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【小説】連綿と続け No.48

航は侑芽からの連絡に
事態を知る。

メッセージのやり取りで、
航はすぐに誰の仕業か検討がついた。

航)アイツや……

その瞬間、
青筋を立てるほど怒り心頭になり、
拳を床に叩きつけた。

正也)おい、何やっとんが。怪我するぞ

航)これ終わったら、ちょっこし出てくる

正也)なんや急に……まぁ、きりもええし、たまにはリフレッシュも必要やちゃ!今日はもう上がれま

航は昼食も食べず自宅に戻り、
香菜に電話をする。
航から連絡が入った香奈は

香菜)航〜?どうしたが?

航)お前やろ。役所にメール送ったがは

香菜)メール?なんの事かわからんちゃ〜

航)嘘つくな!この前、母さんに見せたもんと同じやろ。何がしたいんや?俺を恨んどるなら、嫌がらせは俺にせいや!

香菜)航を恨む?私が?そんなわけないが〜。何の事かしらんけどぉ、あの子があっちにもこっちにもええ顔しとったさかい、天罰が下ったんやない?

航)は?侑芽はただ普通に仕事して、普通に人付き合いしとるだけやちゃ。とにかく今、お前のせいでえらい目におうとる。頼むから今すぐあれは間違いやったて連絡しろ!

香菜)ふ〜ん。ずいぶんあの子には本気ながやね

航)そらそうや。結婚も考えとる

香菜)へぇ。なんでうちん時は考えてくれんかったが?

航)大して付き合うてないやろ!だいたい俺は初めから乗り気やなかった。お前が強引に進めただけやったやろ

香菜)何言うとるの。やる事やっといて……

航)何年前の話をしとんが

香菜)あの時つけた傷、あの子知っとるけ?

航)なんのことや

香菜)覚えとるくせに。あの傷の事、あの子に言うたらどんな顔するやろね?

航)やめろ!脅すんか?たとえお前が何しても俺達は変わらんさかい、嫌がらせしてもムダや。それと、次なんかしたらただじゃ済まさんぞ

航は一方的に電話を切った。
険しい顔をしたまま寝室に入り、
木製のベッドボードについた古い傷に目を細める。

航)こんなん残すなよ……

ヤスリを持ってきて
その傷を必死になって消した。
そして侑芽にLINEを送る。

『あとで迎えに行く』

夕方、仕事を終えた侑芽は
役所の外で航を待っている。

すると見知らぬ女が近づいてくる
大谷香菜だった。
侑芽は香菜と会ったことがない。
だから知らない女が近寄ってきて少し戸惑っている。

侑芽)あの、窓口はもう閉まってますけど……

すると香菜はクスッと笑った。

香菜)あなたって、本当に天然やね!

侑芽)はい?失礼ですけど、どちら様ですか?

香菜)あぁ、そっか!そっちは知らんもんね?うちは大谷香菜!初めましてか〜

侑芽)大谷さん?失礼ですけどお会いしたことは……

香菜)会ったことはないちゃ。航とおるとこは見たけど

航の名前が出てきて驚く侑芽。
しかも航と呼びすてにしているから
親しい間柄ということだけはわかった。

侑芽)航さんのお友達ですか?

香菜)友達いうか……元カノ?

それを聞き混乱する侑芽。

侑芽)えっと……何か私に、ご用ですか?

香菜)さっき聞いたんやけど、井波の担当、外れたんやて?

侑芽)どうしてそんなこと……

香菜)あぁ、私から連絡したんやないよ?航からかけてきたんちゃ。ほら!

そう言って航からの着信履歴を見せる。

侑芽)どうして航さんが……

香菜)あれ?疑っとるの?

侑芽)会ってるんですか?今でも……

香菜)あぁ、この前ちょっこし会うたの

侑芽)この前って……

香菜)そうや!あの傷てまだある?

侑芽)傷?

香菜)ベッドボードの傷ちゃ!あれ、うちがつけたの

侑芽)……

香菜)航があんまし激しいさかい、この爪で知らんうちに引っ掻いてしもたみたいで!まぁ、そんだけ燃え上がってしもたんやねぇ。かんにんね?

香奈が派手なネイルをした長い爪を見せてくる。
それを聞いた侑芽は、
ベッドボードの傷を薄っすらと思い出し、
それが以前、香菜と航が付き合っていた時の痕跡だと知ってしまう。

気味悪さが込み上げ、
耐えきれなくなり、
香菜の顔を見る事さえもできない。

侑芽)ごめんなさい。私はこれで……

その場から逃げるように駆け出した。
駅に走りちょうどきた列車に飛び乗った。

今は航の顔も見たくない。
誰とも顔を合わせたくない。
そんな心境であった。

城端線の車内で
侑芽は人目を気にせず泣いた。

車内は空いていたが、
部活帰りの学生など
乗り合わせた客がすすり泣く声に気付き、
チラチラと侑芽を見ていた。

たまたま隣に座っていた老婆が、
そんな侑芽に気遣い声をかけてくる。

「あれまあ、どうしたが?大丈夫?泣かんで?」

その人は降り際に飴を渡してきてこう言った。

「どんな辛い事があっても、生きっしゃい」

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