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工房スナップ … 朱の色



顔料の朱


赤色の顔料として使われている朱は、天然では*辰砂 しんしゃ(朱砂、丹砂、丹朱)という鉱物から作られます。わが国では古代から産出しており、高松塚古墳や法隆寺金堂の壁画に用いられました。現在では採れないので、工業的に作られています。
( 陶器の辰砂は、銅を含んだ釉薬をかけ、還元焼成したものです。名前は同じですが、その原料.成分は異なります。)


根来塗は朱と黒の美しい対比が特徴ですが、朱の色味は様々です。


大まかに言うと、赤味の強い方から本朱(真朱 まそほ)、赤口(鎌倉)、淡口、黄口です。なお自分で色を調合する場合もあり、色味は千差万別になります。ですので、目安というかおおよその区分です。私の仕事では赤口が多く、かつて関西の方では黄口が好まれたようです。


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                   黄口の四つ椀(骨董品)


漆の朱色には微妙なところがあり、漆は決して無色透明ではなく、茶色味を帯びています。そして、仕上がってから時間が経つと、漆が透けてきて透明に近くなり色味も変化します。私の作品はできたばかりは本朱(やや暗い赤)ですが、数ヶ月で赤口に落ち着いてきます。(その後はさほど変化しません)




歌われる朱


器に限らず歌の世界でも注目されます。人々は、朱色に、何か特別な力を見ていたのでしょうか?少しご紹介します。万葉集に「真朱 まそほ」は詠われています。



真金(まかね)吹く 丹生(にう)の真朱(まそほ)の色に出て 言はなくのみそ   我(あ)が恋ふらくは
〈意味〉鉄を(ふいごで)吹く丹生の地の赤い土のようにあらわには 言葉にしてないだけです、私の恋しい思いを


万葉人は、切ない片思いだったのかもしれません。目に鮮やかな真朱は、心をも揺さぶったのでしょう。そういえば、朱漆塗りの縄文土器が、日本のあちこちから出土しています。古から朱は愛されてきたようです。時代を経て、江戸の俳人も朱を詠みました。


朱にめづる 根来折敷や 納豆汁       与謝蕪村



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「朱にめづる」は「朱色の美しい」という意味ですが、蕪村らしく絵画的な句です。写真の根来折敷に乗せたお椀には、白く湯気の立つ納豆汁を入れました。(納豆汁は冬の季語)

  



〈ひとやすみ〉


私の仕事場は赤坂という所で、丹那盆地にあります。「丹」も赤を意味する字なので、このあたりで朱が採れたのかもしれません。かつて朱は貴重な鉱物だったので、地名に残っている可能性があります。


仕事では、より良い朱色にたどり着こうと、私なりに努めています。数十年前たまたま探し出した場所でしたが、振り返ってみれば朱で結ばれるご縁があったのかもしれません。

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                    丹那盆地をのぞむ山々


     

                            


◎次回は「料理は発見 … 箸置き」です。

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