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欧州最新戦術トレンド 最終章「Provoking build up」

効率重視


モウリーニョが語る。
「ボールを保持しているときよりも、放棄しているときの方が得点の確率は上がるんだぜ。なぜならボールを持っている時に守備のことを考えている選手なんかいないからだ!!(ドヤッ)」


モウリーニョがレアルの監督の時に会見で「守備的なサッカー」と評された時に「いや、俺たちは1試合平均2点近くのアベレージを出しているんだ。これのどこが守備的だというんだ?」とグゥの根も出ない解答をしたことがあります。
カウンターサッカーが、ボールポゼッションして押し込むよりも得点が入りやすいとされる理由は、相手がラインを上げてくるのでゴール前が薄くなるというロジック。一瞬のうちに攻め込んでしまえば簡単やで、ということ。
半面、この頃のモウリーニョの弱点は、逆に引いてくる相手への対抗策がなく、ポゼッションさせられると途端に弱くなる。レアル最終年はそんな感じだった。カウンターサッカーにはスピードやフィジカル要素は大きな武器ですが、リトリートされるとスピードを活かせないのでトーンダウンしてしまう。このジレンマがありました。


ポゼッション×カウンター=最強?
ポゼッションにはポゼッションの良さはあるけど、カウンターの時の縦の速さは捨てがたいよな。これが2013年辺りから始まります。それまでのポゼッションとカウンターの2極論から、これが合わさった方が実はいいんじゃないか、という理論。水と油だったはずの関係性を合成しちゃいましょう。そんな戦術です。



ポゼッション×速攻

■BBC結成とアンチェロッティのポゼッション

モウリーニョ去った2013年のレアル・マドリードの指揮官に就任したのがカルロ・アンチェロッティです。

第1次レアル政権時のアンチェロッティと副官ジダン

モウリーニョが作ったカウンターサッカーの遺産を引き継ぐだけでなく、チェルシーやパリの時にもやっていたポゼッションの部分でも違いを生み出すことが求められていました。
そんなアンチェレアルの旅立ちなんですけど、開幕して直後にメスト・エジルのクラブレコードでのアーセナル移籍と、ガレス・ベイルのスパーズからの獲得が決まります。当初はエジルorディマリアだったんですけど、ハードワークできるのはどちらかでディマリアを残したということですね。そしてクリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマ、ベイルの3トップが結成されましたとさ。

BBC

「当初は、攻撃的なプレーヤーをひとりでも多くピッチに送ることを考えて、4-2-3-1を試した。しかし、中盤が2枚だと攻守のバランスが悪く、どうしても失点が多くなる。それもあって、中盤を3枚にした4-3-3を使うようになった。それ以降も、その時々の選手のコンディションなどに対応するため、試合によっては中盤を2枚にした4-2-3-1を使うこともあったが、基本は4-3-3だ。3人で構成する中盤の真ん中で使うのがベストだということもある」

アンチェロッティの完全戦術論
著者カルロ・アンチェロッティ ジョルジョ・チャスキーニ 訳片野道郎
発行 河出書房新社
264項

ロナウドとベイルという左右に最強のウイングを並べられる当時のレアルの事情。そのカバーをするためにトップ下を配置するより3センターの方がバランスが取れるという事情などなどですね。
そんな2013/2014レアルの基本布陣はコチラ。

ベイルがウイングに入ったことで、モウリーニョ期よりも縦には速い感じがありますが、この布陣にポゼッションを組合す手はずはどうか。

「ボールポゼッションによって主導権を握って戦うというのがひとつ。そして、ロナウドとベイルのスピードと突破力を活かすために、中央よりもサイドからの攻撃を主体にしているところが特徴だ。左右のサイドバックも積極的に敵陣に進出して、ロナウドやベイルが中央に入りこんだ時にはそのスペースを使ってサイドを深くえぐる。4-3-3は、サイドバック、インサイドハーフ、ウイングが連携してサイドを崩すメカニズムを持っているので、このチームには非常に適したシステムだ」

アンチェロッティの完全戦術論
著者カルロ・アンチェロッティ ジョルジョ・チャスキーニ 訳片野道郎
発行 河出書房新社
264項


これがレアルの必殺のビルドアップです。最も嵌められやすいSBのポジションに、最もボールキープ力に優れる選手を配置する。ディマリアとモドリッチなんですけど、さらにアロンソまで加わって低い位置で誰も獲ることのできない5バックを形成。ロナウドとベイルを中央に入れてビルドアップの出口にしてポゼッションを成立させる。これがアンチェロッティの作り上げたサッカーです。

今のレアルはまた特徴が違うので別の話になりますが、自らもボールを持ち運ぶことのできるディマリアとモドリッチをビルドアップで解放させたことがBBC爆発する火薬庫でもあったのです。



■ルイス・エンリケの作ったMSNとスペイン代表の問題点

アンチェレアルがデシマを達成した翌シーズン、ライバルのバルセロナも動きます。
監督にOBのルイス・エンリケを招聘。

そして、クラブレコードの1億ユーロでリバプールからルイス・スアレスの獲得。MSNの結成です。

最強とはこのこと

エンリケがやったMSNという尖り過ぎた個性を放つ3トップにイキイキプレーさせるためには、前線にスペースが必須です。なのでビルドアップとしては低い位置で起点を作って引きこもったところを一瞬にして刺す。そして開発したビルドアップこそが

まさかのアンチェのパクり!!
とにかくイニエスタにはガンガン運んでもらって、セビージャで王様だったラキティッチにも泥仕事をやってもらい、メッシとネイマールで速攻の起点となってスアレスで仕留める。構造はあまりにもパクリだったんでそれでいいんかと思いましたけど、もともとはメッシのゼロトップでシーズンインしたわけです。その前のシーズンでダビド・ビジャというストライカーが出たことでメッシの負担が増した。その解決策としてストライカーのスアレスを加えたわけなんですが、シーズン始まる前にそのスアレスに大事件が起きるわけです。

なんで噛みついた歯の方が痛むねん!!

まさかのバットマンと化したスアレスに4か月のサッカー活動停止処分となってしまい、バルサデビューが10月末のクラシコ。これではゼロトップ+スアレスの化学反応には期待は出来ず、エンリケが色々考えた挙句の策がアンチェをパクることだった。

ただエンリケの場合は、今でいう疑似カウンター的なところもあり、ビルドアップの位置も極端に低かったんですよね。CB補強せい!と言われるくらいマスチェラーノとの相性は悪かったのですが、なのでペップバルサ期のハーフコート完結型ではなく、ピッチ全面を使用するスタイルとなっていました。

このエンリケのスタイルは今季から率いるパリでも一緒でしたね。そしてスペイン代表でも。このスタイルには前線にストライカーが求められていて、なぜなら低い位置でビルドアップするゆえに相手はプレスを仕掛けるために押し上げてきます。その裏を突けよ!なので、FWはゲームメイクよりも野生の本能が求められるわけです。なのでエンリケのスタイルにおいてスアレスというのは物凄く重要な存在でした。ストライカーはもちろん、レイオフできるしスピードもフィジカルもありデコイ役もできる。こんなパーフェクトなFWはほかに見たことがありません。スペイン代表がワールドカップで微妙だったのは、ストライカー不在問題がデカかった。

基本はアセンシオのゼロトップ。左右はソレールとかオルモとかサラビアとか。ただストライカーではないよな。一応モラタもいたけど、スアレスのような存在感ではないので、ならゼロトップでティキ・タカやった方が勝てるか?で本大会挑んだのです。

スペインのビルドアップも、基本はIHのSB落ちは変わらず。ペドリはアルバの位置に下りてボールを引き出しては運ぶ。

ビルドアップまでの仕組みは良かったです。ただ、せっかくの疑似カウンターなのに、誰が仕留められるの?に陥って、コスタリカはスペースを空けてくれたんで楽に点獲れましたけど、ドイツ、日本、モロッコだと難しいですね。パリのジャパンツアーでもエムバペいなかったから同様の問題を露呈してましたけど、出口までは設計されているからこそ、ストライカーの存在は大切なのです。



■デ・ゼルビの起こした革命

疑似カウンターというのが言語化されビルドアップの形の1つとして評価されたのが昨シーズンのブライトンです。ロベルト・デ・ゼルビです。

まだ若い!

モウリーニョの言う「カウンターが一番点獲れる」理論と、ペップの「ポゼッションは負けない」理論のいいとこどりした理想形がブライトンです。高いポゼッション率で相手を誘き寄せて、引っこ抜けたらウイングのスピードを活かして一気に仕留める。

ブライトンの戦術に関してはいろんなところでやってるのでココで説明はしませんけど、ペップが評価しているように効率よく点を獲れる合理的なビルドアップは今後のトレンド候補です。実際にペップが昨シーズンの大一番であったアーセナル戦で疑似カウンターを発動させた辺り、ポゼッションサッカー及びポジショナルプレーにおける中心になりそうです。




■ビルドアップ×プレッシング

例外として、この低い位置でのビルドアップとプレッシングを掛けあわせたチームがあります。シャビ・アロンソ率いるレバークーゼンです。

シャビ・アロンソの設計はプレッシングをメインに、奪った際には相手を1枚1枚誘き寄せて速攻を決める。ブライトンがポゼッションに力を入れてるのに対して、シャビ・アロンソはポゼッションにこだわりを見せているわけではないということ。一度奪ったボールを素早く相手ゴールへ仕留めに行く。ブライトンは横を幅広く使いますけど、レバークーゼンの場合は縦で深さを取ってギャップ作って誘き寄せる。プレッシングの強度は高いですけど、奪う位置は低いんですよね。この時点で誘っている。

同サイドで奪いきってから、ここからのポジトラで全ての主導権を握る。

逆サイのWBが一気に上がり、3トップのニアサイド側が幅と深さを取る。そして主にフロリアン・ヴィルツですけど相手CBを引っこ抜くためにレーンを落ちる。ここで縦のギャップを作ることでカウンターを成立させる。少しモウリーニョチックあるカウンターの配置ですけど、裏に広大なスペースを生み出したいからトップの位置も下げてCB釣り出す。フランクフルト戦では長谷部が上手~くやられました。



自陣低い位置でのビルドアップが相手を動かすことによりカウンターを決めやすくなる、かつてのモウリーニョが合理的な法則として打ち出した手数を掛けない攻めが、ペップの言う勝つ確率を上げるポゼッションとの融合を遂に果たした感ありますね。ただこのビルドアップはまだ進化の途中です。今季、どんな進化を見せてくれるのでしょうか。




次回予告

「バルサの開幕新戦術の分析"ギュンドアンとの融合"」「レアル・マドリードfeat.ベリンガムのダイヤモンド」「セビージャを蘇らせたメンディリバルの戦術とは?」のどれか。真相は神のみぞ知る。


Thanks for watching!!

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