ドイツの現役活字鋳造所 [1. Gerstenberg活字鋳造所]

はじめに

デザイナーの千星(ちぼし)と申します。NECKTIE design officeという名前でGRAPHIC・WEB・PRODUCTとジャンルをはみ出してデザインをしています。写真撮影・映像・LETTER PRESS(活版印刷)などもやっています。

2018年に東京で開催されたInterior Lifestyleという展示会で「Young Designer Award」という賞をいただき、その副賞として2019年2月にドイツ・フランクフルトで開催された世界最大規模の消費財見本市「Ambiente(アンビエンテ) 」に招待出展させていただきました。

展示会自体は下記のような感じでした。

ずっとタイポグラフィやデザインが大好きで仕事をしてきましたが(タイポグラフィスクールの講師もさせていただいております)、せっかくドイツに行ったんだからと、いくつかタイポグラフィやデザインにゆかりのある場所に行ってきたのでそのレポートをnoteに書いておきます。

こんなマニアックな記事にどれだけ需要があるのかわかりませんが、フランクフルトはヨーロッパのハブ空港としてトランジットで使うケースも多いかと思いますので、今後ヨーロッパやドイツに行く人の参考になれば幸いです。

またこの分野は詳しい方々がたくさんいらっしゃるので、もし間違っている記述などがあれば、ご指摘いただけるとうれしいです。

目次
1. Gerstenberg(ゲルステンベルグ)活字鋳造所
2. Klingspor(クリングシュポール)ミュージアム
3. Rossmarkt(ロスマルクト広場)のグーテンベルグ像
4. グーテンベルグミュージアム
5. BRAUN コレクション


1. Gerstenberg(ゲルステンベルグ)活字鋳造所

ダルムシュタットにあるSchriftgießerei Rainer Gerstenberg(ゲルステンベルグ活字鋳造所、以下Gerstenberg)に行ってきました。

ドイツ語がまったくできない(英語もかなり微妙)人間が、ひとりで訪問するのも不安すぎるので、現地でデザイナーでタイポグラフィを研究されているBert Projahn(バート プロヤン)さんに同行していただきました。プロヤンさんは何度も来日され、日本で展覧会なども開催されています。

僕の英語はあまりにひどいので、プロヤンさんが日本語ードイツ語で通訳いただいて意思疎通。本当に助かりました。ありがとうございます。

さまざまな種類の鋳造機が並んでます。モノタイプなどはなく、すべて1本づつ鋳込むタイプの鋳造機。日本と同じく鋳造する活字のサイズ毎に鋳造機を変えているそうです。そして空間をゆったりとっているので、とても見やすく美しい。

Gerstenbergはヘッセン州の博物館として活字鋳造の機材等を保管しながら、いまも現役で活字の鋳造をしています。こういったワーキングミュージアムは日本にはあまりない気がします。工業技術はガラスケースに収められてみせるよりも、ちゃんと使ってこそ技術も道具も伝えていくことができると思うので、日本でもそういった動きがあればいいのになぁ。

GerstenbergはStempel Type Foundry(ステンペル活字鋳造所)が廃業する際に、当時の大学教授が交渉してヘッセン州の博物館として資材一式を引き継がれたそうです。そのあたりドイツはとてもしっかりしているイメージ。

鋳造された活字。日本ではあまり見ない置き方です。今は60ptまで鋳込んでいて、昔は96ptのサイズまで作ってたそうです。

インテルも鋳込んでます。

活字製造の説明イラスト。父型の彫刻、ベントン、ハンドモールドなどこの資料だけでももっとじっくり見たい。

インゴット(しゃけ)も床にころがってます。

こちらがゲルステンベルグさん。ちょうどアルミニウムの活字を鋳造されていました。普通の鉛合金の活字よりも高温だそうで、あまり近づかないように言われました。

ゲルステンベルグさんはヨーロッパで最後に活字鋳造のトレーニングを受けた鋳造工さん。Stempelの鋳造工として勤務されていて、博物館がStempelの一式を引き継ぐ際にあわせて異動されたそうです。午前中はダルムシュタットのこの場所でで鋳造し、午後はフランクフルトで印刷の仕事をしてるそうです。とても精力的です。

ゲージで確認。このあたりは日本と同じですね。

見せていただいたType widthの指示書。これはStempel Garamondのもの。単位はmm。すべての活字にこの指示書があり、ちゃんと残っている。これのほかにマスターの活字もあるので、それでType widthを正確に保っているそうです。

そこらじゅうにいろんな活字が。

こんな装飾的なイニシャル用の母型も

ジョブケースのマップ。この形も日本では見ないレイアウト。左側にウムラウト付きの活字やロングs、chやckのリガチャーの活字がおさめられているのもドイツっぽい。昔はStempelでこの仕様のジョブケースもつくっていたそうです。

こちらはゲルステンベルグさんのお嬢さん。出荷などを手伝っておられるそうです。活字を求めているお客さんは世界中にいて、アメリカやイギリスが多いよう。日本にも郵送可能(サイズがdidot pointなので注意が必要ですが)。
活字の高さもジャーマンハイトで日本の活字より少し高く、オーダー時に伝えれば、日本の活字の高さにも削ってくれるそうです。

ドイツ国内の活版印刷はベルリンにErik Spiekermann(エリック・シュピーカーマン)さんのp98aのような場所もあるものの、日本やポートランドのような盛り上がりがなく、ドイツ国内ではほとんど活字の需要がないそうです。さみしいなぁ。

お嬢さんは活字鋳造はされていない(危ないからさせない)そうです。日本と同じくここでも後継者問題を抱えています。まずは活字を購入することが一番の応援になるのかなと思います。

博物館ということもあり、横のスペースには印刷機や活字も置かれています。こども向けのワークショップなどもされているそう。

ベントン彫刻機もありました。ただ今は使われてないそう。

手書きの原図からベントン彫刻用のパターン板を彫刻するパンタグラフ式の彫刻機。こちらも現在は稼働しなていないとのこと。

そして圧巻だったのが、地下にある母型庫。

この棚の全部に母型が入っています。すごい数。

引き出しをあけると母型がずらっと。金属の色をみるとわかりますが、スチール製の母型です。日本の母型は真鍮が多いですし、電胎母型も多いので見た目に新鮮。真鍮もあるそうですが、より硬度の高いスチールの母型が多いそう。

僕も以前に試作ですが母型を製作したので、母型と活字を持っていったところ、ゲルステンベルグさんもかなり興味をもってくださいました。僕が作った母型は真鍮製。

ドイツ国内でも新たに母型を作ってくれるところがあるようですが、高額なので困っているとのこと。どこも状況は似ていますね。

棚の上には何が入っているかわかるサインがあり、母型を探しやすいようになっています。
Stempelといえば、ヘルマン・ツァップさん。Optimaをはじめ有名書体がずらりと保管されています。

このあとで訪問したKlingspor Type Foundry(クリングシュポール活字鋳造所)は晩年Stempelが買収したので、Klingsporの活字・母型もすべてそろっています。

こちらはSabonの母型棚。手組用のSabonはStempelから発売されたんですよね。

開くと過去に鋳造されたリストがでてくる。Sabonは何度も鋳造されたよう。当時から人気があったんだと思います。

Sabonの母型。

他にも床にわりと無造作にオリジナルのパターン板が置かれていたり。凸型なので父型彫刻用のパターンと思われます。
でもよくよく見ると

これUniversのオリジナルですよ!!!こんな床に無造作に置かれてるなんて。

最後はステンペルさんのプレート。こういうものもちゃんと残ってるのがすばらしいです。

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Gerstenbergの場所はこちら

ダルムシュタット駅はフランクフルト中央駅から電車で約20分。ダルムシュタット駅からGerstenbergは徒歩で15分程度。
火曜日と金曜日の10:00–12:00の間のみオープンしていますので、訪問する際はご注意ください。事前にメール等で予約しておいたほうがベターかもしれません。

次は「2. Klingsporのミュージアム」に行ってきました。


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ドイツのタイポグラフィ・デザインレポート

2019年2月に訪問したドイツのタイポグラフィ・デザイン関連施設のレポートです。
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