者は徳にとって敵である。」
 
(現代中国的解釈)
 
ファーウェイとシャオミの人気が上昇している。ファーウェイは孟晩舟副会長のカナダ拘束事件以来、米中経済摩擦のシンボルとなった。孟晩舟氏の帰国は、全国に生中継され、数億の国民が視聴した、正に英雄の帰還であった。一方、シャオミの創業者・雷軍は、チャレンジ精神と、郷里のいい子イメージで人気が高い。シャオミは2010年代、低価格スマホ普及の中心となり、中国のDXに大きな貢献をした。その対極にある基地局の拡大に貢献したのがファーウェイだった。それらの功績と人気が、今年の双11(11月11日独身の日セール)で再認識されたという。人気の副作用は表れていないだろうか。
 
(サブストーリー)
 
双11セールで毎年話題をさらうのはスマホである。各プラットフォームがクーポンを大量発行するため、iPhoneを割引価格で買う数少ないチャンスだ。その効果でこの時期、iPhoneの売上トップは揺るがない。iPhoneに関しては、各通販プラットフォームの販売実績が、注目点となる。
 
そのiPhoneに対し、シャオミは、ラッグシップ機Xiaomi Mi 14を、双11セール期間中にデビューさせた。この賭けは見事的中し、10日間で144万7400台を売上げた。これは1000元クラスの廉価モデルRedmi Note Proよりも多い。そして4000~5999元クラスで、iPhone15 iPhone13 に次ぐ3位を記録した。さらに4位がiPhone14 5位がXiaomi Mi 14Proが5位にランクインしている。
 
6000元以上の最上位クラスでは、iPhone15ProMaxm、iPhone15Pro、iPhone15Plusとトップ3をiPhoneシリーズが占め、ここで4位に食い込んだのが、ファーウエイMate60Proである。ファーウェイは、TSMCが米国側に付いて以降、5Gスマホ用の最新ロジック半導体を手配できなくなった。その米国制裁を国内トップの中芯国際(SMIC)が突破、ファーウェイはそれを搭載、久々の5Gスマホをリリースした。ただし、一切のプロモーションもなしに、ひっそりした発売だった。サプライチェーンに不安があったに違いなく、実際在庫不足による欠品が目立った。中国メディアによれば、Mate60こそiPhoneに対抗する国産の“フラッグシップ”である。そして、商品力さえあれば、双11の販売競争を避ける必要はない。誠実にフラッグシップ機を作り続ければ、確実に市場は拡大する。他メーカーも追随すべきと表現している。米国制裁に対抗しようという啓蒙活動のように見える。
 
陽貨十七の十四
 
『子曰、道聴而塗説、徳之棄也』
 
道端で聞いたことを自説のように吹聴するのは、徳を捨てるのと同じである。
 
(現代中国的解釈)
 
三菱自動車は広州汽車との合弁企業「広汽三菱」から撤収、中国生産から身を引いた。徳を捨てたわけではない。広汽三菱は、債務超過を解消後、三菱側持株(三菱自動車30%三菱商事20%)をたった1元で広州汽車に譲る。広汽三菱の工場設備は、広汽集団のEV生産子会社、広汽車埃安新能源へ売却する。広汽集団は、グループ内の資金移動だけで済んだものの、日本の三菱側は大損したように見える。潔さという日本的美徳にこだわり過ぎたような気もするが。
 
(サブストーリー)
 
中国メディアは。広汽三菱に続き、一汽豊田の減産ニュースを取上げている。トヨタの中国生産は、第一汽車合弁の一汽豊田と、広州汽車合弁の広汽豊田の2社体制である。広州汽車には、その他に広汽本田、広汽日野もあり、トヨタ、ホンダ、三菱、日野と日系4社との合弁企業を持っていた。もともと外資合弁企業の窓口とすべく、広東省の財界が2005年、協力して設立した企業である。国有だが新興勢力だ。第一汽車は、対照的に1953年の設立の国有名門企業で、紅旗、解放など、国産大型乗用車を生産していた。トヨタ、フォルクスワーゲンと合弁会社を設立している。
 
さてその一汽豊田が減産を発表したのである。減産は10月から2024年2月まで5ヵ月続く。これにより販売への影響は避けられないが、まずディーラー在庫を圧縮するのが先決らしい。価格抑制に役立ち、価格の継続的下落による利益減少を軽減できる、という判断だ。
 
一汽豊田の売上(1~10月)は、67万1000台、前年同期比6%増、広汽豊田76万4000台、9、4%減。全体で微減だが、これは外資系では最も良い成績である。内燃エンジン車だけで踏ん張っている、という表現がピッタリだ。何しろEV車はbZ3とbZ4Xしかない。しかも性能は平凡で、アドバンテージはない。合弁2社の販売の2、7%(9月単月)に過ぎない。固体電池に投資したり、BYDと研究開発会社を作ったり、手は打ってきたが、出遅れ感はやはり否めない。
 
挽回すべく、今年8月、トヨタの中国研究開発拠点、豊田研発中心有限公司が、豊田智能電動汽車有限公司有限公司に改名した。そして、一汽豊田、広汽豊田、BYDと合弁の研究開発会社、比亜迪豊田電動科技公司の技術者が連携し、中国での研究開発を推進するという。これで一番利益を得るのは勢いに乗るBYDではないか、という懸念はあるがどうだろう。お人よしの徳がでなければよいが。もっともBYDとがっちり組んで、テスラや新進の中国勢を蹴散らす、という手もある。それにはどうしても技術的ブレークスルーが必要だ。固体電池に期待がかかる。

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