レガシー(仮)新作落語

テーマ「男の隠れ家」

登場人物  広治(43)年齢の割にやや時代遅れな価値観、口調が特徴の男性。


レガシー。そう、この場所は私にとってまさに「成功の証」そのものだ。

私がこれまでの人生で何を成しえたか。あえてそれをここで語ることはよそう。大雑把な言い方をするのであれば私は成功者。
この空間を手に入れている時点でそのことはあなた方にも容易に想像がつくだろう。

しかし私がこの場所にたどりつくまでに苦労がなかったのかと言えばそうではない。ライバルたちに遅れを取らないように先手をうって行動したし、
ここで言うのも憚られるようなこともした。

しかし誤解しないでもらいたい。この地位を勝ち得るにはそうせざるをえなかったのだ。
整理券をもらって言われたとおりに順番をまつような愚かな真似は私にはできなかった。

私がここに座っているのは親父の影響も大きいだろう。親の七光りってわけじゃないよ。エリートとは程遠い存在。
しかし確かな腕を持つ職人であった親父の口癖は「ホンモノしか認めない。」だった。

昔気質で頑固な父親に、子供の頃こっぴどく叱られたことがあったな。中学校で携帯型の育成ゲームが流行った時だ。ペットが欲しかったが父親に言いださせず
我慢していた私は、母親にねだってその携帯型育成ゲームを買ってもらってこっそり遊んで喜んでいた。しかし父親にそのことが知れてしまい烈火のごとく叱られた。
「こうじ!きさん、命ばなんやと思いよるとや!そげん手のひらの上で思い通りになると考えよったら大間違いぞ!」そういうと親父は私を車の助手席に乗せた。
ついたのは知り合いの猟犬ブリーダーのところだった。「お前が育てたいヤツば選べ!ワシも母さんも手助けぐらいはすっけど、お前がしっかり責任持って死ぬまで面倒みるとぞ!」
ホンモノの代替なんてものに意味はないのだと心から理解した瞬間だった。そういえばカタブツな父親はインスタント麺も大っ嫌いだったっけ(笑)

私は普段大勢と仕事をするが、一人の時間を大切にしている。世の男性は野球や競馬、パチンコや、夜の社交場、いろんなところで憂さ晴らしするのだろうが、それじゃかえってストレスが
たまってしまう。人は一人でこの世にやってきて一人で去っていくのだ。一人になる時間が絶対に必要だ。家内にも内緒の秘密の隠れ家ですごくこの時間は私にとってかけがえのないものだ。
家内だってそういう場所をもつべきだとも思う。そう言うと家内は私には台所で十分よ、と言う。そんなものに金をかけるのはバカバカしい、自分で残り物を適当にみつくろって食事
をするのでじゅうぶんだと言うのだ。やっぱり男の浪漫がわかんないんだねぇ(苦笑)

レガシー。他に打ち勝ち、信念を貫き、孤高を求めた先に、手に入れることが出来たこの場所こそ私の レガシーそのもの。


そう、レガシー、そうレガシー、レガシー、レガ・・・」

シ――!!!!うるさいなぁさっきから!ラーメンくらい静かに食え!!ほんでさっき順番ぬかししてたやろ!ええ年して何しとんねん!」


「そう、ここは私の隠れ家。ラーメン一蘭。このカウンターの仕切りが私と外界を遮断するバリケード。

しかし私はこのかりそめのプライベート空間に少しばかり”コシツ”しすぎていたのかもしれない。」


(毎日21時からツイキャスのラジオ配信、にて新作落語を公開しております。現在、数日おやすみをいただいていますが18日から復活予定です。Youtube「ムーンパレスへようこそ」に過去ネタをアップしております。)

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