見出し画像

マイホーム事前準備テスト、完敗(東京⇄岐阜の遠距離婚夫婦、家を買う#2)

↓こちらの記事の続きです。でも、この記事から読んでも多分楽しめます。

思いつきで訪ねたショッピングモール内の住宅相談カウンターには「空席あり」の札が掛かっており、声をかけると20代後半ほどの女性が親切に対応してくれた。

カフェのような店内には4人掛けのテーブルが並び、テーブルの間はプライバシー保護のためかコロナ対策か、私の身長より高いパーテーションでしっかり区切られている。

すでに別の夫婦が真剣にスーツ姿の男性と話し込んでおり、先客がいることに何だかホッとしながら案内されるまま着席した。

座るなり「こちらのシートにご記入ください」と渡されたアンケートには、「希望の入居時期」「理想の家のイメージ」「土地の有無」「世帯年収」など、こちらの本気度を伺っているかのような質問が並んでいる。

希望の入居時期…?イメージ?
確かに必要な情報ばかりだが、「ちょっと覗いてみるか〜」なんて気持ちで着席した私たちは心の準備ができていない。
「こんなことまで聞かれるのか!」と驚きながらコソコソ相談してアンケート用紙を埋めていく。

「土地?ないよね?」「ないない!」
「両親の援助?援助ってお金を貰うってこと?そんなことあるの?」「よそではあるらしいよ。うちは無いけど」「うちも無いけど」
「頭金ってなに?」「最初に払うお金のことじゃなかったっけ…?」
「どんな家がいい?」「….。」

案内してくれた女性が離席してくれて助かった。
この会話を聞かれたら「出直してこい」と言われても文句は言えない。

アンケートを埋めて分かったことは、家を建てる前に多額のお金や土地を準備している人がそれなりにいること、年単位で計画している人も珍しくないこと、そして自分達が本当に何も考えずにここに座っているということだった。

形式はアンケートだが、これは立派な「マイホーム事前準備テスト」である。
0点に近いと思われるアンケート用紙を受け取った女性は、それでも笑顔を崩さず「まずは、家を建てるために借りられる金額を試算してみましょうか!」とまさに私たちに必要な第一歩を示してくれた。
それを求めていました。ありがたや。


当たり前だが、家を建てるには土地が必要である。
私たちは土地と住宅の両方でローンを借りる必要があり、それらの合計金額が年収の6〜7倍に収まるように試算をしましょうとのことだった。

住宅ローンの仕組みが説明された穴埋め式のプリントに、女性がバチバチと電卓を叩きながら数字を記入していく。

「お二人の今のご収入をベースとするとローン上限はこれくらいで〜」
「年齢的に35年のローンが組めますので〜」
「利息も仮にこれくらいとしますと〜」
「こちらが上限となります!」
「月々の返済額はこれくらいですね!」

隣のブースに収入などが伝わらないように、数字はすべて「こちら」と言いながらプリントを指して説明してくれる。

しかし、そこに書かれたのは見たことがない巨額な数字だ。
空欄が一つ埋まるごとに目の前がクラクラして、体調が悪くなりそうだ。

ローン上限は予想をはるかに超えていたが、これは私たちが35年間健康に共働きを続けられることが保証されたパラレルワールドの数字だ。決して信用してはいけない。想像しただけで手汗が出る。

「こんなに大きな金額は借りられません」
幸いにも夫婦の心が一致したため、まずは現在払っている東京と岐阜の家賃の合計金額を上限としてイメージを膨らませましょう、という話になった。


そうすると次の問題は、土地と住宅にかけるお金のバランスである。

しかし、もちろん私たちは岐阜県の土地の相場なんて知らない。

マイホームなんて想像したこともなかったし、夫婦とも実家はアパートなので「自分達で住みたい場所を選び、住みたい家を建てる」なんて想像したこともなかった。
すでに建っている住宅の中から最善を選ぶのが、私たちにとっての「住宅選び」である。

途方に暮れる私たちに対して、カウンターの女性は借りられる金額に合わせてハウスメーカーをいくつか提案してくれた。
ハウスメーカーは家を建てるのが主な仕事だが、土地を持っていない場合は土地探しから付き合ってくれるらしい。
私たちはもう本日何度目か分からない「へぇ〜〜〜」を発した。へぇボタンがあったら3回くらいカンストしている。


大量のパンフレットと情報を抱えて帰宅したその夜、私はX(Twitter)にこう投稿している。
「軽い気持ちで住宅相談カウンターに行ったら、予算と候補のハウスメーカーが揃ってしまった。え…建つの?建つの?」

そう、いつの間にか議題は「家を建てるかどうか」から「どんな家をどこに建てるか」に変わっているのである。

「もう少し話を聞いてみようか」の「もう少し」を確実に引き出して、次のステップに踏み込みかけた足をガッツリ掴んで離さない。
それが住宅相談カウンターの手法だった。見事。

こうして、マイホームに向けた情報収集が始まったのだが、これが怒涛の「東京⇄岐阜往復生活」のスタートでもあることに当時は気づいていなかった…。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?