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鼻のけもの バナナサンデー第10話

鼻のけものは煙草の煙を見つめた。
店主はつらい思い出を紛らわす為に煙草を吸っているのかもしれない。
ゲホッと時折咳をするが、店主が煙草を吸うのはニコチンに依存というより、まるで自分を罰しているようだった。
(さみしさ…。砂漠の中にひとりぼっちの、どこへも行きようのない果てのないさみしさ…)
さっきのお風呂の思い出はまるで幸せな父子の絵の中のひとつの欠けもない温かさだった。
それが、今はどうだ。
目も当てられないザマだ。
無限の砂漠だ。
(こりゃ、煙草を吸いまくって早死にしたいということなのかな?そんな感じだぞ!)
鼻のけものはバッと立ち上がった。
居ても立っても居られない気持ちになった。店主を助けたい!このさみしさをどうにかして少しでも和らげたい!鼻けものは鼻息荒く思った。
店主はぼんやり煙草をふかしていたが、やがてまたビールを飲み立ち上がった。
(なんだなんだ。ビールおかわりか!)
鼻のけものは店主の動きに身をかがめた。
店主はキッチンに行くと冷蔵庫を開け、ウインナーとピーマンを取り出した。
ピーマンの種を取りトントンとぶつ切りにしてフライパンでウインナーと炒めた。
(そうだ!そうだ!お酒を飲む時はおつまみ食べなくちゃ!空きっ腹に煙草とビールは身体によくないぞ!)
鼻のけものは思った。
店主は少し考えてお湯を沸かした。
そこにそうめんを1束分いれ、2分茹で、ザルに上げ冷水出で締めた。
みょうがを刻み、小皿に盛る。
(おっ!そうめんそうめん。ちゅるちゅるだ!)
鼻のけものは店主の手際にじっと見とれた。
店主はまた少し考え、冷蔵庫からなすを取り出すと適当に切ってフライパンで多めの油で転がした。
(そうだ!そうだ!なすにおろししょうがは合う!そうめんと一緒に食べればバッチリだ!!)
鼻のけものは店主を応援した。
鼻のけものに今できることはこれくらいだ。
キッチンには食べ物のいい匂いでいっぱいになった。
店主は深めの皿にそうめんを盛り、そこに揚げたなすをたんまりのせ、チューブのおろししょうがをチュッと絞り、刻み海苔もたっぷりのせた。
よく冷えた麺つゆを上から回しかけてそうめんはできた。薬味に小皿のみょうが。
それにピーマンとウインナー炒めが店主の今日の夕食だ。

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