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萩尾望都の『学校へ行くクスリ』

前回、バラの根を頭にからませたフォンティーンのことを、
大島弓子の『草冠の姫』に出てくる桐子のようにたとえたのを、
しかし、私も引き合いに出すものが古いよな……と思っていたが、
同じように古い萩尾望都のコミックスをめくっていたら、それこそ桐子のような女の子が出てくるまんがに出合った。

『学校へ行くクスリ』――印象が薄かったんで、読んだことすら忘れていて、読み直していく間もオチも思い出せなかったものの、
ここに登場する女子高生、中川マユミは、主人公の少年の目には、ある日から突然頭に花が咲いて見える。
そして、その花が彼女の気分に従って満開になったりしぼんだりする。
心が沈むと頭の花もしおれてしまうのだが、それが、なんだかぼさぼさ髪だったヘンテコ少女(大学生だけど)桐子の姿に重なるのだ。
もちろん、桐子の頭には花など咲いてなく、むしろ、まだ花の咲いていない草冠をかぶっていた女の子だったわけだが、
マユミのいささか謎めいた行動や、寝坊して学校にやってくるところなんかは、ふしぎな雰囲気を漂わせていた桐子を思わせる。

実際、この作品は全体的に大島弓子の影響を強く受けていると思われ、
自分以外の人間が電化製品や鳥に見えるというシュールな設定や、結末近くで突然暴かれる真相(しかも、なかなかにあり得そうにない話)は、
奇想天外だった大島弓子の作風を彷彿とさせるものがある。人間関係も、やはり同じ大島弓子の『夢虫・羊草』に通じるものがあるとも言えるかもしれない。
それをどちらかというと無機的な絵柄の萩尾望都が描くのだから、かなり板についていない感じがあるが、
でも、この時はきっと、こういうものを描いてみたかったんだろう。

話は混乱した一時期を経て、少年がささやかな成長を果たすことで終わる。
少年は明るい朝の光の下で、多くの人がそれを現実だと信じる合意的現実に戻ってゆく。
それがいいのかどうかはわからないが、約束された物語の落としどころというものだろう。

ただ改めて読んでみると、自分としては、
「しっかり勉強してね」と言って息子にお弁当を持たせることだけに甘んじている母親には、
つまらないものを感じたし、
その日常をよきものと思い込んでいる少年の姿にも、もの足りなさを感じざるを得なかった。

しかも、この頭のてっぺんが薄くなったお父さん、とてもほかに女を作るようには見えないんだけど……。

画風と内容とがいささかしっくり来ずに、アンバランスなところがある作品だが、
それは物語世界の少年の心中と、ある意味合致しているということなのかもしれない。


『学校へ行くクスリ』<ビッグゴールド>1994年16号掲載。
プチフラワーコミックス『イグアナの娘』ほか所収。
掲載誌等の情報は、そのプチフラワーコミックスによる。

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