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「関西女子のよちよち山登り 5. 5 悩める登和子さん」(1)

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 ベッドに寝転びながら、カーテンレールにかけたTシャツを眺める。

「やっぱかっこいいな……」

 屯鶴峯の帰りに立ち寄ったスーパー銭湯で借りた、次郞のTシャツだ。洗って部屋に取り込み、ハッと気づいてしげしげと眺め、全体をよく観察しようとカーテンレールにかけて今に至る。

 次郞のTシャツは、山用とは思えないオシャレなデザインだ。思い返せば、屯鶴峯で見た彼の服装も上から下までなかなか良い感じだった……ような気がする。どのように、と詳細を問われたらうまく説明できないのだが、

「なんかあれや、シュッとしてたな」

 続いて自分の服装を頭に思い描いてみる。

 薄い長袖の上に半袖Tシャツを重ね、下は長ズボン。長袖とズボンは無地で、半袖Tシャツは白地の中央に木のイラストがどんと鎮座しているものだ。

 登山道具一式を買いそろえるときに一緒に購入した。タイミング良く少し安くなっていたし、山といえば木でしょうと、迷わず手を伸ばした。

 次郞のTシャツと比べて、こだわりなく安易に買ってしまった感がある。

「うわあ、しかも気づいてしまった」

 考えてみれば、このセット以外に登山用の服を一枚も持っていない。
 基本的に月に一度、ひとりで山に登るため、毎回同じ服を着ていてもまったく気にならなかった。

 記憶を辿り、これまで山で見かけた、同年代とおぼしき女性の姿を頭に思い浮かべる。

 そしてカッと目を見開く。

「あかん、みんなオシャレさんや!」

 登和子と似たスタイルの人ももちろんいたが、襟がないスタンドカラーのシャツを着ていたり、短パンになにやら洒落た柄のタイツを合わせていたりと、山でのファッションを楽しんでいる人がたくさんいた。

「なんでや、なんで山でもオシャレが求められるんや。山やぞ。オシャレなんて概念がない時代から人々を見守りし、山……ぞ……?」

 ああ~とうめきながら頭を抱えてベッドでのたうつ。

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