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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第124回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
憲問十四の四十六~四十七
 
憲問十四の四十六
 
『原壤夷俟。子曰、幼而不孫弟、長而無術焉、老而不死、是為賊。以杖叩其脛。』
 
原壤が立膝をついて待っていた。孔子曰く、「幼少時に従わず、成長しても話すほどのことはなく、老いてもなかなか死なない。こんなやつを賊という。」と言って原壤の脛を叩いた。
 
(現代中国的解釈)
 
中国不動産危機の象徴となった、恒大集団と創業者・許家印は、現代の大盗賊なのだろうか。許は1958年、河南省周口市の生まれ。翌年、母親が敗血症で死亡、祖母に育てられた。地元の高校を卒業後、2年間、農村のあらゆる労働を経験する。その後、地元の援助を受け大学入試に挑み、武漢鋼鉄学院に入学できた。そこで金属材料と熱処理を学び、卒業後、河南舞陽鋼鉄公司に就職。ここではさまざまな課題のソリューションを成し遂げる、
大活躍を見せた。しかし1992年、廃棄物処理業者を変えたことで、汚職調査の対象となってしまう。嫌気がさして退社すると、改革開放の熱気が渦巻く、深圳の会社へ転職した。
 
許にとって、この会社が不動産業進出へしたことは僥倖だった。ここで得た経験を生かし1996年、恒大を創業した。
 
許は、品質こそ企業の礎石という考えを貫き、企業規模拡大とブランド力アップの両立を図る。そして無私の姿勢で事業を開拓していく。こうした企業精神は、ユーザーの支持を集めた。そしてわずか10名でスタートした恒大は、中国で1、2を争う不動産会社にまで成長する。
 
(サブストーリー)
 
しかし、いつの間にか企業規模拡大に大きくシフト、銀行からカネを借り過ぎた。2020年夏、金融当局が導入した不動産融資3つのレッドラインに全てひっかかった。新規借入が難しくなり、経営の抜本改革を迫られる。許は自宅や私有財産の処分も含め、必死で資産の縮小を図った。そして最近では、あまり話題にも上らなくなっていた。強制執行や、競売くらいのニュースでは誰も驚かない。注目は、資産縮小を迫られても、応じなかったEV車事業の生末である。
 
恒大は2018年、自社の不動産事業モデルを、自動車業界で再現させることを目指し、EV車生産に進出した。同年に400~500億元を投資したのを皮切りに、これまで7830億元を投じた、
 
最新の発表によれば、唯一発売にこぎつけたSUV恒馳5(17万9000元)が、生産停止に追い込まれている。5月には再開するというが、原因は資金不足にあるという。ということは、次の資金調達に失敗すれば、おしまいである。さらに5月には、裁判所から60億元の賠償命令を受けた。
 
経営再建中にも関わらず、新規事業に巨費を投じるなど、中国以外では、そもそも通用しそうにない。これを認めさせた許は、やはりただ者ではないが、7830億元をパーにしてしまえば、やはり盗賊として記憶されるだろう。
 
 
憲問十四の四十七
 
『闕党童子将命。或問之曰、益者与。子曰、吾見其居於位也。見其与先生並行也。非求益者也。欲速成者也。』
 
闕の村出身の子供が孔子の取次ぎをしていた。ある人が孔子に問うて曰く、「役に立っていますか?」孔子曰く、「彼は、大人の席に座り、年長者と肩を並べて歩いていた。早く役にたちたいのではなく、手っ取り早く、大人に見せたい、と思っているのです。」
 
(現代中国的解釈)
 
ショートビデオアプリトップの抖音(海外名・TikTok)は、生活総合サービス化を志向し、さまざまな機能を付加している。その一方、本業のライブ配信に関する、自らの行動規範を明確化した。手っ取り早く、取り繕ったのだろうか。
 
(サブストーリー)
 
その規範とは、バーチャルヒューマン(のライバー)に関するものだ。ポイントは以下。
 
バーチャルヒューマンの“合法性”を初めて認めた。創造を支援するためのAI使用は、抖音プラットフォームの規範に反していないとした。アバターを登録し、保護する機能を提供し、バーチャルヒューマンをデジタル資産として保護する。
 
ただし、法律実務のレベルでは、まだ判例が少ない。最近、杭州インターネット裁判所は、バーチャルヒューマンに関する権利侵害訴訟の判決を下した。その中でバーチャルヒューマンは、現行法の枠組みでは、著作権とその隣接する権利の保護を受けていない、と指摘している。
 
そのためにも、トップ企業の規範は、今後を左右する。抖音は、AIによって生成されたコンテンツの識別機能を提供する。クリエーターはマーキングしなければならず、ユーザーはバーチャルとリアルを区別できるようになる。また同時に「抖音人工智能生成内容標識水印与元数居規範」を公布した。それによれば、AI生成のコンテンツのロゴ透かし(ウォーターマーク)に至るまで規制する。これは2023年1月に施行された「互聯網信息服務深度合成管理規定」に応えたもの。これによれば合成されたサービス、つまりバーチャルライブ提供者は、その旨を明示し、コンテンツの位置、領域を明らかにすることで、公衆の混乱や誤認を回避しなければならない。
 
とにかくトップ企業が率先して規範を作った。この規範が仮想現実で終れば、笑い話にもならない。
 
 

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