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りんご箱の秘密 #シロクマ文芸部

「りんご箱にはね、秘密があるんだ」

りんごが豊富になるりんご村では毎年
溢れんばかりのりんごが収穫できていた。
しかし今年はりんごが病気にかかってしまい
全てのりんごがダメになってしまった。
りんごが頼りのこの村ではりんごの不作は大問題
どうしたものかとみんな困り果てていた。

りんごを保管するりんご倉庫は村のはずれにあった。

村のみんながやる気を失っている中、ひとりの青年が
こんな時だからこそせめて自分ができることをやろうと
りんご箱を磨くためりんご倉庫へやってきた。

倉庫には沢山のりんご箱が積まれていた。
中を覗くと空っぽのはずのりんご箱になぜかりんごがコロンと一つ。
青年は不思議に思い、別の箱を見てみた。
するとそこには全く同じように一箱につきりんごが一つ入っていた。

空のはずのりんご箱全てに、なぜか決まってりんごが一つ。
また箱の外側には見覚えのないりんごの絵も一つ描かれてある。
青年はもしやと、次の日もまた倉庫に行ってみることにした。

次の日青年がやってくるとりんご箱の中にはりんごが二つ。
絵も一つ増え、描かれているのは二つのりんごとなっていた。

「りんごの絵と箱の中のりんごの数は一緒なんだ」

青年は次の日もまたその次の日もりんご倉庫に向かった。

どんどん増えていくりんごの絵と本物のりんご。
そのうちとうとうそれは箱の半分まで埋まった。
しかし箱の中のりんごは一体いつ増えているのか?
青年は気になって夜も眠れない。
そこでりんごが増える謎を突き止めようと思った青年は
りんご倉庫を一日中見張ることに決めた。

次の日、朝早くから倉庫に張り込むも
何も起こらないまま時間だけが過ぎていった。
とうとう夜になり、青年がウトウトしだした真夜中
どこからともなく小さな声と小さな光が現れた。
身を潜めながらそちらに目をやると、そこにはなんと大勢の小人たち。
青年はつい声を出しそうになったが、このまま静かに
小人たちの行動を観察することにした。

小人たちはまずりんご箱の中を一つ一つ確認する。
そしてみんなで話し合った後、箱に次々とりんごの絵を描いていく。
描き終えるとどこからともなくりんごが運ばれてきて
箱の中にそのりんごを一つずつ入れていく…
そういう流れだった。

青年はその一部始終を陰からじっと見ていた。

そして全ての箱を終えると、小人たちみんなすぐに
どこかへ消えてしまった。
小さな声も小さな光も、もうそこには何もなかった。
どうやら今日の作業は全て終了したようだった。

それからも毎日りんごはきっかり一つずつ増えていった。
何の変哲もなかったりんご箱も、今では沢山のりんごの絵のお陰で
とても華やかになっていた。

とうとうりんごが箱に納まりきらなくなってきた頃
青年は小人たちに何かお礼をしたいと考えた。
しかし小人たちが何で喜ぶのか、全く見当もつかない。
また自分には与えられるものが何もないことも
申し訳ないと青年は思っていた。
それでも青年は小人たちに「あるもの」を渡すことに決めた。

これが最後になるかもしれないと感じたその日
青年はまたもやりんご倉庫に隠れていた。
そして小人たちがやって来る前に急いでそれを置いた。

真夜中いつものようにやってきた小人たちは
箱の前に何かが置かれてあるのに気づく。
それは青年から小人たち宛の一通の手紙だった。

青年はりんごのお礼に手紙を書いた。
自分に何もないと思った青年は、正直に、そして心を込めて
小人たちへ手紙を書いた。

りんごが不作で村のみんながとても困っていたこと。
実は倉庫に隠れてずっと行動を見ていたことへのお詫び。
箱いっぱいに増えていくりんごがとても嬉しかったこと。
青年は小人たちへ、ありったけの感謝の言葉を尽くした。
手紙には「ありがとう」の文字がいっぱい溢れていた。

小人たちが手紙を読んでいる姿を陰からそっと見ていた青年だったが
突然意識が遠くなり、そのままゆっくりと眠りに落ちていった。

翌朝目が覚めると、そこに小人たちの姿はなく
青年が書いた手紙もなくなっていた。
反対に青年の手にはりんごの絵が描かれた小さな紙とりんごが一つ
しっかりと握られていた。

青年はもう姿のない小人たちへお礼をいい
それから村のみんなをりんご倉庫へと連れて行った。
箱いっぱいのりんごを見た村人たちは
ダンスをしながらみんなで声を出して喜び合った。
青年から話を聞いた村人たちは、小人たちへ感謝の意を込め
りんご倉庫の壁に沢山の小人の絵を描いた。

以降この村では毎年、りんご倉庫を囲んで
盛大に収穫祭が行われるようになった。

りんご村では今も「りんご箱の秘密」が
語り継がれている。


【おしまい】

***

長いのにお読みいただき本当にありがとうございました!
今週のシロクマ文芸部でした🐨


ではまた。


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