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東京⇄岐阜の遠距離婚夫婦、家を買う#1

2023年1月、岐阜県にマイホームを建てた。

この文章も入居に合わせて買ったダイニングテーブルの上で書いており、自分で言うのもなんだけど「いい家が建ったなぁ」と思っている。

しかし、2年前の自分に「あなたは来年家を建て始めて、再来年には岐阜に永住している!」と伝えたら「いやいや、勘弁してくれ!」と叫ぶだろう。

なぜなら当時の私は、仕事のために単身東京に住み始めてまだ1年も経っていなかったのだ。


2年遡って2021年の秋。
当時の私たちは東京(妻)・岐阜(旦那)で遠距離婚をしており、1ヶ月に1回は片方がもう一方の家を新幹線で訪ねる生活をしていた。

会う時は最低でも一泊、長期休暇ももちろん一緒にいたため、どちらかの家で過ごす時間は、将来どちらの土地で家族が再集合するかを決めるためのお試し期間だったように感じる。

私は正直言って東京での生活がかなり気に入っていた。
やりたい仕事や行きたい場所がたくさんあったし、運転が苦手な私にとっては徒歩と公共交通機関で好きな場所へ行ける東京は貴重な土地だった。

そのため、旦那が東京に滞在する時は一緒にスーパーで買い物したり、不動産屋の張り紙でアパートの賃料をチェックしたり、東京での「生活」をイメージしてもらえないかとあれこれ試みていたのだ。

一方で岐阜で過ごす週末は、遠距離婚を始める前の生活とほぼ同じだった。

東京と岐阜で家賃が二重にかかるため二人で住んでいたアパートは引き払っていたが、旦那は同じ駅の近くに安くて広いアパートを見つけていた。

いつものスーパーで食材を買い、何度も行った店でランチを食べて、常連となったカフェへ行く。カフェの店員は、この夫婦の片割れが実は東京に住み始めたなんて絶対に気づかなかっただろう。


岐阜で過ごす一泊二日には、まるで東京生活なんて最初から無かったような時間が流れていて、だからこそほぼ最終の新幹線で東京に帰るときは、現実にグイッと引き戻されるギャップが強かった。

新幹線の眩しくて静かな車内は、あれこれと考えてしまう時間がたくさんある。
「夫婦なのにどうして別々で暮らしているんだろう」
「大金を使って東京で一人で頑張る必要は本当にあるんだろうか」

終わりを定めないまま東京生活を始めたことに後悔は無かったが、旦那と早く一緒に暮らしたいという気持ちは常に抱えていた。


そして、旦那もどこかで同じ気持ちがあったのかもしれない。
遠距離婚が始まって10ヶ月ほど経ったある週末、突然「マイホームの相談カウンターに行ってみない?」と提案してきた。

マイホーム?…マイホーム!?

何の前触れもなく人生最大の買い物を匂わすワードが出てきたことで、驚きよりも不安が前面に出てしまった。

「家ってなに?買うの?建てるの?岐阜?まだ岐阜には帰れないよ?一年も経ってないし、リモートで働くなら会社の許可がいるし…。」
矢継ぎ早に質問する私を見て、逆に慌てたのは旦那だった。

「いや、まだ俺も全然買うつもりはないんだけどさ。知り合いが相談カウンターへ行ったら、家を建てるのに必要なお金とか、自分達の収入で建てられる家のスペックとか、色々教えてもらったらしいから。聞いてみるのもどうかなと思って。」


なんだ〜。そういうことか。
旦那がまったく本気ではないことが分かってホッとした。

そういえば婚約直前にも、デートで住宅展示場を回ったことがあった。最新のキッチン設備や、「来客用」という謎の用途で二つに分かれた玄関を見てキャッキャと楽しんだ記憶が蘇る。

今回も同じで、要は最近のマイホーム事情をちょっと覗いてみたいんだな。

そんな軽い気持ちで、岐阜県のショッピングモールにある住宅相談カウンターに行ったのは、運命なのか、それとも運の尽きなのか。


その日の夜、私たち夫婦の人生には「マイホームを買う」という選択肢が生まれていた。

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