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【産後レポ】NICUママ、強くなる。

妊娠糖尿と喘息の併発、さらに産科コントロールで睡眠薬を常用していた私の娘は、予定帝王切開の元、エコー時の推定体重を大きく超えて産まれてきました。切開した傷をだいぶ超えてしまった娘は出るまで3分ほど引っかかり、新生児仮死+一過性他呼吸を発症。そのままNICUベビーとなりました。出産当初からメンタルに爆弾が落ちた産後ママが強くなるまでのお話。

※私にはとても大きな事件でしたが、無呼吸発作は新生児の疾病としては珍しくないものです。もっと重病疾患児を抱えたママには大袈裟な表現に見えるかもしれないので、ご了承の上ご覧頂くようお願い致します。

娘の病状の原因について。

前回の帝王切開の時にはひたすら眠かったのであっという間に終わった記憶があったのですが、今回は辛かった。麻酔で気持ち悪くなり、呼吸も苦しいので吐き気止めを混ぜた酸素マスクを付けて頂きましたが、これが今度異常に喉が乾く。体は暑いのに冷や汗をかいて、早く終わることを願っていたので逆に鮮明に覚えています。
待ちに待った産まれる瞬間、何度も傷に引っかかり、娘が全然出てこなかったこと。産まれました!の声の後、産声が聞こえなくて周りの空気が張り詰めたこと。永遠にも感じた1分間のあと遅れて聞こえたかすかな産声。そしてろくに顔も見えないまま一瞬だけ触った小さな小さな手のひら。
「赤ちゃんちょっと産まれる時苦しかったのでこのままNICUに入りますねー」
淡々と伝えられるその声は死刑宣告にも聞こえました。医療ドラマから学んだ中途半端な知識の元、絶望的な気持ちのまま、手術が終わるのを待つしかありませんでした。
「お母さんの状態とてもいいですよー!」
私のことなんてどうでもいいの。誰か、誰か娘のことを教えて。誰でもいいから大丈夫だって言って。

コロナ禍で私とは面会謝絶の中、旦那くんはNICUにて娘と会えたそうです。たくさん写真と動画を送ってくれました。浮腫んで目の開かない娘がとても愛おしく、たくさんのコードに繋がれた姿がただただ痛々しかった。

『新生児仮死及び一過性他呼吸症候群』

①妊娠糖尿病による胎児の体重増加
②喘息による胎児の肺の未熟性
③睡眠薬の常用による胎児の過眠
④双角子宮による逆子
⑤④の弊害で産前正確な体重が測れない
⑥様々な合併症のための早め予定帝王切開
⑦帝王切開で子供の出産のストレス負荷が少ない

思い当たる節を数え始めたらキリがありませんが、それはそれは全て私のせいでした。診断されたこの二つの症状は原因を特定することが難しく、何の合併症もない普通分娩でも発症し得るものですが、それでも今でも、自分のせいでしかないと思っています。娘よりも自分の体を優先した結果呼吸が止まるほどの負荷をかけてしまった。母親失格だと思いました。死んでしまいたくなりました。お母さんのせいじゃないですよ、と言われれば言われるだけ辛かった。

無呼吸発作再発とチアノーゼ。

帝王切開後は、下半身にしっかり麻酔が効きベッドから全く動くことができません。本来の予定でいけば、生まれた娘をベッドまで連れてきてもらいそこで私はちゃんと娘に会える予定でした。NICUから動けない娘と、ベッドから動けない私は会う術がありません。他のママ達が愛しい我が子と再会を果たすなか、私は病室で一人ぼっちでした。個室にすればよかったけど、なまじ他のママと仲良くなってしまった手前余計みじめな気がして、私は平静を装いました。無事、私が娘と会えたのは、翌日痛む傷を引きずって行ったNICUの中でした。

「産まれた時には少し苦しかったですが、その後呼吸も安定してますし、明日にはNICU退院できますよ」
涙が出るほど安心しました。よかった、大したことなかったんだ。私の娘は他の赤ちゃんと一緒なんだ。よかった、本当によかった。翌日、新生児室で会えた時、NICUでの再会とは別の喜びがありました。みんなと一緒に並んで授乳できる幸せ。そんなとき、娘に二度目の無呼吸発作が訪れたのです。

ミルクを飲んでいた娘は、急にみるみる紫色になっていきました。ピーピーと警告音を鳴らすオキシメーター。サチュレーションは60まで下がりました。
「娘ちゃん!息して!思い出して!」
助産師さんにばんばん背中を叩かれる娘。不安を通り過ぎて、私はもはや現実味がなくその光景を見つめていました。
幸い、すぐに呼吸が復活し、数値も顔色も回復しました。私はその場で崩れ落ちて懇願しました。
「お願いです…娘をNICUに帰してください…」

NICUを退院させるのが怖い。

娘がNICUに再入院したその日、私はミルクもオムツも触ることができませんでした。それどころか娘に触ることすらこわかった。私が触ったらまた何か悪いことが起こるんじゃないか。もうあの紫色は絶対見たくない。こわくて、こわくて、娘に会うことすらこわかった。

それでも翌日から、少しずつ少しずつ、娘のお世話を始めていきました。少しだけ絞った母乳を運び、たくさんのコードを避けながらオムツを替えら震える手でミルクをあげました。
赤ちゃんはよく動くので、オキシメーターの接触が悪く、問題がなくてもよく警告音を鳴らすことがあります。その度、冷や汗と吐き気がしました。娘を見ている時間より、オキシメーターをみている時間が長い。娘を退院させたくない。

無呼吸発作自体には治療法がありません。もともと週数が低い新生児期に起こりやすいとされ、大体39週〜42週にはほぼ発作は発生しないと言われています。なので、無呼吸発作が起きてから一週間入院し、その間に発作が出なければ退院できる旨を先生から聞きました。ただ、全ての病気に確約はできません。絶対は存在しない。それが起こった時にどうすればいいのか。呼吸が戻らなかったらどうすれがいいのか。オキシメーターがない状態でどうやって病態の悪化を判断すればいいのか。

オキシメーターの購入も本気で検討しましたが、助産師さんにも、NICUの看護師さんにも、先生にも、全ての人に止められました。
「それではお母さんがオキシメーターに振り回されてしまう。上の子がかわいそうなことになるよ」
私は次女のことで頭がいっぱいで、いつのまにか長女をないがしろにするサイクルを作ってしまうところでした。またオキシメーターを新生児に長時間つけることは火傷のリスクがあり、そこまでする必要性は感じられないとのこと。
オキシメーターの導入は難しいことが分かりましたか、じゃあどうやって解決すればいいのか。サチュレーションが少しでも下がるたびに、連れて帰る恐怖は増すばかりでした。

NICUでは軽症の娘。

もうひとつ、NICUで感じていたことがありました。NICUではもっと早産、もしくは重度で産まれたお子さん達がほとんどで、娘は体重もしっかりあり軽症な方です。さらに一日3時間毎に搾乳を届けて感じたことですが、私がNICUにいると「お母さんは人員の一人」と感じられ、基本的に娘のケアが減るように思います。もちろん致命的な何かが起こればすぐ駆けつけてくれると思いますが、多少アラームが鳴ったり(サチュレーションが90を切るとアラームが鳴る)挙動がおかしくなっても、遠くから「お母さん娘ちゃん一回起こしてあげてください」「哺乳瓶を口から外して下さい」と声がかかるだけ。

3時間毎の授乳、なかなか出ないゲップ(ゲップをさせないと呼吸が詰まるので必須)授乳時間に合わせた搾乳、こなさなければいけない課題や検査、食事やお風呂の時間の指定など、睡眠時間がとれないなか、産科病棟から必死で通いました。忙しい看護師さんを捕まえては、これはどうしたらいいのか、どっちがいいのか、それでも疑問に思ったことはメモし、小児科の先生を見かけた時には直ちに捕まえて疑問を解消する。当初ガチガチにかたまっていた胸も柔らかくなり、自分で手搾乳して、少しずつ娘が直接おっぱいを飲めるまでに安定してきました。苦手だったゲップも、比較的スムーズに出せるようになってきました。日数を越えるたびに、私も娘も成長していきました。

一人でやるうちに自信がついた。

最大の懸念事項だった呼吸問題。

●顔色以外に、飲みながら「んくっんくっ」という鼻呼吸の音が聞こえるか注意する
●直前にお腹が空いて泣いていた時にはがっついて呼吸を忘れることが多いので、5、6口飲んだら一度哺乳瓶を離す
●ギャン泣きすると呼吸が浅くなるので新生児用おしゃぶりを用意、無理せずミルクも併用
●私以外が哺乳させる時には、10cc毎に一回口を離す

自分の中でルールを決め、連れて帰る恐怖は徐々に薄れてきました。そんな時、産科の助産師さんからこんな話を聞きました。
NICUの看護師さんが、
「音彩さんは毎日しっかりお子さんをケアしてるし手つきもいいからこちらが手を出す必要がない。帰っても安心だね」
と言ってくれていたと。

そこで気付いたこと。NICUの看護師さん達が、退院間近のお子さんとママに手厚くしてしまうと、いたずらに退院後の不安を煽ることになってしまいます。きちんとお子さんのケアを身につけて、自信を持って帰ってほしい。NICU卒業生の子たちは、その力があると判断された子達ばかりなのだから。改めて、私のメンタルケアをしてくれた助産師さんと、甘やかさずに私を信じてくれたNICUの看護師さん達に感謝しました。私はこの苦しい入院生活で、娘を家でも育てられる自信を身につけることができました。

今日、私はひと足先に退院します。娘も順調にいけば来週には退院できるとのこと。置いて帰るのはもちろん心残りではありますが、やり切った入院生活に後悔はありません。今後は面会でケアを続けながら、次女がくれたかけがえのない時間を、長女とゆっくり過ごしていきたいと思いました。

出産に関わってくださった全ての方に感謝を込めて。また読んでくださったあなたにも。ありがとうございました。

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