Neinzukaese

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女神の砦は鉄火場だった(後編)

⬛︎アタランタの戦術的特徴  試合内容に入る前に、双方の戦術的特徴をざっと示しておこう。  まずアタランタ。前編で述べた通り、彼らの基幹戦術はガスペリーニ監督の就任以降、すっかり旗印となったマンオリエンテッドなプレッシングにある。ただし、「最後尾の数的同数状態」を許容しない点は特徴的だ。ハイプレスの遂行に際して、何らかのギミックが試合ごとにデザインされている。3バックの敵に対しては前線を3名で、2CB+アンカーの敵に対しては前線を2トップ+トップ下にするといったように中央

    • 女神の砦は鉄火場だった(前編)

      ⬛︎序  中央駅からダラダラと長く続く坂道を登り20分ほど歩くと、中央駅前によくあるファストフード店や小綺麗な宿が姿を消し、朽ちた建物や荒れたままの草木が目に見えて増えてくる。よく言えば生活感のある、悪く言えば裏ぶれた空気を漂わせる住環境のど真ん中に、10日間ほど続けた欧州3カ国の旅の最終目的地が姿を現した。気が引き締まると同時に、中央駅に程近かった公式グッズショップで買い物をしていないことを思い出し、この距離を戻るのか…と、少しウンザリもする。  ゲヴィス・スタジアム。

      • いくつもの敗をかさねて

        「そろそろ、覚悟をするときかな、艦長」。  …追加タイムが5分に達する数秒前に、マティアス・イェーレンベック主審が試合終了を告げるホイッスルを鳴らす。ヴォノヴィア・ルールシュタディオンの虚空に響いたその音によって、自分たちがより厳しい状況に追い込まれたことを知ったヤン・ティールマンが、捨て鉢にボールを蹴り出した。彼の背中が物語るフラストレーションを感じながら、咄嗟に思い出されたのが、「機動戦士Vガンダム」の第50話にて、登場人物のひとりであるジン・ジャハナムが、周囲の人間

        • 「薬屋」のおおしごと〜ラインの赤黒に刮目せよ

          ◼️ブンデスリーガ開幕。首位に立つのは…  8月18日に開幕し、3節を消化した23-24シーズンのブンデスリーガ。先期、辛くも最終節で、しかも他力で優勝を勝ち取った絶対王者バイエルン・ミュンヘン(以下「バイエルン」)が、ドイツのクラブとしては異例の金額で、待望の「9番」としてイングランド代表のエースであるハリー・ケインを迎え入れたことによって、盤面上では万全に構築される一方で、先期の後半にネガティブな内情を露呈したことから、他クラブによるタイトル獲得の機運も例年になく高まっ

        女神の砦は鉄火場だった(後編)

          北海道コンサドーレ札幌のリーグ前半戦を振り返る

          ■序文:ようやく具現化された新たな「ミシャ式」  2023年のJ1リーグが前半戦の17節を消化した。北海道コンサドーレ札幌は、勝点26を積み上げ、8位で前半戦を終えた。初勝利まで4試合を要したことを踏まえると、この成績は上々だ。あと2勝2分で勝点は34、J1残留の目安となる勝点数に到達する。また、最下位だけがJ2に降格するという今期の特別なレギュレーションと、既に最下位の柏、および同率17位の湘南がいずれも勝点を12しか稼げていないことを踏まえれば、あと1勝1分程度でも十分

          北海道コンサドーレ札幌のリーグ前半戦を振り返る

          8 Minuten Traum

          ■これ以上ない最後の舞台。バイエルン撃破という「タイトル」  VARとの交信を終えたスヴェン・ヤブロンスキ主審の手が長方形を描き、次いでペナルティスポットを指差したとき、ドイツ屈指の熱量を誇るスタジアムは即座に沸騰した。  2番手のキッカーがペナルティスポットに向かう。固唾を飲んで、という使い古された表現が似合いこそすれ、そこにネガティブな重圧はないように見えたところに、現地ででなく、テレビ画面を通して試合を見ていた筆者は、このスタジアムらしさを感じた。大学受験の合格発表

          8 Minuten Traum

          Los pericos abandonados🦜

          ■残留は風前の灯火。苦しむエスパニョール  北海道コンサドーレ札幌以外に、いくつか定点観測するクラブを持っている。何となく思い立ったので、今回はそれらのひとつであるRCDエスパニョール(スペイン語での正式名称:Real Club Deportivo Espanyol de Barcelona)の話をしてみる。  切っ掛けは、18年の渡西時に彼らの試合を観戦したあと、ふらっと立ち寄ったバルで、構ってくれたペリコ(エスパニョールというクラブ、およびファン双方の愛称。純粋な字義

          Los pericos abandonados🦜

          2023年J1第5節 G大阪2-2札幌 所感

          ■布陣と試合概略  エンターテインメントとしは評価できる試合だった。アウェイチームが2得点を先取しホームチームが追いつく、という流れそのものもさることながら、過程に確かな戦術面での変化と、それをもたらしたベンチワークがあるからだ。とはいえ、起きていた現象そのものは両陣営の戦術面での未成熟度、あるいは構造的不安定さの裏返しであり、上位陣との力量差を示唆するものでもある。このため「良質」な試合だったかと問われると答えに詰まる。  さて、前節に胸のすく快勝を演じた札幌は、その前

          2023年J1第5節 G大阪2-2札幌 所感

          2023年J1第4節 札幌2-0横浜FM 所感

          ■布陣と試合概略  3試合を勝ち無しで過ごしていたホームチームが、キャンプからの帰還後初のホームゲームで待望の今期初勝利を挙げた。相手のプレイスタイルゆえにこちらの仕事が明確になった。すなわち、順位表上の数字とは異なる次元の要素〜即ち、サッカースタイルの相性が有効に働いた試合だったと思う。ボール保持の局面でなく、非保持の局面にこそ強みを持つチームは数あれど、他ならぬペトロヴィッチ監督のチームがそのような実相を帯びていることには隔世の感がある。  勝ったとはいえ、メンバー構

          2023年J1第4節 札幌2-0横浜FM 所感

          2023年J1第3節 新潟2-2札幌 所感

          ■布陣と試合概略  開幕からの2節を「負けなし」で迎えたホームチームと、「勝ちなし」で迎えたアウェイチーム。一方がJ1にいるときには他方はJ2に入ることが多く、特に00年台に入ってからは対戦自体がレアだった両陣営だが、札幌が「マンツーマン」を、新潟がそれをかわす低い位置からのパスワークを、というように、戦術的なアイデンティティを表現し合った結果、ボールが前後に行き交うハイテンポな内容の試合を演じた末、勝点1を分け合った。  さて、札幌のスタメンでは、誰もが待ち望んでいた小

          2023年J1第3節 新潟2-2札幌 所感

          2023年J1第2節 札幌1−3神戸 所感

          ■布陣と試合概略  振り返ることにストレスを感じる試合である。この試合自体の内容の悪さももちろんその理由のひとつだが、先期の同会場の同カードでアウェイチームが準備してきたプレッシングと、この試合でのそれとがほぼ同じものだったことも大きい。多少なりとも予測ができたかもしれない敵の対策に、いざ尋常にと勝負を挑み、わかっていながら玉砕したように見えたのだ。  さて、札幌は金に替わって荒野を前線に配置した。この点は、やはり前節の金のパフォーマンスの問題だろうか。ともかく、荒野はも

          2023年J1第2節 札幌1−3神戸 所感

          2023年J1第1節 広島0−0札幌 所感

          ■布陣と試合概略  3ヶ月近く続いたシーズンオフがあっという間に終わり、迎えた23年シーズンの開幕。広島が圧倒的に試合を支配し(意外にも、ボール保持率は札幌のほうが上だったというのは面白い)、札幌のGK菅野が再三の好セーブでチームを救うという、記事の見出しを付けやすい展開であった。しかし、先期の第33節に、しかも同じ会場で対戦している相手ということもあり、その試合からの繋がりを意識すると、いくつか興味深い点が見えてくる。追って詳述するが、広島は敗れた先期のホーム最終戦でのマ

          2023年J1第1節 広島0−0札幌 所感

          2023年の北海道コンサドーレ札幌に期待すること

          序~今期の札幌は降格候補  早いもので、Jリーグの開幕がこの週末に迫ってきた。22年のカタール🇶🇦W杯が、11月から12月にかけて開催されるという変則日程の恩恵で、Jリーグが11月初旬に閉幕したことによって、そのあとでタイ遠征を行ったとはいっても数週間長く休養期間があったことが、遠隔地を本拠とし、尚且つ極めて消耗の多いプレイスタイルを有する我が札幌にとって、助けになっていることを願いたい。  先期の札幌は、8月までの26試合でわずか6勝で勝点は28、試合数≒勝点数という状

          2023年の北海道コンサドーレ札幌に期待すること

          2022年J1第31節 広島1−2札幌 所感

          ■布陣と試合概略  「タイトル獲得」や「降格決定」など、クラブにとって何らかの節目になる試合の直後の試合は、往々にして何かが起きるものだ。二週連続でタイトルのかかったカップ戦のファイナルを戦うというなかなか珍妙な経験をした広島も、その「あるある」から、逃れることはできなかった。試合内容は、いかにも彼ららしく清々しい、外連味のなさが表現されたものだったが、果たして、それは札幌の良さも引き出すことになったかもしれない。  奇しくも、同じくドイツ語圏国の国籍保有者に率いられた両

          2022年J1第31節 広島1−2札幌 所感

          2022年J1第27節 浦和1-1札幌 所感

          ■布陣と試合概略  本来であれば8月に予定されていたところ、浦和がACLに出場していたことで10月に延期された試合。この試合が予定通り行われていた場合、札幌は8~9月の4試合を続けてホームで戦うことはなかった。その4試合で稼いだ勝点が6であることを踏まえれば、浦和に感謝したくなってくる。果たして、札幌は押しの一手が出ない展開から幾分ラッキーな先制点を挙げ、その後の反撃を一点に留めて勝点を持ち帰った。この試合で残留が確定しなかったこと自体は残念だが、続く2節に、残留争いの当事

          2022年J1第27節 浦和1-1札幌 所感

          2022年J1第32節 札幌1−2福岡 所感

          ■布陣と試合概略  前節、あまりにドラマチックな試合を演じた札幌だが、それゆえに今節は困難な試合を演じることは予想できた。荒野が倒れ、高嶺も欠き、宮澤はまだ戻れない。そして、前節で死力を尽くして走り回った小柏は、やはり最良の状態ではなかったということか、この試合ではベンチからも外れた。  そして、この試合の前半には、今期これまで、どれだけ走っても次の試合では元気な姿を見せてくれていた札幌のミスター・リライアブル駒井が、ついに負傷した。そして、これにより不可避的に行われたベ

          2022年J1第32節 札幌1−2福岡 所感