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美術展雑談『フェルメールと17世紀オランダ絵画展』

ドレスでんでんででんデン! と、遥かドイツ国ドレスデンから堂々やってきてくれました、みんな大好きフェルメール『窓辺で手紙を読む女』のお出ましです。噂のキューピッドくんに挨拶するため大阪市立美術館に潜入してまいりました。

まず、メトロポリタン美術館展のときにロビーにいたドロイドくんは残念ながら不在でした。どうやら未来世界に帰ったようです。次に会うときには青いネコ型ロボットになっていることでしょう。そのときはぜひ『ソノウソホント』だけくださいと、どうでもいいことを考えてしまいました、ごめんなさい。もしかしたら黄色い妹のほうになっているかもしれません。でも、ガチャ子にはならないでねとマニアックなことも考えてしまいました。本当にどうでもいいことで、これまたごめんなさい。

メトロポリタン美術館展のときのドロイドくんの勇姿。
もしかしたら金色の通訳ドロイドくん(声は野沢那智さん)と一緒に
タトゥイーンあたりで迷子になっているのかも知れません。
今度探してみます。

さて本展は興行に例えるならフェルメールの座長公演となるわけですが、脇に回るキャストもけっして格落ちなどではありません。レンブラント先輩やらメツーやら、17世紀オランダ黄金時代を築いたいかつい面々がドレスでん! と控えています。
入場して最初に待ち構えていたのは、テル・ボルフ『白繻子のドレスをまとう女』です。『父の訓戒』で描かれたのと同じお姉さんなので娼婦と解釈すればよいのでしょうが、サテンの優雅な膨らみと輝きをまとった品のある後ろ姿からは神秘的な美女を想像させます。目を離したすきに、実は振り返ってこちらを見て微笑んでいるのかも知れません。控えめなようでいて意地悪な美女なんて、好きに決まっているではないですか。とにかくこのしゃれた小品を一発目に持ってきたということで、この美術展は当たりだなと思いました。お高めの2100円のお代にも、文句は言わずにおきましょう。(前のフェルメール展は1800円でした。長期の貸し出しや昨今の情勢を考えれば、この入場料もやむなしなのでしょうね)

『窓辺で手紙を読む女』はダンジョンの奥深く、主役というよりラスボス然として登場です。修正前の模写作品と修正後の真作が、斜めに向かい合う格好で展示されていました。まるで「竜王が現れた!」「竜王が正体を現した!」といった趣向です。私ももう少しで世界の半分をもらってしまうところでした。危なかったです。

はじめてお目にかかるキューピッドくんは、なかなか可愛かったです。
静謐という評がぴったりのフェルメール作品にあっても同作品はマスターピースであり、たとえ作者の本来の意図を尊重しての修正といえど、やはりそのイメージを壊されたくないと思っていたのは私だけではないでしょう。その点、作品の価値を貶めるような結果ではなかったことに、安心しました。
たしかに現れた画中画は大きいです。作品の印象は大きく変わっています。
以前は無機質な壁を背景とし静寂の空間に溶け込んでいた若い女性が、キューピッドくんの存在によってよりはっきりと浮きだしたかのように見えます。同時に秘められていた彼女の思いが、まるでその瞬間に動き出そうとしているかのようでもあります。
さしずめ文芸小説として発表された本が、欠落していたエピソードを新たに加えて恋愛小説に生まれ変わったというところでしょうか。もちろん鑑賞者の好みにもよりますが、しかしその真価を大きく捻じ曲げるものではありません。主人公である女性の心の内を思い、共感する喜びが感じられる限り、やはり『窓辺で手紙を読む女』は名作であり続けています。
それにしてもキューピッドくんが隠されていたなんて、ロマンチックな話ではないですか。それが画商による恣意的な塗りつぶしであっても、この絵の持つミステリアスな魅力のひとつとなっていることに違いないでしょう。ともあれ波乱の道のりを辿ってきた名作の前に、わずかな時間とはいえ立つことができて感激いたしました。修正前と修正後、欲張りな私は、もちろん両方とも好きです。

そんなわけで、とても楽しい美術展でありました。
イタリアなんかのドラマチックなバロック絵画に比べてオランダは地味で暗い、なんて言っちゃいけません。黄金時代と称えられたことに、納得して唸るばかりの作品群でした。この際、2100円のことは忘れましょう。私はどうやらロマンチックとは程遠いようです、ごめんなさい。
キューピッドくん、じゃあまたね。いつかどこかで再会できますように。
Doei doei.


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