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【Inspire文章】辞める時に会社のほんとうの姿が見えるよね、という話

先日、こちらの記事を目にして、とても共感し、僕の経験(友人からの相談事例など含む)を振り返りつつ、退職マネジメントについて備忘録的に文章を記述していこうと思います。なお、上記ブログから引用する箇所も多く、事前に読まれることを強くオススメします。

退職(別れ)こそ、その会社の『会社たるもの』を示す最後で最大の見せどころ

「会社が本当に社員をどう思っているか」「辞めた社員がその会社のことを何と言うか」は辞める時の対応によってだいぶ変わるなーと感じる場面がありました。
退職時の対応は、会社の(主に社長や役員、管理職など、のですが)価値観がそのまま反映されるタイミングです。

僕もこれまで2社を退職し、現職は3社目ですが、退職者に対する対応はやはり千差万別でした。僕の経験(友人からの相談事例など含む)も踏まえていくつか事例をあげていこうと思います。

1.いつでも帰ってこいよ、これまでありがとうな!

100名規模のIT企業に勤務していた友人の話です。うつ病を発症し、自己嫌悪や希死念慮に苛まれる最中、『ちょっといいか。お前辞めるんだってな。もしよかったら腹を割って理由を教えてくれないか』と社長自ら話す場をセッティング。

その時の内容は、上記ブログに記載がある以下とほぼ同じだったようです。

・しっかりと自分の退職理由を聞いてくれた。
・その上で、本当にこの会社でやりたいことができないのか、問題の解消は退職以外ではできないのかを一緒に考えてくれた。
・それでも退職したいという旨を理解した上で、残念だけど一緒に働けてよかった、ありがとう、と伝えてくれた。
・これから何かあったらまた一緒に働こうと伝えてくれた。

当時、友人はうつ病になったことで会社に対して憎悪や怒りの感情が強く渦巻いていていたものの、この社長の真正面から友人に向き合う対応に感激してし、やっぱりこの社長の元で働けて良かったなと、思ったようです。

2.「うつ病って弱いやつがなるんじゃないの」

これは僕が休職(現職ではありません)し、復職しようとしたときに社長からかけられた言葉です。『完全な状態』じゃないとウチはベンチャーだし復職は認められない。とのことでした。

ただ、直属の上司は最後まで『うつ病なんて誰でもなる病気だから、徐々に慣らしていけば良い』と社長と闘ってくれましたし、休職中も定期的に自宅の近くの喫茶店に来てくれて、お互いの近況を報告しあったり、逆に業務的な相談をしてくれたりと、丁寧にサポートしてくれたことは大変ありがたかったです。

業務的な相談をしてくれた、というのは上長なりの配慮があったのだと思います。相談内容としては『離れてみて、客観的にウチの会社にある問題点って、どこだろう。君だから視えるものがあると思っているから、教えてくれないか。』といった内容でした。僕が伝えた意見で、その後、経営陣で話し合われ採用されたものがあったことは、僕にとっても嬉しいことでした。

しかし、やはり『うつ病って弱いやつがなるんじゃないの』。という考えをもった社長の元ではもう働けないと、退職を決めました。

3.上長と部下の間で仲裁に入る

ある日、上長の機嫌が悪るく、理由を尋ねると、『急に部下(アルバイト)が辞めると言い出して、勝手すぎる』とのことで、怒っていたようでした。

僕はそのアルバイトに声をかけて、個別に話を聞いてみました。

どうやら元々夢見ていたアトリエを開設することが出来そうで、このチャンスを逃したくなく、申し訳ないけど辞めたい。

とのことでした。でも、辞めるならすぐやめろと言われ、アルバイトさん自身としては『ちゃんと皆にありがとうを伝える機会も与えてくれない会社なのか…』と悲しみに暮れていました。

上長の『職責を果たしてから辞めるべき』という考えと、部下の『夢を果たすチャンスを逃したくない』という想いが衝突してしまったようです。

僕はこういった中間管理職的なポジションにおかれた場合に、6:4くらいで現場の人間の立場になって物事を考え、意思決定をする、または上長と交渉するようにしていました。

なぜならば、上長には組織として大きな権限が与えられており、その人がどんな人であれ、上長というだけで『強さ』を担保されているからです。

故に、それと同等レベルの思考や想いを抱えて交渉に臨まなければ、権限によって、現場の想いが無かったものにされかねない。と考えており、現場びいきのスタンスと取っていました。

その後、上長に部下の事情を伝え、渋々納得してくれました。最後は、ありがとうと上長からもお礼の言葉もあり、アルバイトさんも同僚に対して退職理由とこれまでのお礼を伝えることができ、スッキリとした気持ち退職することができたようでした。個人的にもお礼を言われて、僕自身も大変気持ちが良い『お見送り』になりました。

人を大事にしている組織かどうかは、退職プロセスで可視化される

気持ちよく退職できたな、色々不満もあったけれど良い会社だったな、これからも応援しよう。と思える会社は、想像するに以下の内容は実施しているように思います。(前述した内容と重複する点も多いですが)

1.退職の本当の理由をしっかりと聴く

2.自社が至らなかった点、退職を考えるきっかけになった事象を聴き、改善できないか、を対話する

3.それでも退職の決意が揺らがない場合は、これまでの感謝を伝える。

4.早めに全スタッフに対して辞める旨を伝え、退職日までにこれまでと変わらず仲間として働こうという意思を表明し、行動化する。(これは本人も上長も)

※ここで大事なのは、コミュニケーションの態度や対応をこれまでと変えないことです。極端にコミュニケーション頻度を下げたり、対応が冷たくなったりする場合もあり、退職者自身が罪悪感や居心地の悪さを抱えたまま退職することになってしまう畏れがあります。

※早めに伝えることが大切なのは、同僚や退職者の心理的ケアの時間をとれる、業務的な引き継ぎ時間をしっかりと取れることで、サービスの質の担保、オペレーションの安定化が図れるという点です。そして、退職者と同僚間の別れの時間をしっかりと確保することで、これから関係性を続けていく接点を生み出せる点にあります。

5.経営者含め、送別会を開催し、見送る

※こちらは会社によるかもしれませんが、従業員の勤続年数などに応じて、『する/しない』の対応差をつけるよりは、等しく送別会を催し、見送ったほうが良いと考えています。もちろん、長年貢献したスタッフには少し豪奢な送り出しを企画するなどはあって良いと思いますが。

退職マネジメントが上手な会社は採用力だけじゃなく、定着率も向上する

負の評判、善の評判…どちらもどんどん加速して伝わっていきます。
リクルートはよく退職マネジメントがうまい、と言いますが、退職時に「この会社よかったな、好きだな」と退職者が思うことで、退職者はその後勝手に会社の宣伝役に変身してくれます。それだけではなく、よい取引先になってくれたり、また出戻りで入社してくる、なんて効果もあります。
逆に退職マネジメントが下手な会社は、労働市場においてどんどんファンを減らしていきます。しかも元社員の友人という最も採用に近そうな人から会社への印象が悪くなっていきます。

上記で重要なのは、会社の宣伝、というのは割と『オフライン』で生じるケースも多く、SNSなどのオンラインでは観測しずらいという点です。『本当に美味しい店はこっそり友人にこっそり教える』のと同じで、『実はあの会社はね…』という話しはオフラインで行われるのだと思います。

だからこそ、気持ちよく退職してもらうことは大事だと考えます。

また、退職者を見送る同僚たちは、『退職者への会社としての対応、経営者としての対応』をよく見ています。丁寧な対応をした場合は『自分が辞めるときも同様にしっかり対応してくれるんだろうな』と想像し、これまでより会社や経営者への信頼感が増すでしょうし、対応が雑であれば、その逆の効果が生じることは言うまでもないでしょう。

退職は当事者も経営者も同僚も辛いものだからこそ、しっかりと対応を

このように、退職者への対応の良し悪しは巡り巡って自社を上に押し上げることにも、押し下げることにもなります。

スタッフが退職するというのは、組織にとって大きなストレスを与えます。それを良いパワーに変えていけるのかどうかは、退職時の対応が大きく影響するものだと考えています。

世の中、数多の組織が存在し、様々な退職の物語があるのだと思います。できることなら、退職することになるとしても、今よりも素晴らしい『退職体験』を提供できる組織が増えることを、願ってやみません。

おまけ

僕が新卒で入社したのは、小規模なベンチャー企業でした。その数年後、マザーズへの上場を果たし、その際、上場を祝したパーテーィーを開催しました。参加者はアルバイト含めた全社員。

その壇上で、社長が『特別に感謝を示したい相手がいます。サワコさん(仮名)壇上へ来てくださいませんか』と、唐突なご指名。

サワコさんは、アルバイトのわたしが何故?とドギマギしながら壇上へ上がりました。

そして社長が言いました。(※セリフはうる覚えです)

『皆のおかげで上場が出来た。本当にありがとう。そして、よく頑張った。ただ、僕は創業した初期からアルバイトでずっと働いてくれたサワコさんに特別な感謝を抱いています。目立たない仕事だけれど、彼女がいたことで私は頑張れました。アルバイトという立場は関係なく、私個人からサワコさんに感謝を伝えたい。皆も、目立つ仕事ばかりに気を取られて、地味でも大切な仕事をしてくれている同僚に感謝するように。サワコさん、本当に5年間支えてくれてありがとうございました。』

サワコさんは、泣いてこう言いました。(※セリフはうる覚えです)

『アルバイトという立場だから、なんかこう、上場されたときも私はアルバイトだし、そんなにお役に立ててないのかな、でも上場したときは、いつも働かれている社員の方々の努力が報われたと思って嬉しかったんです。私もこの会社好きですし(笑)。ただ、こうやって社長からこのようなお言葉をいただけて、本当にここで働けて良かったと思っています。家庭の事情で辞めることになりますが、これからも、皆さんの成功を祈っています。ありがとうございました。』

僕が見てきた中で、最高の退職体験を、サワコさんはしたんじゃないかと思っています。





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