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サッカーはマイノリティを知る最良の教材だ―木村元彦『橋を架ける者たち』


1.在日コリアンサッカー人列伝

在日コリアンのサッカー選手たちの列伝である。

取り上げられた人物たちは有名無名問わず多彩だ。北朝鮮代表に選出された安英学(アンヨンハ)、梁勇基(リャンリョンギ)、鄭大世(チョンテセ)。かつて東京朝鮮高校を高校サッカー選手権ベスト4に導いたキム・ミョンシクとリ・ドンギュウ。育成制度の確立や安英学たちの代表選出などに尽力した在日朝鮮サッカー界のボス、リ・ガンホン。京都朝高の一員として高校選手権に出場し、のちにヘイトスピーチへのカウンター活動を自主的に行った李普鉉(リーボヒョン)。そして在日コリアンのみで構成されたサッカークラブ、FC KOREAである。

僕が在日コリアンのサッカーに関心をもったのは今から20年ほど前の小学生時代にさかのぼる。図書館から借りてきた河崎三行の『チュックダン!』を読んでからだ。

これはFC KOREAの前身であり、全盛期には「真の日本最強」を誇った在日朝鮮蹴球団の歴史を書いたノンフィクションである。

この本で僕は在日コリアンの存在そのものを知ったし、日本サッカーにこんな隠れた歴史があるのかとおどろいた。自分の中で読んだサッカー本のベストイレブンに入るぐらいの本だ。

その後追加で在日コリアンとサッカーについて調べたわけでもなく、なんとなく頭に引っかかる程度だったが、今回この本を読んで在日コリアンとサッカーの関わりをより深く、より楽しみながら知ることができた。

2.かつて朝鮮学校が公立だったころ

現在、朝鮮学校は自動車教習所などと同じ私立の各種学校扱いだ。しかしかつて朝鮮学校が日本の公立学校だった時代がある。

戦後各地にできた朝鮮学校に1948年、GHQの反共産主義(反共)政策の指示を受けた日本政府より朝鮮学校閉鎖令を出された。学校はみな強制閉校となる。

今だと通っていた生徒は日本人に混じって一般の学校に通えばいいし、嫌なら朝鮮半島に行けばいいみたいな言論が関係各所から噴出しそうだが当時はそうならなかった。行き場をなくした生徒のため、暫定的に朝鮮学校の公立化が図られ、この措置は1955年まで続く。

さて朝鮮学校が公立だった期間に何が起きたか。全国高校サッカー選手権に朝鮮学校が出場する資格を得たのだ。現在でこそ出場可能であるが、かつては各種学校扱いの朝鮮学校は出場できなかった。そしてわずかな暫定期間中の1954年にベスト4の成績を残したのが東京朝高(当時は東京都立朝鮮人学校)である。

そもそも朝鮮学校が公立学校だったという事実や経緯を僕ははじめて知った。当時の東京朝高の選手で本書に登場するキム・ミョンシクとリ・ドンギュウは、まったく違う道を歩むことになる。ミョンシクは日本に残り続け、ドンギュウは北朝鮮に渡り有名サッカー解説者として天寿をまっとうした。このコントラストも在日コリアンならではの人生であり、文中には出てこない葛藤を感じさせる。

ドンギュウは高校卒業後、東京教育大(現・筑波大)に進学しサッカー部に入った。同期には関西大学サッカー界のレジェンド監督である上田亮三郎さん、ドンギュウの世話になった後輩には森保一さん(日本代表監督)を筆頭に多くのサッカー人材を育成した今西和男さんがいる。

上田さんはドンギュウのことを「今でも本当の親友」と言っている。他にも在日コリアンのサッカー人と強い交友関係や、交流はなくとも尊敬しあう関係で結ばれた日本人はたくさん出てくる。

よく異なる背景を持つ者同士でも「話せばわかる」なんて言われているがその通りなのだろう。その反面「我々はやはり直に接しないと相手の背景も何もかも想像できないのでは」とも思ってしまう。。誰もかれもが特殊な背景を持つ人たちと繋がりを持てるわけではない。だからこそ読書などを通じて擬似的に接した気持ちになって想像力を鍛えてくのだと思う。

3.FIFAだろうがCONIFAだろうが

CONIFAという国際サッカー団体がある。決してFIFAの親戚ではない。FIFAに加盟してない、できない地域や民族のサッカー協会が加盟している団体だ。

この団体が主催する世界大会がCONIFAワールドフットボール・カップ(CWC)である。FIFAに加盟してないとワールドカップには出場できない。でも俺たちも立派な代表だ。そういう思いを持った地域や民族が一同に介して世界一を決める。

僕はFIFIワイルドカップを思い出した。ドイツのクラブであるザンクトパウリが「ザンクトパウリ共和国」と称して開催地となり、FIFAに加盟してない地域を集めて行った世界大会だ。こちらとCONIFAは何も関係なさそうだが、おそらく発想は引き継いでいるはずだ。

このCWCに出場したのが在日コリアンで構成されたクラブであるFC KOREAだ。この本では彼らが出場した2016年CWCの模様がレポートされている。

CWCは本当におもしろい大会だと思う。木村さんのレポに書かれた温かい雰囲気はもちろんのこと、ワールドカップの出場資格があろうとなかろうと「サッカーをする」という点においては皆同じようにボールを蹴り、応援し、交流している。

僕がサッカーにのめり込み、大好きであり続けてる理由は、サッカーを通せば行ったことない地域、見たことない人々のことも理解し想像できるような気がしてくるからだ。CONIFAとCWCはまた一段と僕の想像力を広げてくれる存在であるし、今後も開催され続けてほしい。

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