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(妊娠・出産の人類学①)医療化批判、そしてその先へ

今回から3本立てで、妊娠・出産の人類学を扱っていきます。
ベースとなるのは、こちらの英語のハンドブック(Handbook of Social Sciences and Global Public Health)のChildbirth and Birth Careという章。この章を書いている先生から直接教わる機会があり、授業で扱った内容も含めて紹介していこうと思います。

https://www.amazon.nl/dp/3031251091

ちなみに、章のタイトルがMaternity Care (マタニティケア=母性ケア)ではなく、Birth Care(バースケア=出産ケア)になっているのは、ジェンダーにとらわれない語彙として、母性ではなく出産という言葉を採用しているそうです。日本の看護の教育課程では「母性看護」という科目がありますが、対象にしているのは必ずしも母とは限らないこと、出産する人の性自認が女性とは限らないことを考えると、その名称変更は必要だろうなと思います。

やや話が脱線しましたが、妊娠・出産の人類学において重要なトピックを、今回から3回に分けてご紹介します。タイトルは微妙に変わるかもしれません。
①出産の医療化批判、そしてその先へ(今回)
②利用される出産、差別される出産
③出産の現場における暴力

このシリーズにおいて、非常に重要な前提として、出産と出産ケアにおいて、科学や数値は、ただの一面に過ぎないということがあります。「エビデンスに基づく医療」ということがよく語られますが、ケアの実践というのは必ずイデオロギーや政治・権力の影響を受けます。そうでなければ、世界中で同じエビデンスにもとづいて同じケアが行われているはずです。実際には、自宅出産率も帝王切開率も国によってさまざまです。
出産は、医学的で科学的な論理だけでなく、政治的、文化的、経済的な論理にもとづいているのです。

さて、今回は出産の医療化批判ということで、そもそも「医療化」とはどういうことか、この考え方に関連してどのような議論が行われてきたのかを紹介します。そして、ただ医療化を批判してきた時代ののち、現代では「医療」と「自然」のような単純な二項対立ではなく、医療もまた必要な要素の一つとして考えつつ、出産とケアの新しい考え方が模索されていることについて紹介します。

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