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「サミュエルソンかフリードマンか」経済の自由をめぐる相克 ニコラス・ワプショット著

 久しぶりに経済専門書を手に取った。「複合不況」宮崎義一、「資本主義の自壊」中谷巌の書のように理論経済と実証経済の歪を示唆してくれる。

 ポール・サミュエルソンとミルトン・フリードマンは、ともにユダヤ人でシカゴ大学で学んだ。ニューズウィーク誌で永年コラムでの論争を重ねた経済学の巨匠で、ノーベル経済学賞の受賞者。
 ハイエクとケインズの時代を経て、保守派でケインジアンとして「経済学」を著したサミュエルソン。ケインズの「一般理論」と共に経済学の教科書としての王道。一方、議論好きで革新的で貨幣数量説を主張するフリードマン。
 「貨幣は重要である」「貨幣だけが重要である」という論争は、財政政策と金融政策の是非と効果の論争であり、物価と失業率の安定目標への挑戦。
 権力欲に囚われた政治家は、彷徨うポピュリズムを追い求めて、緩和すれども引き締めの出口を示さない。選挙を勝ち抜くために、利己に囚われ利他なき「自分さえ良ければ」という行動に翻弄され経済学は迷走する。
 「FRB議長 バーンズからバーナンキまで」レナード・サントゥ著では、 インフレファイターと言われたFRBポール・ボルカーの金融政策を高く評価した。本書では、マネタリストの貨幣数量コントロールは失敗したが、金利コントロールは有効に機能したと位置づけている。
 また、歴代大統領の政権とFRB議長の金融政策を厳しく論じている。インフレと失業率に対して、小刻みで長期低金利政策からバブルを生み出したグリーンスパン、金融危機対策を見誤ったバーナンキ、財務長官サマーズ。
 英国サッチャー首相のインフレ政策の失敗で、マネタリストの金融政策が機能しないことが示されたと。
 フリードマンは、自由主義による小さな政府を主張するリバタリアン。シンプルな主張だが、貨幣は多様な手段で多層化され、流通速度で増減しコントロールが困難。理論展開は可能でも、政策展開には限界がある。ケインズの凋落から復権を大恐慌からコロナ危機までを解説している。

 本書は、金融論として財政政策にはあまり触れていないため、要因分析として側面評価と言えるかもしれない。財政と金融政策は共に重要で、政府の行き過ぎた肥大化は問題となる。歴史は繰り返されず、進化することを願う。
 名誉と権力に浴したサミュエルソンと、名誉と自由を求めたフリードマン。 金融政策の視点でまとめられた経済学史。エコノミストと称する人が深く息を吐き、考えさせられる書籍だと思う。

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