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「この世界の片隅に」 感想


今、なんでこのタイミングでと思うかもしれないけれど、たまたま「この世界の片隅に」の良いレビューを見つけてしまったので、今日は私もその映画の事について書こうと思う。

あの映画は、正直凄かった。
凄かったという言葉だけでは足りなくて、詳細に未熟な語句を並び立てながら言葉を紡ごうとしても、結局「凄かった」という一言に帰結せざるを得ないくらい、とんでもなかった。

最初は普通に昔の話として始まり、当時人々がどのように過ごしていたのか、近所の人との関係、恋愛、家族、友人、そのような日常を詰め合わせたような物語として始まる。
勿論、当時と今の私たちの生活は似ても似つかないので、共感できるところもできないところもあるのだけど、情動を揺れ動かすイベントというものは、きっと人間である限り時代を問わず共通なのだろう(そうでなければ、私たちは平安の短歌を読まない)、画面の中の主人公と共感しながら、心を通わせていく。
時折、所々挟まる戦争の描写以外は、何事もなく日常が過ぎていく。

あれは、どこだっただろうか。いつから流れが変わったのだろうか。詳しいことはもう朧げで覚えていない(見返したくても衝撃が強すぎて、未だ怖くてあれから一度も見返せていない)。
主人公の人生が、戦争によって変えられてしまったのが、わかった。


衝撃だった。
今まで近くにいた主人公が、急に遠くへ行ってしまったような。私をそのまま引っ張って、崖の下に落ちていったような。そんな衝撃だった。
ただ只管衝撃で、泣いたのか泣かなかったのかさえ覚えていない。

飛行機の上だった。日本に帰る飛行機の上で、機内の映像サービスの中で偶々見つけて、見たのだった。
隣に誰が座っていたのだろうか、覚えていない。辺りは暗かった気がするから、もしかしたら就寝の時間に入っていたのかもしれない。

呼吸が浅くなり、頭が嫌にクリアだった。
機内ではほとんどの時間寝ているというのに、あの時だけは全く眠れず、日本に着いてから沢山寝た。
もう一度見たかったが、怖くて見れなかった。

日本で、いや日本に限らず誰かにこの経験を話しただろうか。親には? 友人には? もう覚えていない。
覚えているのは、あの帰国の時に東京の友人と映画の話になって、拙い言葉で衝撃を伝えた事だけだ。


とんでもないものを見てしまったと思った。
確かこの映画を見る直前に「Dunkirk」という戦時中の映画も見たのだけれど、「この世界の片隅に」より明らかにスリリングな映画にもかかわらず、衝撃は後者の方が圧倒的に大きかった(もちろん「Dunkirk」も良い映画です)。

私の戦争映画のおすすめ、トップに躍り出た。

本当は、戦争映画ってあんまり好きじゃないんだ。バイオレンスだし、知っているべきだとは思うけれど、それを楽しめるほど私は痛みに鈍感でいられない。大抵構成は同じである事も、戦争映画をあまり見ない理由にあるのだろう。

だけど、「この世界の片隅に」は戦争映画じゃない。戦争映画じゃないけど、戦争を一番よく描いている。
だって戦争に関わったのは、主人公にように戦争に行かなかった人が多いから。戦地での兵士の戦いよりも、戦時中の日常の方が、私たちには縁があるはずなんだ。

ただ、自分と縁がありすぎて、その分、戦争で潰された人生がまるで自分のもののように感じられてしまったのが、痛かった。
向こう一ヶ月は沈んだし、今もう一度見れないのは、自分がその衝撃に耐えられる自信がないからだな。

だから、「いつかもう一度」と思ってAmazonプライムのウォッチリストには入れてるんだけど、ポップアップされるたびに「今じゃないな」って。
いつか、もう一度見られる日はくるのだろうか。

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