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笑いの前に、面白いの前にもっと大切なトークの極意―藤井青銅『トークの教室』


1.なぜあのラジオパーソナリティのトークは上手いのか?

 「面白いトークとはなにか?」、「そもそも面白いって何だ?」。そういったことがこの本を読むと何となく見えてくる。「面白いトーク」といってもビジネスに役に立つトーク、いわゆる「ビジネストーク」ではない。

 著者の藤井さんは、放送作家として数々のラジオ番組に携わってきた。ラジオを聴いたことのある人はお分かりだろうが、ラジオでは時間の短い長いに関わらず必ず「トーク」が存在する。パーソナリティが一からしゃべるフリートークはもちろん、リスナーからおたよりに対するコメントもトークだ。

 多くの人々が定期的にラジオブースでトークをすることはまずない。しかし今はポッドキャストやYouTubeなどの配信が盛んな時代だ。また日常会話においても、ただの雑談ではない「面白いトーク」をしたい人はきっといるだろう。

 藤井さんは、ただの放送作家ではない。ラジオの世界において圧倒的巨人である伊集院光やオードリーにラジオデビュー時から関わってきた。特に、オードリーの若林さんのラジオの資質を藤井さんが見出したことは有名な逸話だ。他にも藤井さんが放送作家をつとめた芸能人は、ウッチャンナンチャンや松田聖子など多岐にわたる。

 様々なパーソナリティが話せるようになる原点やコツが本書にはつまっているのだ。

2.笑いがなくても、オチがなくても

 「面白いトーク」とはどんなトークだろうか。ぱっと思い浮かびやすいのが「すべらない話」だ。自分が持ってきたトークで他の参加者を笑わせる。「すべらない」とは「面白い」に言い換えられる。そして「面白いやつ」というのは「笑いのとれる奴」と今の僕らは無意識に刷り込まれているように感じる。

 しかし「面白い」が「笑える」だけではないことはよく考えたら自明の話である。藤井さんも面白いが笑いだけではないことを丁寧に説いている。

 語源というのはどれもコジツケの感があるのですが、「目の前(面)」が「パッと明るく(白)」感じるから「面白い」、だと言われています。たしかに「そうだったのか!」とか「すごい!」は目の前がパッと明るくなる感じ。笑いもそうです。
 ですから、笑いというのは「広い意味での面白い」の中にある「狭い意味での面白い」だと思った方がいい。芸人さんは目の前の人に笑ってもらいたいから、そこにこだわるのはよくわかります。けれど普通の人ならば、あまり「面白い=笑い」に縛られると、身がすくんでトークなんかできなくなります。

藤井青銅『トークの教室』p30

 もちろん笑いが起きて場の雰囲気が良くなることは素晴らしいことだ。でも笑いがないから面白くないというのは、「笑わせられる=面白い」という図式の呪縛にすぎない。

 もう一つ、面白い話と密接に関わるものに「オチ」の存在がある。日常で誰かの話を聞いているとき、つい「で、オチは?」と思ったり言ったりすることがあるだろう。僕もそうだ。

 だが藤井さんは「トークは、途中の話が面白ければオチはなくてもいい。もちろん、あってもいい」と述べている。落語を知っている人ほどオチを気にしない。なぜなら落語のオチはいいかげんなものが多いからだ。また噺の途中で切り上げるケースもある。つまり途中の話が面白く区切りがよければオチを気にする必要はないのである。

 もっと言えば僕らには「面白いトーク」をしようとする以前にできなければいけないことがある。女性アイドルのラジオ番組の放送作家を担当した彼は、トークが上手くなることに関して次のように述べている。

 そうやって番組を三ヶ月もやっていると、彼女たちはしだいにトークが上手になるのです。いえ、面白いことを言うとかそういうことではありません。日常にあったことをわかりやすく語ったり、自分の気持ちをちゃんと自分の言葉で言えるようになる。誤解がないように言葉も選べる。なんだそんなこと・・・と思うかもしれませんが、人はこれが意外にできないものなのです。

藤井青銅『トークの教室』p42

 人間は誰しも自分の体験や気持ちは人に理解してもらえると無意識に過信していると僕は思っている。だから自分の体験や気持ちを受け手目線で考えて伝えることは意識して訓練しないと難しい。居酒屋にふらっと入っておしゃべりするようにラジオでしゃべることは簡単じゃない。

3.共感を生むバルーンを作ろう

 結局、人はどうしてトークをしたいのだろう。面白いトークができるようになりたくなるのだろう。藤井さんは人がトークを求める理由を次のように書いている。

 結局のところトークは、自分が喋ったことを相手に共感してもらい、できればそれで楽しんでもらいたいのだと思います。

藤井青銅『トークの教室』p232

 共感とは同意だけではない。藤井さんはトークを「バルーン」に例えている。話し手がふくらましてふわふわ漂うバルーンをみんなで共有し、それがほわっと消えた瞬間「なんか面白かったね」という感想の思い出だけが残る。トークの原点はそこにある。

 確かに話をしていて共感されないときほど辛いものはない。同意が欲しいわけじゃない。ちゃんと「聞いてるよ」というサインが欲しかっただけなのだ。だが人間という生き物は、自分が少しでも関心のない話には露骨なまでに共感を示すのが下手になる。だから今の僕は自分が話したい話題を話す相手をかなり吟味している。失敗したくないからだ。

 そんな僕にとってポッドキャストやラジオでしゃべる機会があることは、非常にありがたい。特にポッドキャストは自分で配信しているので、考えたことをふくらませてバルーンにして外に放流し、どこかの誰かに聞いてもらうというプロセスが確立されている。ときには直接感想をもらいうれしくなったりする。

 しゃべる配信をしている僕にとって本書は、自分のしゃべりを点検したりメンテナンスするために必要な本だ。これからも何か機会があるたびに本棚から手に取ることになるだろう。

◎本書のリンク

https://amzn.to/49F70Kl

4.つじーについて

◎ポッドキャスト「本棚とピッチのあいだ」
僕が配信しているポッドキャストです。

◎三角山放送局「コンサドーレGO WEST!」
僕が2回にゲスト出演したラジオ番組です。ラジオ番組や音声配信に関するご依頼は、fn.cle9cle@gmail.comまでお待ちしております。

2023/11/20放送分の告知ツイートhttps://twitter.com/sankakuyama762/status/1726437123145007483

2024/2/26放送分の告知ツイートhttps://twitter.com/sankakuyama762/status/1761949277931307274

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